◆23




「全く、C+になったからと言って無茶苦茶やりすぎじゃ」


「全然ダメだった、運がよかったから勝てた。としか言えない」


「当たり前じゃろ!バカ者!」



斧男との戦いに勝利した後、わたしはキューレに連絡し押し付ける様に任せた。

キューレはユニオンの連中と一緒にここまで来て驚いた顔をし、小言が始まった。

あの盗賊団は非公式ギルド。俗に言う闇ギルドだ。

ギルドを立ち上げるのは自由、別に目的がなくてもギルドと呼ばれる形を作る事はできる。その時ユニオンでギルド登録を済ませる必要がある。

ギルド名が他のギルドと同じではないか、ギルドメンバーは他のギルドに属していないか等も調べられ登録される。

もしそのギルドが悪さをした場合、すぐに調べる事が可能、ユニオンはギルド全体を管理する仕事がメインらしい。


あの盗賊ギルドは最初は至って普通のトレジャーハント集団だった。しかしマスターが斧男に変わってからギルドの雰囲気、やり方、全てが変わってしまいユニオンからは追放。それでも行動は変わらずユニオンは危険と判断し 闇ギルド 認定し斧男には指名手配された。


そんな危険な男と戦い勝利出来たのは実力ではなく運でしかない。まぁわたしは生きてるし終わった事を言っても意味は無い。

この戦闘で何が足りないかも解ったしプラス思考で考えるべきだろう。


「エミリオ様、後日ユニオン本部へ足をお運びください」


ユニオンの男がわたしにそう言い頭をさげ帰って行った。

近々見学に行こうと思っていたし用事が出来たならラッキーだ。


「んじゃ、ウチも戻るのじゃ。お前さんは無茶苦茶せんと黙ってひっそり行動するんじゃぞ!」


「うい、んじゃまたねー!」



さて、わたしもクォーツストーン探しを本気で始めるかのぉ!






昼が近いというのに冒険者達は全力でクォーツストーンを探している。発見したが逃げられた!等の話が徐々に多くなってきて我先にと焦り探す者が多くなってきた。ギルドメンバー全員で捜索するガチ勢達も少なくない。30万vの魔力は恐ろしい。

まだ誰も捜索していない場所を漁ってはハズレ漁ってはハズレ、ストレスとフラストレーションで喧嘩する冒険者まで現れる。

わたしは少し休憩しつつ冒険者達の様子をみる事にしたのだが...これは面白い。

喧嘩している者、無差別にスタングレネードをぶっぱなす者、それにキレる者、地属性魔術で地面を抉り探す者とそれに腹を立て水属性魔術で地属性魔術をブラストする者。


とりあえず、みんなイライラしてる様子。





「貴様!この俺様を妨害するとは...中々いい判断やね。見る眼あるな」



一際大きな声が響く。

何だこの感じ...今聞こえた声、、限りなく知り合いに似ている。わたしの勘だと暗い赤髪の変なおっさん...。

恐る恐る見てみると、そこには居た。クォーツストーンではなく...歪みくすんだ石ころの様な男、アスランが。



「いや今のは流れ弾、ごめんなさい」


アスランが叫んだ相手は若い金髪の冒険者。流れ弾 と言っている彼の手には銀色の両手持ちの魔銃。

魔銃はあくまでも 銃タイプの武器全体をさす言葉、剣も剣タイプ全体の事。

魔銃は大きく別けて4種類。


片手で簡単に扱える小さな銃を ハンドボウガン。


両手持ちだが軽く ハンドボウガンより飛距離と威力があるものを ライトボウガン。


ライトボウガンをスマートにした見た目で飛距離と威力を稼いだものを ロングボウガン。他の魔銃と違って連発で撃てない。


重く扱いが最も難しいが破壊力が凄まじいものを ヘビィボウガン。


金髪君が持っているのはヘビィボウガン。一番威力が高い魔銃。その 流れ弾 に当たった運の良い男アスランは無事の様だ。


「一番弱い弾を弱く撃ってるから そこまでダメージは無いと思うけど、当たったら痛いですよね。ごめんなさい」


なんと。あんな武器を持っているのに礼儀正しいとは...性格はヘビィではなくライトな金髪君に対してヘビィな性格地雷アスランはどう返す?


「気にするな!最強の弾を撃たれても俺様には効かぬ!弾き返してやるわ!ガハハハハハハ」


いや、気にするなって...アンタから 貴様!とかいい始めたんじゃないのか?気にしないならスルーすれば良かったのに...1人でクォーツストーン探すの寂しいんだな。


しかし残念ながら金髪君は既にパーティを組んでいるらしく無様にフラれた。

...。よく観察してみると見た事ある顔の人達が結構いる。勿論話した事はないけど。

みんな[人見知りな宝石のお告げ]を攻略しているのか。


いつまでもダラダラ冒険者を観察している訳にもいかないが正直手がかりもない。

3ヶ月前にクォーツストーンと遭遇した場所にはさすがに居なかったし、ワケの解らんキモい斧男と遭遇するしで完全に遅れをとった。

そろそろ本気出して探さなければ30万vを掴み損ねてしまう。

立ち上がりフォンのマップを開くとひく程の赤点が平原に表示されている。

この赤点は集会場でクエストを受注した冒険者達だ。

集会場以外のクエストを攻略している場合はマップに表示されない。勿論そのクエスト内容も直接聞いてみなければ解らないが..今この平原を走り回っている赤点は間違いなく[人見知りな宝石のお告げ]だろう。

しかし...、


「こんなに人がいるのにターゲットを全然見つからないって...どーなの」


「そこなんだよね、何か見逃してる気がする。かな?」


わたしの独り言に対しての答えだとすぐに解らなかったが、声が近くで聞こえた事に驚き反応。


「ごめん ごめん、突然話しかけたりして。でも同じ事を思ってる人がいたから つい」


「う..あ、あぁ..」


何だ!?何だコイツは!?

人間の言葉を使い背中にも武器、防具も確り装備しているし手足も普通だが...顔が、頭がモンスターだ。

何か見逃している?と言ったが...このモンスターもクエストを!?集会場を利用しているのか!?結界をどうやって抜けたんだ?いやそもそも結界は一部ではなく街全体にその効果がある。街へ入る=結界効果の中に入るという事だ。

他の冒険者はコイツを見て何も思わなかったのか!?

と 言うか このモンスターは何だ!?


持っていたフォンを素早く操作しモンスター図鑑機能を全力で使う。が、何度マナのやり取りをしても[モンスター感知できません]との文字が...新種でもないのか?

黄色の大きなクチバシと紫色の皮膚...鱗か?見た感じドラゴン いや、ワンバーンタイプのモンスター。しかしモンスター図鑑は反応しない...未確認や新種だったとしてもマナを感知し最低でもそのモンスターの見た目を記憶するハズだが...それも無い。


「え、ちょっと...怒ってるの?」


落ち着け、落ち着くんだC+の冒険者エミリオ。

そうだ、わたしはC+なんだ。いざとなればこんなモンスター...いや待て、勝てるのか?正体不明の生き物だぞ?

背中に武器がある事からコイツは武器を使える。それ程までに高い..人間に近い知能を持っているという事だ。

逃げるか?それもダメだ。あの眼...感情の無い眼...わたしが派手な行動をとれば 躊躇なく仕留める。と言っている様な眼。くそ...クソ!

とにかく落ち着け。何か、何か方法があるハズだ...そもそもなぜコイツはわたしを選んだ?独り言を聞いたから?よく考えれば有り得ない。

本当に小さく呟いただけ。真横にいても聞こえるか怪しい程の音量だった。しかしコイツは...ま、まさか 頭の左右にある大きな葉の様なアレは...耳なのか!?


「あ、あの...大丈夫ですか?心拍数が凄い速度ですけど...」


耳だ!それもわたし達の耳よりも遥かに高性能な...心拍数からわたしの考え等を読み取られたらマズイ。こうなってしまっては...やるしか..ない。


「...、あぁ。そういう事ですか」


しまった!わたしの考えを、今わたしが思った事、これからしようとした事がバレた!

くそ、クソ!こんな近距離でブレス等吐かれれば無事では済まない。もう考えていても無意味だ、やられる前に...斬る。


わたしがフルーレへ手を伸ばすよりも先に右手でクチバシを掴み強引に上クチバシをあけ開かれたクチ。そして吐き出されたのは強力なブレス。


「こんにちは、驚かせてごめん」


では無く、挨拶だった。








リバーブワイバーンの素材で作られたリアルなマスク。

聴覚が研ぎ澄まされるらしく、モンスターの気配だけではなく足音まで聞こえる頭装備。聴覚保護効果もあり咆哮をある程度遮断でき攻撃にも防御にも使える高性能な装備だが、見た目がアレなので好んで使う人はリバーブワイバーンよりもレアな存在。


そのマスクを装備してわたしを驚かせてきたのは冒険者のハコイヌ。

一緒にクォーツストーンを捕獲してくれそうな仲間を探していた所、自分と似た考えを持っている者を発見し声をかけたらしい。

それならマスクを外して声をかけるべきだ。と怒鳴ると素直に謝ってきたので話しだけでも聞いてみると、、


ハコイヌ、わたし、あと1人誘って3人で捕獲を狙う。

誰が捕獲しても報酬は10万vで分ける、もし追加報酬等があれば捕獲した人の物。


報酬が10万になるのは少々考えるが、3人で一緒に ではなく3人で別々の所を探し発見次第、即集まり捕獲する。よく見れば平原にいる者達はパーティを組んでいるのに同じ場所や近くばかりを捜索している。討伐やアイテム集めではないので組んで別れて探す方が効率的か?...よし。


「いいよ、組もう!もう1人は探すの?」


わたしの返事を聞き、ありがとう。と言いすぐに続ける。


「もう誘ってあるんだ、もうすぐ来るよ」


ほぉ、仕事が早いなハコイヌ。それにしても...背中にある武器は何だろうか?見た事ない武器だが...。


「ん?あぁ、コレは確かに珍しいね。難しい武器なんだけど双棒って言って上は刃...斬り、下は槌...打撃の武器」


そう言って背中にある棒を手に取り滑らかに回し、強く振ると折り畳まれていた刃が現れる。刃の方は少し細く、逆は少し太い。と言っても細剣よりは太いが...刃の長さはダガーより長く剣より短い、幅は剣と同じか?

槌は...剣より幅がある。そして刃が出ると同時に無数の棘が顔を出す。ランスやハルバードに似ているが似ていない武器...初めて見る。


「この武器の凄い所はリーチや軽さ、上下で違う攻撃が出来るって事じゃないんだ」


そう言うとまた軽々と数回回した。


「今見えた?」


「...はい?クルクルって?」


「今回した時に弾を入れたんだ。弾って言ってと魔銃とは別の双棍用の弾だけど」


ますます解らない。ゆっくりもう一度説明つきで見てみると、確かに棒の中心には弾を入れる事が出来る仕掛けがあり、弾を入れると下...槌の部分へ弾が流れ落ちる。最大5発の弾を装填できる。

回転させている時に装填する理由は魔銃と違い近接武器なのでターゲットと充分な距離をとっていない戦闘中でも装填できる様に隙を作らずクルクル回して装填、装填中に攻めてきた場合すぐに反応出来る様にする為の方法らしいが、装填中と知ってもクルクル武器を回してる相手に挑むのは怖い。


持たせてもらうと確かに軽い。なるほど、この軽さだからこそクルクル回せて、回した時の勢いをそのまま攻撃に使う訳か。普通に振るより格好いいし威力も上がる...イカス武器。


「で、弾は?撃つの?穴ないよ?」


気になったので聞き、棍を返すと槌の先端をわたしに見せる。先端には棘や刃がなく小さな穴がいくつもある。


「みてて」


そう言うとハコイヌはその場で、槌で地面を突くように叩きその衝撃で刃が収納される。刃が収納された先端に手を置き足を地面から離す...棍を軸に使ってジャンプする感じ。両足が地面を離れると同時に上から少し体重をかけると ボンッ と小さな音が響きハコイヌは一瞬で高く打ち上がる。

身体を捻り回転させて高く上がる姿は...正直格好よすぎる。

身体を回転させた時に棍を持ち変え回転の勢いを殺さず振る強攻撃も可能。

イカスけど落ち着きの無い武器だ。


弾、と言っても空気を含んだモノらしく、撃ったりしてダメージを与える事は出来ない。しかし空気を爆発させて高く飛んだり、凪ぎ払う時に速度と威力をブーストさせたりと使い方はその人次第。


面白いモノを一通り見せてもらった頃、やっともう1人が登場。


「ハコイヌさん!遅れたごめん!」


そう言って駆け寄ってくるのは...アスランにヘビィボウカンをぶっぱなした男ではないか。


「セシルさん ね、この人が3人目のメンバー、エミリオさんね」


ハコイヌがいい感じにわたしと相手を紹介してくれる。アスランに弾をブチ込んだ男の名前はセシル。ハコイヌの様にいい人っぽくてラッキーだ。息詰まる様なメンバーとクエストはしたくないし。


一通り挨拶を終え、作戦会議。

と 言っても作戦はもう決まっていた。

パーティを組んだ時に使えるアイテム、離れているメンバーとも会話可能にするイヤカムを使う。耳につけ音楽を聴くイヤホンに似ている形状のモノを装備しフォンにミニプラグを付ける。これでマナの線が繋がり離れているメンバーとも会話可能。

イヤカムを使う時の注意点はメッセージ、通話が出来なくなる事とパーティを組んでいなければ意味がない事くらいだ。

普段のクエストでは必要ないアイテムだが追跡や捜索クエストではインカムを使うと色々便利。勿論初めて使う。

すぐにメンバーの位置を確認出来る様にマップを表示したままポーチへ収納。


「よし、それじゃあ始めようか」


ハコイヌの合図で3人は散りクォーツストーン捜索作戦が始まった。

作戦 と言っていたが やる事はみんなと同じ。

ひたすら捜索探索。

ヒントがない以上はこの作戦が一番いい。


なにか見落としはないか。眼球をこまめに動かし辺りを確認しつつ平原を駆け回った。


少し暖かい風が気持ちいい平原を。






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