◆80



「で、どうするよ」


わたしはビリビリと殺気立つ狐を見て考える。しかし作戦という作戦は全く思いつかない。それもそうだ。

こんな危険度S2越えを倒さず黙らせる高難度クエスト、集会場のリストを隅々まで見ても存在しないだろう。

しかし...不思議と何とかなりそうな気になるのは1人ではないからだろう。


わたしの言葉にみんなが首をひねり声を曇らせる中、1人の女性がハッキリとした声で言う。


「私がやる」


ローズクォーツ色の長髪を左サイドで束ね、瞳に確かな色を燃やす。フェアリーパンプキンのマスターでプンプンの相棒の半妖精、ひぃたろ。


「やるって...1人であの化け物をどうにかするつもり!?」


ギルド白金の橋 マスター リピナがひぃたろ...ハロルドの言葉に返事をする。ここでジュジュ、アクロス、アスランがAGI全振りかと思う速度で会話に無理矢理割り込む。

今の判断は素晴らしい。

プンプンの事を化け物と言われて黙っているハロルドではないし、わたしも今のは若干ピクついた。

こんな所で喧嘩をしている暇はないが、作戦会議をする時間は多少ならある。

なぜなら、今暴走するプンプン...プーの相手を猫ズをリーダーに数人の冒険者がしているからだ。

ゆりぽよは背にある太刀ではなく弓で、りょくん、るーは大剣、どこから湧いて出たのかダークヒーロー的マスクを装備する烈火は太刀。

冒険者からは双棍のハコイヌ、カタナの烈風、ギルド アクロディアメンバー達と白金の橋のヒーラー達、ヘヴィボウガンの雷撃弾で雷を撃ち落とすセシル。

みんなが時間を稼いでくれているからこそ、わたし達は作戦会議する事が許されている。


しかしまぁ...あのプーが力を暴走させる程の相手がこの街にいたとは驚いた。


「とにかく一旦落ち着け、時間を無駄にするのは一番ダメだ」


個人個人が自由に発言する、作戦会議とはとても言えない状況を天才商人ジュジュがまとめる。今ある情報をキューレが素早く言い、わたし達は考える。


プーが纏う雷は触れればダメージを受ける。

攻撃するにしても素早く武器を引き戻さなければ感電する。

雷を使って俊敏性を爆上げしているが疲労からなのかキレが甘く、わたし達でもギリギリ反応できる。

耳の感知力で隠蔽系は通用しない。


等々、色々と情報は集まったが...正直どう対応すればいいのかわからない。

ここでジュジュがハロルドへ「1人でプンプンの雷に対抗できる何かがあるんだな?」と言うと、ハロルドが無言だが強く頷く。


「よし。10秒後、今戦っているメンバーとチェンジする。1人でやれる何かがあるとしても、俺達も助けたい気持ちは同じだ」


ジュジュの言葉にアクロスが言葉を繋げる。


「少しでもいいからプンちゃんを助ける手助けをさせてくれ」



アクロスの言う通りだ。

最初はプーだと気付かなかったかもしれない。でもそれを知った今、ここにいる全員がプーを、プンプンを助けたい。と思っている。

少しでもいい、一緒にプンプンを助けさせてほしい。


「わかった。でも絶対に無理はしないで」


そう言い残しハロルドはプーの元へ急いだ。

作戦と言える作戦はないが、何とかなる。いや、ハロルドが何とかする。全てはハロルドに任せわたし達は出来る限りのサポートへ。全員同じ想いを武器に戦闘へ参加する。















雷へ雷を衝突させ相殺、またはパリィ。

雷属性は風以上の速度がある為、迎え撃つなら同じ雷属性で対応するのが一番いい。雷魔術を使える者は魔術で、銃を使える者は雷撃弾で何とか大ダメージだけは回避している。

が...プーを助ける為の戦闘が開戦して約10分。魔力切れが近い者や弾の残量に歯噛みする者、ダメージ蓄積で今にもバテそうな者と、状況は最悪。

ハロルドはプーのターゲットを取り続けている。何を狙っているのか全くわからないが、あの眼は何かある。その可能性に賭けて、わたし達は出来る限りのサポートをしているのだが...。


「...プーこんな強かったのか」


苦笑いし呟いたものの、笑っている余裕がない程、強すぎる。

殺すつもりで挑んでも相当辛い相手になるだろう。ダンジョンのボス、ハルピュイア クラスの実力か...それ以上か。

あの力を完全に扱えればプーは最強クラスの冒険者になるだろう。

そして、そのプーとほぼ対等に戦う半妖精。その姿を見てジュジュが声を広げる。


「プンちゃんを一瞬でもいい、停止させれないか!?」


誰に対して言ったのか。そんなもの考える必要ない。今の言葉は全員に対しての言葉だ。

プーの動きを一瞬止める...簡単に言ったが相当難しい。普段からプーは足を止める事なく動き続ける戦闘スタイルだった。それが今、雷の...ディアの力によって恐らく全ステータスに補正が付いているハズだ。STRやVITは上昇している様子はないがAGIは間違いなく上昇している。素早い動きから攻撃を放てばAGI《俊敏》+ASPD《攻撃速度》+STR《筋力》を乗せた強攻撃が可能。あの耳は...範囲は狭いが高ランク サーチャーと変わらない感知力。上昇しているDEX《器用》で位置や狙いを瞬時に判断し反応するセンスも今わたし達を苦しめている。


あんな相手に拘束系魔術は通用しない。ならばスタンで...不可能だ。スタンを取る場合は頭等に強攻撃、この場合は重剣術を叩き込む必要がある。が 今のプーは相手が多い事から周囲にあの耳を向け少しの動きでさえ拾う。近付く事は出来ても剣術は回避されディレイ中に攻撃されるオチだ。麻痺は考えるまでもなく無理。


「...、ワタポ、なんかいい作戦ある?」


雷魔術の詠唱を終え、放った所でワタポに声をかけるも返事はない。考え中なのか振り返ってみると、近くにいたハズのワタポがいない。


この余所見がプーの感知網に引っ掛かる。振り返った状態のわたしを狙い雷槍が、気付いた時にはもう既にプーの手を離れ、直進してくる。

詠唱が追い付かない距離まで迫っていた槍。わたしのAGIでは回避不可能。

雷魔術で相殺、雷撃弾で軌道を変えられる...ならば剣で斬る事も可能と言う事だ。

わたしの新スキル、魔法剣。雷属性を纏わせた剣術で雷槍を斬る。事が出来れば超カッコイイだろうけど、そんな技術もないわたしはただ呆然と立ち、誰かが何とかしてくれる事を願い、雷槍を見ていた。

すると突然、視界が白い煙の様なモノに包まれ、一瞬で暗闇へ変わる。光が一切ない安全な空間にワープした?...いや、音は今いた街の戦場と変わらない。誰かが何かをして助けてくれたのは間違いないだろうけど、魔力を感じない事から魔術ではない。こんな素敵スキル一体誰が。

その答えはすぐに出る。


「なーにやっとるんじゃ。串焼きにでもなりたいんか?」


この喋り方...年寄り染みたこの喋り方は 性格最悪 情報正確、情報屋のキューレ。しかしどこから声が?

その答えもすぐに解る。

言葉が終わった途端、わたしの視界に月明かりが、さっきまで見ていた世界が広がる。やはりワープした訳ではなかった様だが...さっきまで見ていた世界と1つ違う点がある。それは、全員が巨大化している事。

何倍のレベルではない。超巨大化している。


「助けてやったんじゃぞ?礼の1つくらい言わんか」


頭上から降り落ちるキューレの声にわたしは焦り顔を上げる。すると憎らしい顔でわたしを覗き込むキューレがいた。


「でっか...」


お礼を言う前にその大きさへの感想を言ってしまう。

一体何が起こった...一体何をした?が正しいか。助けてやった とキューレは言った。この巨大化現象を起こしたのもキューレだろう。よく見るとわたしは今、キューレの手の上にいる。そうわかった瞬間、何を思ったかキューレは突然わたしを、高く投げ捨てた。

恐怖なんてもんじゃない。完全に死ぬ、死ぬ以外ない。着地はまず無理だ。数百メートルから落下だぞ?着地してやる!なんて考えるヤツの方がおかしい。この女は一体何を考えているんだ。キャッチして 冗談でしたー!など言い始めたら手のひらへ細剣を突き刺してやる。

てかキャッチするだろ?するよな?してくれよ!?


焦り両手をバタつかせていると再び視界が白い煙に包まれ、お尻が何かに激突する感覚と少しの痛みが走る。

ゲフン。と可愛らしさ満点の声を出し、わたしは愛しの地面と再会していた。


「なに、え...戻った!?」


キューレが本来の大きさに戻っている事に驚き、またお礼を言いそびれた。この女は一体何をした?

そう言い放とうとしが、響く金属音がそれを止めさせる。

プーの剣術とハロルドの剣術が恐ろしい速度でぶつかり、2人はノックバックする。そのノックバック中、プーは雷を拡散させ周囲の冒険者を近付けさせない。攻撃にも防御にも使える雷と言う訳だ。


そんなものを纏っているプーを一時的に停止させるのはほぼ不可能ではないのか?

わたしを含め冒険者達の表情が不安色に塗り潰される中、覚悟を決めた...とはまた違う表情の者達が武器を取り、プーへ一斉に向かう。


「...! 拡散くるニャ!」


ピンクの耳をピクつかせ叫ぶ猫人族のキティゆりぽよ。

彼女は確か...星霊界でディアを覚醒させた。音で色々と判断出来る力を。

常人では全く気付けない音の変化も溢さず聞き取り、雷を拡散させてくる。と読み...聞き取った様子。


「3...2..1. ッ!」


ゆりぽよの声が響くと素早くワタポがカウント。その声に今プーへ接近中の全員が同時に地面から離れる。

ワタポのディアで雷の動きを見切って...回避した。


この連携にプーは驚いた表情を一瞬見せるも、すぐに頭上を睨んだ。双棍の特性を使い、高く跳んでいたハコイヌがプーを頭上から叩きスタンさせる作戦だったらしいが、完全に気付かれている。

雷撃を放たれてはハコイヌが丸焦げになってしまうので、わたしは雷魔術の詠唱を済ませ、タイミングを待つ。

しかしその必要はなかった。

頭上を見上げるプーへセシルが残りの雷撃弾を全て撃ち、一瞬ヘイトを取る。

この一瞬でワタポ、アスラン、烈風、ゆりぽよ、りょくん、るー、ルービッドが急接近する事に成功。

ハロルドはプーの後ろへ回り込む。


スタンを取る事に失敗しても、今現在プーの動きは停止状態。あの中の数人が吹き飛ばされてもハロルドがプーを何とかしてくれるハズだ。


これは完璧に決まった。

今、誰もがそう思い勝利を確信したハズだ。


視界に閃光が送り込まれるまでは。







まばたきはしていない。ずっと見ていた。しかし何が起こったか全く解らない。

突然視界が青白い閃光に包まれ、全身を叩かれる様な衝撃と痛みが走り今に至る。


指先どころか全身が動かない中で必死に瞼を上げると、全員地面に倒れている。


分厚い雲が泳ぎ月明かりがプーを照らす。


5本の尻尾を扇形に広げ、少し伸びた銀色の髪を揺らす。

瞳だけではなく、眼元も赤く染め、妖艶な雰囲気を白金色の雷に変え纏う。



金銀の魅狐 が そこに立っていた。




クソゲー



5本目の尻尾を見て、半妖精は奥歯を強く噛んだ。



知られたくない。

ただそれだけの理由でひぃたろはディアを使わずプンプンを鎮めようとしていた。


プンプンは自分にとって何よりも誰よりも大切な存在。だから自分1人で何とかする。

そう言った。



しかしその結果、全員が麻痺状態に陥り、プンプンは5本目の尻尾を揺らす。

恐らく次の尻尾が露になった時、プンプンは本当に化け物になってしまうだろう。

そうなった場合、プンプンも、ここにいる冒険者達も全員、失う事になる。


自分の勝手で全て失う事に。




半妖精ハーフエルフ

同族からは気味悪がられ、他族からは敵視され、人間からは最高の実験動物と見られ、何処に行っても辛い運命しかない存在。


しかし、プンプンは違った。

ひぃたろが半妖精である事を知っても、態度1つ変えず、受け入れ、隣にいてくれた。


エミリオもワタポも、半妖精である事を知ってなお、一緒に。



もしかしたら、他のみんなも受け入れてくれるのではないか?


そう思う反面、避けられるのではないか。と言う自分も居る。


それでも、ひぃたろはプンプンを助けたいと強く思う。

あの実験施設から自分を救い出してくれたプンプンを、自由を一緒に求めてくれたプンプンを助けたい と。














何が半妖精だ。

何が嫌われたくないだ。

ここで自分を守る事を選べば一生後悔する。

自分が半妖精だと知られ、嫌われ、蔑まれ...殺されてもいい。

プンちゃんを助けられるなら、他に何もいらない。




「....プンちゃん。今度は私が助けてあげるからね」



ひぃたろはそう呟き、身体をゆっくり起こした。

ひぃたろの行動にプンプンは大きく驚く。

状態異常 麻痺。短くても10秒程は全身が痺れ、指先を動かす事さえ許されないバッドステータス。

しかしひぃたろは数秒で麻痺拘束から解放された。


治癒術でもなく、解痺ポーションでもなく、彼女が持つ妖精エルフのディアで状態異常を打ち破った。


「私のディアは状態異常を無効化させ、体力を徐々に回復させる。魔力を消費してだけどね」


エアリアル同様、妖精エルフディアは使用中、魔力を削り続け傷や疲労を癒すリジェネ効果と、現在自身に降りかかる状態異常を消す効果がある。


麻痺拘束から解放され、体力も少量だが回復させる事に成功し、半妖精は翅を広げた。

微粒子が月明かりに揺れ、幻想的な雰囲気を散りばめ、加速する。

空気を蹴り一直線にプンプンへ迫るひぃたろ、迎え撃つかの様に雷を帯びた長刀を構えるプンプン。


白桃色と白金色が、耳を刺す轟音を奏で繋がった。


雷を使い妖精を地へ落とそうとする魅狐と翅を器用に揺らし魅狐を翻弄する妖精の武器が同時に光を宿し火花を散らす。

まばたきさえ許されない連撃が終わると、ひぃたろは翅を揺らす。剣術ディレイ中でも動けるスキルをハクとの戦闘で身に付けたひぃたろは素早くプンプンの背後へ回り込むも、拡散する雷が一定距離を保たせる。

2人の剣術はお互いを斬り、痛み分け。血液を散りばめ飛ぶ妖精と、雷が血液を焼き消す魅狐が視線をぶつけ合う。


魔力を温存させる為、ひぃたろはここで一旦ディアを止めた。

プンプンの周囲にはひぃたろの血液。それを確認し、ひぃたろの傷を見てプンプンは気付く。今この瞬間、ひぃたろは回復系ディアを使っていない事に。タイミングよくディレイが終了したプンプンは長刀を手放し、素早く両手を振る。

矢の様に放たれる無数の雷をひぃたろは回避せず、撒き散らしていた微粒子を使い、潰す事に成功。

この時、時間にして1秒もない安心が油断を生んだ。

小さな破裂音と雷の余韻を残しプンプンはひぃたろの背後を取る。

半妖精が振り返ると同時に長刀を閃かせ、白金色の雷を散らし、血液が宙を舞い、妖精は地に落ち動きを止めた。


未だ麻痺が続く中でエミリオは全てをその眼で見て、歯噛みし、返り血に濡れる魅狐を睨む。

その視線に気付き、エミリオへ1歩2歩と迫る魅狐。

動かない身体へ必死に命令するも、既に魅狐はエミリオの前で足を止めていた。


その瞳には涙の雫。ゆっくりと揺れ、落ちる涙さえ、雷が焼き消す。


意識がない身体と感情を燃やす心の狭間で揺れ動くプンプン。その先にエミリオは見た。真っ直ぐプンプンを見つめるひぃたろの強い瞳を。


「今すぐ、助けてあげるからね」


ひぃたろはポツリと呟き微笑んだ。プンプンが気付き振り向いている最中、一瞬、または呆気なく この...嫌な戦いを終わらせた。



遠く離れた場所にいたハズのひぃたろはワタポの眼でも、ゆりぽよの耳でも反応出来ない、烈風のディアでさえ出せない速度でプンプンの移動し、プンプンの尻尾へ星霊の剣を振りおろす。

5本の尻尾を付け根から斬り離すと、煙る様に尻尾は雷を放出させ消滅。

プンプンは全身の力を失ったかの様に倒れ落ちた。


「...ハロルド、今の」


プンプンが倒れた事により麻痺から解放されたエミリオは呟く。その先の言葉をクチの中に残して。


「もう大丈夫」


ひぃたろは悲しそうな瞳をエミリオに向け、すぐに地面へ向ける。


自分が今使ったのは体術でも剣術でも、魔術でもない。

大勢の前で使ってしまった力。魔女と悪魔にはバレる力...ディアを。


ここにいる全員がひぃたろの最後の動きに何かしら感じ、色々と考え思う。しかし誰1人、その事について言葉を吐き出さなかった。



ひぃたろは妖精の血と人間の血、2つの血を持って産まれた。どちらにもなれず、どちらにも混ざれない存在としてこの世界に。


大嫌いだったこの血が、ひぃたろに大好きな人を与え、その人を守る力を、ディアを2つ与えた。


妖精と人間の混血。


小さな違いが大きな違いを産み出し、今 変化を産み出す。





「ハロルド、プー戻ったね。やるじゃん」


青髪の魔女が半妖精へ言い。


「ひぃちゃ、傷大丈...ぶくないじゃん!ちょっと見せて!」


と、人間が言い半妖精へ触れる。


「しっかし...私達何もしてないじゃん!ひぃちゃんラスト決めちゃうしさ!クールだったよ」


「ビビは避雷針作ったよ。壊れたけどね」


音楽家と鍛冶屋が近づいてくる。


「お前さんは半妖精...かのぉ?ウチもそんな顔で産まれとったら今頃ウハウハじゃったろぉに。羨ましいのぉ」


「私 猫人族ニャ!キティって呼んでニャ。ネコミミでハァハァするにゃよぉー?」


ちょっとオカシイ情報屋と大分オカシイ猫人族が半妖精へ話しかける。




それは伝染するかの様に広がり、ひぃたろが半妖精である事を簡単に受け入れた。


人間も妖精、関係ない。

同じ様に生きて、同じ世界を見ている同族なんだ。




プンちゃん。

またプンちゃんに助けられちゃったね...ごめん ありがとう。






「襲撃者から街を守ってくれて...本当にありがとうございます」


深く頭を下げる女王様へわたし、英雄エミリオ様が言う。


「気にするな。誰も命を落としていない...それでよかったじゃないか」


ハロルドとプンプンは即、病院に送られた。

他の人達...わたしも含め全員が先程ユニオンに到着し、セッカに報告しよう!という所だ。

さらっとアスラン達を今後どうするのかを聞こうと思っているのだが...頭をあげたセッカの眼が妙に怖い。


「エミリオ。結局、最後まで街で大暴れしていたのは誰だったの?」


セッカがわたしに敬語を使わない時は、女王様モードではなく友人モードの時だ。

女王様としてではなく友人として聞いてきているのなら...答えてもいいかな?

いやまて街を救った英雄エミリオよ。これが罠だった場合わたしは友人を売った最低なヤツになってしまう...。ここは...アレしかない。


「それがさ...大暴れしてたのはデザリアの人じゃなかったんだ...」


「知ってるわよ?だってデザリアの方々は全員ユニオンにいたもの。エミリオ達が出た後、色々と話を聞かせてもらったわ。で、その犯人は何処に?」


「それがさぁ...逃げられたんだ。犯人の名前はあの伝説の...怪獣ビリビリ」


「は?」


「怪獣ボリボリの親戚かな?ビリビリ...厳しい戦いだった...」


「...そう、わかった」




よっし!何とか真実を隠す事に成功した。これでプーもハロルドも罰を受ける心配はない。セッカよ...怪獣ボリボリはプーで怒ると怪獣ビリビリになるという事実を知らないんだな...勉強不足の女王様でラッキーだったぜ。


勉強不足の女王様は安心するわたしを横眼に指示を飛ばす。


「冒険者達は全員街の復興を手伝う事、勿論私も手伝います。ビビとユカはアルミナルの職人をこの街へ、キューレはデザリアの方々から情報を搾れるだけ搾って、病院の2人の事は...どうしましょう?」



んぇ?...どうしましょう?とは?

まさかもう誰かが女王様に「ハロルドは半妖精でプーは魅狐で、2人が暴れ狂ってた!まぢ勘弁してほしいわあの2人。迷惑すぎるし、死刑でしょ死刑」とか言ったんじゃないだろうな!?

確かにプーはこっそりクッキーやビスケットを買ってこっそり食べてて分けてくれないし、ハロルドは結構毒吐くしピーチタルト分けてくれないし近寄らないでオーラムンムンだけども、2人とも地味に結構、まぁ、いい人なんだぞ!?


暴れてたのはプーだったかもだけど、絶対何か理由があったんだと思うし、ハロルドはプーを助ける為に頑張ったのに...いや、わたしも頑張ったよ!?でもほら、あるじゃんね。そんなすぐ死刑とかダメじゃん。



「エミちゃ...なにブツブツ言ってるの?」


「んあワタポ、いやだってさ」


「聞いてたけど、多分それ全部エミちゃの暴走だよ?その暴走はワタシには止められないから...ひぃちゃにお願いするしかないね。多分サクッと暴走止めてくれると思うよ?」


この女何を言ってるんだ?ハロルドなんかに頼んでみろ、わたしを迷わず瞬殺するだろ!


止まらない暴走妄想へブレーキをかける様にセッカ話を始める。


「キューレから全て聞きました。先程エミリオに質問してみたのは皆様がどうお答えするのか、どう対処しようとするのかを知りたかったからです。半妖精である事も魅狐である事も、プンプンさんが無意識とは言え暴れていた事を全て聞きました」



あのクッソ情報屋...お金積まれてポロっと転んだのか?



「デザリアの件は話を聞いて、今後どうするべきか皆さんも一緒に考え答えを出しましょう。お2人の件は...本人達に決めてもらいませんか?」



この後セッカはわたし達と対等に、女王ではなくマルチェのセッカとなり話を...ハロルドとプーをどうするかを話し合って決めた。


半妖精である事も魅狐である事も、今回ボコられた事も全部、許し受け入れる。と全員がクチを揃えて言った。


その事を本人達に伝えた上で、どうしたいのかを2人に決めてもらう事に。

街を出ると言うなら止めない、罪だと言って罰を求めるなら罰を与え、今まで通り生活するなら大歓迎する。


これは本人達が決める事で、わたし達はクチ出ししない。


そう決め、セッカは病院へ。

わたし達は街の掃除から始める事になった。




起こった事を無かった事にはできない。


でも、だからこそ、今頑張って生きなきゃいけないんだ。と、わたしはまた1つ人間の強さを知った。



今回の事で、人間の怖さも。





「エミちゃ、サボるなー!」




....ワタポの怖さも知った。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る