◆28




ウンディー大陸。

この大陸には国王...大陸で一番偉い者の存在がない。

王が存在しないので王国も存在しない。

あるのは自由。

大陸一の街はバリアリバル。冒険者とギルドがこの街を拠点に生活している。どの大陸にも存在すると言われている集会場もこの街が一番最初。


このバリアリバルを束ねる...と言う訳ではないけど冒険者やギルドを管理し街に住む人の悩み等をリストアップし集会場経営ギルドに送ったりする仕事をしているのがユニオン。


冒険者は同時に複数のギルドに参加してはいけない。今どのギルドに参加しているのかすぐに調べたり、犯罪を犯した場合すぐにその人物の名前や特徴を調べたりするのがユニオン。これが冒険者とギルドの管理だ。

管理と言うと重く感じるが普通に生活していれば何の問題もない。

冒険者もギルドも街の人々もユニオンを頼っているし、ユニオンも皆に頼っている。

そうしてこの街、バリアリバルが完成している。と聞いていたのだけど...。



「覗いて見ればこのザマ、ね」


ユニオン幹部と思われる男が冒険者の命を奪おうとしていた。

戦わない集団ユニオン...それも嘘。

この男の防具は相当レベルが高く、戦闘経験値も上位冒険者レベル...そしてさっきの剣。

灼熱色に染まり触れたモノを燃やす剣...あんな剣見た事も聞いた事もない。

他にどんな武器を隠しているのか...。

今見る限りでは左甲から伸びる燃える様な爪、クロー1つだけ。


武器を確認したワタシは一気に距離を詰め攻撃する。

恐らくあの防具は魔法耐性が高い。だからエミちゃの魔術がヒットしてもダメージ軽減効果で期待値まで削れなかったんだ。エミちゃが魔術主体で戦う事を知っていて...加減すると解っていたからあの防具を選んだ...。

本来魔法耐性に優れた防具は物理防御力が低下する。でもこの男の防具は魔法耐性が少し高めで物理防御も捨ててない。魔法主体でくると解っているなら物理を切り捨てて魔防を高める。恐らくワタシのこの攻撃は回避もガードもせず防具の鎧部分で受け、カウンターを入れてくるハズ。


薄青い剣先は防御に弾かれ予想通りのカウンター攻撃。

ワタシはここで体術を使いカウンターへカウンターを入れようと思っていたが、男の背後に一瞬細く輝く何かが見え 攻撃をやめて後ろへ飛んだ。


「私のカウンターを予想していた...素晴らしい!」


着地と同時に素早く回り込み背中を確認してみるも武器等を隠している感じも無く、輝く要素もない...光が何かに反射してたまたま見えただけ?

気にしていても始まらないし、のんびりしてる時間もない。


次は相手が距離を詰めてくる。左のクローを回避した時、空気を焼く音が聞こえ焦げの臭いが鼻を突く。エミちゃに刺さっていた剣と同じであのクローも炎...と言うより熱を武器に纏わせる効果がある...エクストラウェポンか。

毒や麻痺といったバッドステータス....デバフ効果をもつ武器や、武器で属性攻撃を行う事が出来る武器をエクストラウェポン。

属性武器は正直そこまで高い効果は期待出来ないけど...あの武器は斬り口を、皮膚や肉を溶かす程の熱を持つ。


爪と爪の間が妙に広い理由は攻撃範囲を広くするため。ヒット確率をあげている。

掠り傷程度でも、その掠り傷で無視出来ないレベルの熱を与えられれば焦り、次の行動が一瞬遅れる。そこを叩けば終わり。ワタシが以前使っていた鱗粉が付着していた剣もエクストラウェポン、爆破だった。


便利な攻撃系追加能力でも...弱点は必ず存在する。


「もらった!!!」


空気を焼きながらワタシへ迫る灼熱色のクロー。

完全に相手の攻撃範囲に入っているうえに回避へ移れない姿勢。でも、


「その武器の弱点はワタシの存在だね」


熱された鉄の様な色と熱を纏うクローを躊躇なく右手で掴む。ジュウウウ...と焼け溶ける音と焦げの臭い...凄い、予想以上だ。見るからに熱そうな...見ただけで危険だと解る温度のモノを掴める。そして熱くない。この義手...攻撃にも防御にも使える。


掴んだクローを強く引き、相手のバランスを崩す。床に膝をついた男の後ろへ回り込み首にフルーレの刃を当てた。勿論クローは掴んだまま。


「首を切り落とされたくなかったら、全部話して。ユニオンは何をするつもりなのか、なぜエミちゃを殺そうとしたのか、そして.....」


あなたは何者なのか。と言おうとした時、男は全身の力が抜けるかの様に床へ崩れ落ち動こうとしない。

フルーレをもう1度、今度は頭部に先を当てるが全く反応がない。


「やっぱ、り、その、人...、使え、ない、わ。ロキ」



突然広場に響く女性の声...全体に気を配っていたつもりだったけど...気づかなかった?無駄に被害を出さない様に誰もいないか必要以上に気を配っていたハズ...だけど。

コツコツと通路を歩く音が入り口の方から聞こえる。


「文句言うな。アレくらいしか無かったんだからな」


現れたのはフードローブを装備し、フードを深くかぶっていて...顔も隠れていて姿が全く見えない人物。

声質は男性。


「それよりお前は逃がした青髪を追え。アイツには話しすぎたからな」


「...それ、あなた、の、ミス、でしょ?、ロキ」


先程の声と同じ。今度は場所も大体わかった...二階から。



「....あなた、素敵...。お人形、遊、びは、すき?」


なに...あの子。

顔も姿もロキと呼ばれる男と同じで全く見えないけど、あの子はヤバイ。

前も後ろも相当な実力者...戦っても10分...相手が本気なら5分で殺される。

逃げるにしても道がない。



「選ばせてやる。今逃げてユニオン襲撃犯になるか、ここで人形遊びに付き合う...違う....一生人形遊びに付き合うか、だ。どっちにする?」


「なに言って...」


「どう足掻いても勝てない事くらい気付いてるだろ。そろそろ冒険者共も帰ってくる。死ぬか逃げるか早く選べ」


「...、っ」



勝てない。どう足掻いてもワタシじゃあの2人には敵わない。

1対1でも間違いなく殺される...。

ここで命を捨てるワケにも...違う。死にたくないだけだ。


ユニオンが何を企んでいるのか解れば対策も立てられる。平気でエミちゃを殺そうとする人がいて、あんな危険そうな2人がいて...絶対に何かよからぬ事を考えているに違いない。のに...自分の命が惜しくなって逃げる方を選んだ。


街の人や冒険者達が危険な目にあったら?ワタシが今逃げずに立ち向かい何か1つでも情報を持ち帰ればその危険を回避できたのでは?



でも...まだ、まだ危険な目にあうと決まったワケじゃない。

ワタシは...騎士じゃない。

ギルドマスターでもない。

ただの...、1人の人間だ。




「逃げ、ちゃっ、た。残念...」


「ほっとけ。俺はユニオンのリーダー役に戻る。お前も早く 金の魔結晶 を探せよ」


「それ、は、みんな、の、仕事。私、1人の、仕事、じゃ、ない、わ」


「ならお前はとっとと自分の仕事をしろ。エルフと魅狐の生き残りを探して早く操り人形を作れ」


「...、その、言い方...、嫌い。お人形、って、言って。それ、に、あなた、に、命令、され....」


「わかった わかった。お前の喋りはノロくてイライラする」







....、。



自分が嫌になった。

エミちゃは逃げずに戦って、結果的にやられていたけど、逃げずに戦う事を選んだ。

のに...ワタシは。



人工魔結晶を探して処分する?笑えるよ...どれだけ自分の実力を過信していたんだろう。

話を聞いたらすぐ行く。とビビさんに言ったのに...話しなんて何1つ聞けてない。

もう...どうすればいいか....。


涙を流しそうになった時、フォンが静かに鳴る。

メッセージ...ではなく通話。

相手は ビビさんだ。


「...はい」


「無事だったか、よかった。今どこ!?」


今...ここは どこだろう?がむしゃらに走ったせいか現在地が全然解らない。


「えっと...ここは」


「マネキネコ亭って名前の宿屋へすぐ来て!!」


「マネ...え!?」


切れた...。

泣いてる余裕なんてない。と言われている気がした。


「よし。マネキネコ亭だったね...急ごう」


知らない街だけど宿屋の名前が解れば探すのは難しくない。フォンページから検索しても見つかる。でも、街の人達に聞くのが一番早い。

進みつつマネキネコ亭の場所を聞き、数分で到着。

入り口の両端にはヴァンズを持つ大きな猫の像。

向かって右は白猫、左は黒猫で交互に手招きをしている。


中へ入りカウンターへ向かうワタシを呼び止める様に聞こえた声。クゥ!と鳴くワタシの愛犬...犬なのかは謎。フェンリルのクゥ。

クゥはワタシが振り向くと小さく頷きすぐに走った。後を追うと一番奥の部屋の扉の前で待っている。


「ここね、ありがとう」


急ぎ扉を開くとベッドではなく床に倒れているエミちゃと近くで何かをしているビビさんが居た。


「ワタポ!エミリオに刺さった剣...温度が下がらない!今治癒術でこれ以上悪化しない様に止めてるけど...魔力が尽きそう」


床には数十本の空きビンが転がっている。持っていた魔力回復ポーションを全部飲んでしまったのだろう。


「ポーションあるだけお願い」


「わかった」


ワタシはポーチ、フォンポーチから魔力回復ポーションを全て取り出しビビさんの近くへ置く。


「ワタシ、ポーション買ってくる!ついでに情報屋さん呼んでくるね!」


「助かる」


すぐにフォンでキューレさんへ連絡すると、何も聞かずに「了解じゃ。すぐ向かう」と言ってくれた。

ワタシも近くの店にある魔力回復ポーションをありったけ購入し情報屋さんとタイミング良く合流に成功し、マネキネコ亭へ急いだ。


「お待たせ!!ビビさん変わるよ、治癒術は?」


「ヒール、助かるよ」


ビビさんが治癒術を切るタイミングを見て交代。

すぐにヒールを詠唱し回復し始めて気付く。

これは...相当集中力と体力が必要とされる役目だ。


治癒術には持続効果を持つ回復魔法がいくつか存在する。今使ってるヒールもその1つ。

持続効果を持つ治癒術を普段と違う詠唱方法で使用すると使用者の意思で止めるか魔力が尽きるまで永遠とその効果を使う事が出来る。今の様な場面で連続詠唱するなら持続回復を使う方が断然いいが...回復に終わりが見えない。

傷を癒してもすぐに焼かれる。油断すると一気に火傷が進む...ビビさんが言う様に剣の温度も下がる気配はない。


「こんな剣...見た事も聞いた事もないのぉ。お前さんはスミスじゃろ?どう見る?」


「この剣、多分火竜の素材を使って作られてる...それも爪や牙じゃなくて肺や骨。振った時に炎を出す じゃなくて 刀身が熱を纏う だからね。それ以上は何とも言えない」


「治癒術じゃと 限界がすぐにくるじゃろ...抜くにしてもその後が問題じゃの」



エミちゃに突き刺さっている剣は細剣ではなく、剣、片手でも両手でも使える万能で基本的なタイプの剣。このタイプを使う人はカナリ多く、ワタシも以前はこのタイプを好んで使っていた。

刃の幅は様々だけど最悪な事に突き刺さっているのは幅が少し広めの剣だ。

抜けば傷口から血液が大量に溢れ出るのは考えるまでもなく解る。かと言って放置していると傷口から焼かれる...。


火傷は治癒術で何とか治療できるけど剣を抜いた場合は治癒術では間に合わない。治癒術の上...再生術が必要になるけどワタシは使えない。ヒールを続けていた事からビビさんも恐らく使えない。


「悪いが再生術師の知り合いがおらんのじゃ...」


「ビビも再生術は使えない...」


病院に行くのも1つの手段だけど、病院にいる人達でも再生術師は居ないだろう...普通に治療するとなればその成功確率は...、


「15%くらいかも」


ビビさんがワタシの思考を読んだかの様に呟く。


「傷口が広く、傷は深い。そして熱を持つ剣...中も相当傷付いてると思う。時間も経ってるし今から病院へ向かうとなれば、途中で一気に状態は悪化する...」


「動きながら詠唱なんて、できんからのぉ。それに病院へ行ったとしても手遅れじゃろな...医者を呼ぶにしても..相手が熱を持つ剣じゃ。医者では対応できんじゃろ」


キューレさんの言う通りだ。

医者はあくまでも人々の怪我や病気を治す職業。

冒険者が戦闘で受けた傷は医者よりも治癒術師の方が知識もある。

風邪や病気となれば医者の方が頼りになる。


「ほぅほぅ。話しは聞かせてもらったよ」


静まり返る部屋へ向け放たれた言葉。扉付近に立つ人物が言ったのだけど...この人物は?


「ドア開いたまま なーにやってるかと思ったら...これは凄い事を。やっほービビ」


茶色の長髪を揺らし笑顔で言う男性。黒いスーツに黒ネクタイ、何かを背負っている。この人物どこかで...、


「おろ?こりゃまた大物じゃのぉ~」


「ユカ!ナイスタイミング!アレやってあげて!」


「おーけー」


ユカ...音楽家ユカ!?不定期★クロニクルの表紙を飾っていた戦うイケメン音楽家がなぜ今!?


背負っていた革製のモノを下ろし、チャックを開き取り出されたモノは...楽器。


取り出した楽器を演奏し始めるユカさん。

その音を聞いていると心が落ち着くと言うか...余裕が生まれた気が。


「これは魔力回復効果がある音楽、キミは今魔力を使い続けているからね。私が変わって治癒術を使うよりこっちの方がいいでしょ?」


「ありがとう、ユカさん!」


「お礼はいいから集中して、それとユカでいいよ」


突然現れた音楽家は聴く者の魔力を回復させる音楽を演奏してくれている。

これで魔力を気にせずヒールを続けられる。

ヒールも音楽も停止した状態でなければならないが、今の状態ではこれ程頼りになる人物はいない...ありがとう。


エミちゃ、絶対助けるから頑張ってよ。


何をしてでも助けるから。




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