◆81
ギルド。
自由に生きる冒険者達が気の合う仲間と共に作る団体、集団。クエストと呼ばれる仕事依頼をこなし稼ぐ。モンスター討伐から護衛、物探しまで幅広い依頼がある中で、ギルドに合った依頼、ギルドの方針に合った仕事等を選び受注する。数えきれない程ギルドは存在していて、傭兵、商人、攻略ギルド等と看板を掲げるギルドも少なくない。
昔から国の影響を受けない組織、集団としてギルドや冒険者が存在していた為、王族、貴族、騎士団等からは存在を否定された嫌われ者として見られていた。
が、時代は刻一刻と変化する。
ギルド、冒険者の存在を心から受け入れ、頼る女王が、冒険者とギルドの巣窟と化したウンディー大陸に舞い降りた。
これにより今では国が、世界が冒険者やギルドの存在を認めざるを得ない。勿論まだその存在を否定する者もいる。
ギルドの印象を悪くする者達の存在が、いいギルドの印象まで塗り潰し、無所属の冒険者にまで影響する。
中でも最悪な、犯罪を具現化させた様なギルドがレッドキャップ。
今回、この街バリアリバルがデザリア王国の襲撃にあったのも、背景でレッドキャップが糸を引いていたからだ。
アスラン達、デザリア民は全てをあっさり語り、ウンディー大陸の女王セッカや他の者達が今後の事についてユニオン...ギルドの中心となる組織で会議している。
ユニオンは有名ギルドのマスター達や冒険者達で組まれた組織で、セッカ...女王直属的な存在。
しかし偉そうにしないのは、自分達はあくまでもギルド、冒険者の者。ギルドの為にユニオンへ所属しているだけ。という考えと、セッカはユニオンメンバー以外も頼るので、ユニオンが絶対的に偉い訳ではない。
今度バリアリバルとデザリアの関係等はユニオンに任せるとして、他の者達は街の修復作業に追われる日々。
民間人まで進んで修復部隊に参加しているのは、冒険者やギルドに普段助けられているからではなく、セッカの力に少しでもなりたくて参加しているのだろう。民間人にも平気で話しかけ、ちょっと眼を離すと誰の手伝いでもする困った女王様だが、そういった地位や種族を全く気にしない性格が人々の心を掴んでいるのではないかと、わたしは思っている。
国の事、街の事は悪いけどみんなに任せて...わたしは友人の元へ行かせてもらう事にした。
薬品の匂いが広がる建物。薬品の匂いと言っても、わたしが子供の頃に嗅いだ鼻を突き刺す様な匂いではなく、薬草等の匂い。
その中を進み、すれ違う人々はわたしの事等しらないと言うのに決まって挨拶をしてくる。
この建物、病院にいる人々の半数以上が、他人の心配などしている余裕がない存在ではないのか?怪我や病気を持っているからここに居る。それなのに他人に笑顔で挨拶を飛ばす...人間だけではなく、別の種族も。不思議だ。
魔女では考えられない行動に少々違和感を感じるも、これがこの世界なのだろう。
とにかく今は友人の元へ急ぐ。
病院の三階にある個室。
ノックを響かせドアを開き、わたしは2人の友人へ声をかける。
「やっほ、調子ど?」
ギルド フェアリーパンプキンのマスター ひぃたろ とサブマスターとも言える位置のプンプン。
このギルドはメンバーが2人しかいない。しかし世間では超大型ギルドや少数精鋭のエリートギルド等と言われている。誰がマスターなのかもハッキリしていない謎のギルドだが、過去にいくつも結果を出している事実から噂が生まれたのだろう。
マスターは半妖精、サブマスターは魅狐と、人間ではない種のギルドだ。
怪我の具合も身体の調子も良くなったらしいが、2人はどこか浮かない顔をしている。
わたし達...バリアリバルの冒険者とギルド、女王も勿論。
襲撃事件の後、目覚めたプンプンから全てを聞いた。
レッドキャップのメンバー、死体人形を操るネクロマンサー、またはパペットマスターのリリスがこの街にいた事。
リリスのお気に入りの人形モモカの事。
そして、リリス プンプン モモカの関係も。
この襲撃事件での死者はいないと思っていたが、デザリアのハクと呼ばれる人物が命を落とし、人形の素材に使われた事も知った。
死体を素材に人形を作り、死体を人形の様に操り、自身の身体も人形の様に縫い繋げる事が可能で、眼で、眼球でプロパティやステータスが変わる。
厄介すぎるディアと、底が見えない戦闘力を持つリリスを相手に、プンプンは現在操れるディアの限界を越え、暴走した。
モモカの件もあったからだろう。しかし、今回の件でプンプンは悩み続けている。
自分がこの街に、みんなの近くに居るのは危険ではないのか?多くの人を傷付けて、ごめん。で済ませていいハズがない。と。
ひぃたろも、プンプンを、大切な人を助ける為、自分が半妖精である事を明かした。と言ってもクチで言った訳ではなく、妖精の力と人間の力が混ざりあって得た2つのディアを使い、プンプンの暴走を止めた。この事で自分は嫌われたのではないか。と思っている。
半妖精はどの種族からも嫌われ、否定され続けている存在。ひぃたろもクールに見えて地味に人を気にするタイプだ。悩むなと言う方が無理だろう。
しかし、あの事件...襲撃から約1週間が経過し、みんな今まで通り...いや、今まで以上に距離を縮めて接しているのも事実だ。
これは2人が何で誰であろうと関係ない。街を守ってくれた事への感謝等の気持ちからだろう。それに気付いていても、やはり割り切れない何かがあるのか...。
「...怪我もよくなってきたし、体力も回復してきた。ボク...街を出ようって思ってたんだ」
黄金色の毛と瞳、本来の姿に戻っているプンプンがゆっくり自分の考えを、思いを話始める。
「でも、街の人に沢山迷惑かけて、沢山助けてもらって、お返しもしないで街を出るのは違うなぁ って思ったんだ。リリスもモモカもボクがどうにかするし、ボクがどうにかしたい。またこの街にリリスがくるかも知れない。でも...」
リリスはプンプンの眼も身体も欲しがっている。この街にプンプンがいるならまた来る確率も確かにある。
「...ボクはこの街にいたい。ボクはみんなと一緒にいたい。これからも迷惑かけるかも知れない。でも、この街が好きでみんなが好きなんだ...だから」
「んあー、あーあーあーあー」
ここでわたしは無理矢理プンプンの言葉を止め、クチを挟む。
「難しい話はわかんない、でもプーはここにいたい。ハロルドは?」
ローズクォーツの髪をユルく束ねた半妖精はあっさり答えた。
「プンちゃんが残るなら私も残る。私はプンちゃんの力になれれば、助けになれればそれ以外どうでもいい」
この2人の関係が、たまに羨ましく思える。
「おっけっけ、そんじゃセッカんトコ言って話して、後はまぁ...何かいい感じにさ。この街に残りたいって気持ちがあるなら理由なんて付ける必要ないと思うぞ。自由の国なんだし」
迷惑をかけるかも、とか、誰々がいるから、とか、そんなのどうでもいい。
この街にいたいと思ったならいればいい。それ以外に理由も意味も必要ないんだ。
それがこの街、この国、この大陸のいい所だとわたしは思う。
自由すぎる のはダメな事だけど、自由 なら問題ないと思うし、それを無理に抑え制限しないのがセッカだ。
2人の気持ちを知ったらきっと喜んでくれると思うぞ。
「んじゃ、わたしはセッカに軽く連絡入れとくけど...ここ呼ぶ?行ける?」
「ボク達が行って話すよ」
「おっけっけ、んじゃ2人が後で行くって事だけ伝えとくね。わたしは街修復隊に戻りますぜ」
軽く話して、あっさり帰る。
これを約1週間続けて、やっと2人の今の気持ちが少しだけ見えた気がした。
まだ一緒にいれるなら、わたしは充分嬉しいぞ。
「んじゃ...復活したら2人も手伝えよー?特にプー!3割くらいブッ壊したのは狐だぞ!」
「ごめんなさい。てか、ちょっとはボクに気を使ってよエミちゃん!今心が弱ってるのにー!」
「エミリオに気遣いなんて言葉ないわよプンちゃん」
普段通りな会話をして、わたしは病室を、病院を出た。
みんなが修復作業をしている場所までオートパイロット状態で向かう中、頭ではレッドキャップの事を考えていた。
レッドキャップ...別に何か因縁がある訳でもなく、知り合いがいる訳でもない。
でも、わたしもレッドキャップを無視する気がなくなった。
国が、世界があのギルドを放置するならそれでいい。
わたしは放置する気はない。
ワタポを泣かせた。
プーを泣かせた。
ハロルドの大切な人を狙ってる。
下手をすると半妖精というレア度に涎を溢れさせ狙うかも知れない。
守りたい。助けたい。
その気持ちも確かにある。
でも、一番強いのは...ただ ムカつくんだ。
何をしたいのかわからない。
何をしているのかもわからない。
正直何を企んでいるかなんて、興味もない。
奪って奪って奪う。
自分達は最後だけ手を出して、それまでは誰かを使って...このやり方にわたしはムカついてる。
港街でセッカに罪を押し付けた時も、シケットの朝を奪った時も、今回も。
最後の最後に手を出して、いい所だけ奪って消える。
マテリア狩りもレッドキャップがデザリアを使って行い、マテリアは全部奪って消えた。
放置していてはレッドキャップの思い通りになるだけだ。
連中は頭のネジがブッ飛んでる。黄金魔結晶を使って世界をブッ壊すくらいの事を考えてもオカシクない。
そんな事、世界が許してもこのわたしが許さない。
この世界には綺麗な事より汚い事の方が確かに多い。
けど、汚い事はセッカ達 偉い組が何となしようと頑張ってる。
お前等の手なんて誰も求めてないし、世界をブッ壊すつもりなら、わたしがお前等を先にブッ壊してやる。
わたしは、お前等の全てが気に入らない。
「調子に乗るなよ赤帽子...」
「調子に乗るなよ青髪の魔女」
ついクチから漏れた言葉へ予想外の言葉が返された。
言葉が返って来た事にも驚いたが、その言葉にも驚かされる。
青髪の魔女。
確かにそう言った。
背後から投げかけられた言葉にわたしは数秒停止し、ゆっくり振り向く。
「...誰だよ」
見た事もない女性がそこに立っていた。誰だよ と呟き観察し、そして気付く.....この女は人間ではない。
黒い髪、肌は若干灰色、頭には短い紫色の角が2本、強膜は黒で
これは...悪魔の特徴だ。
「久しぶり、青髪の魔女」
「久しぶり?...どこで会った?」
「シケット」
シケットで会った悪魔...姿は見ていないがシケットで会った
「レッドキャップに悪魔がいるとはね...。何しにこの街に来たの?」
「別に。ただ近くを通ったから挨拶しに来ただけ」
ここで一旦クチを閉じ、そしてゆっくり言葉を繋げる。
「私の名前はナナミ、元人間で今は悪魔。いつ必要になるか解らないけど...魔女の魂は必ず必要になる。その時、魔女を狩るのが私の仕事」
「魔女なら他にも沢山いるだろ、なんでわたしを狙うんだよ。うぜー」
「一番魔力が多いから。今はそのオモチャで魔力を抑えてるけど...大魔女の魔力よりもキミの魔力の方が多い事くらい私にも解る」
「あっそ」
「そう。必要になったら貰いにくるから、それまでは死なないでね」
「その時はわたしがお前の魂を貰ってやんよ。悪魔なら...心臓だったかな?」
「そう。楽しみにしてる」
微笑みを残して、レッドキャップの悪魔 ナナミは赤黒い靄に包まれあっさり消えた。
本当に挨拶しに来ただけ。
この時わたしは心の底から安心していた。今あの悪魔がわたしを本気で狩りに来ていたらワンパン、ワンキル、瞬殺、0針、一確、だっただろう。
人間が悪魔堕ちしたとは思えない程、高いステータスを持った悪魔がわたしを狙ってる....
「...コワッ」
こんな時だけは自分の能天気スキルが有能スキルに変わる。
狙われているならそれでいい。
狩りにくる時までにアイツより強くなってればいいだけだし。
そう簡単に考え、わたしは修復作業をしているみんなと合流した。
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