-温度-

◆22




バリアリバルに来て3ヶ月。

ソロでこっそりクエストを繰り返す日々が続いていたが、昨日やっと最初の目標だったC+ランクまで登り詰めた。

このランクまではソロでもイケると言われているが仲間と一緒にやる方が早い。しかしわたしにはその仲間が 今いない。ソロでランク上げの毎日を繰り返していたので仲間なんて出来るハズもなく、ただ毎日似たような事を繰り返していたのだが楽しかった。

C+までは危険すぎるモンスターや難しい採取なども無く、クエストや戦闘の経験値を稼ぐ為にソロで頑張った。モンスターの事や剣の使い方、他にも色々と思った事をやって知って、確実に3ヶ月前より強くなっている。しかしここからが始まりだ。

C+からはソロで挑めるクエストは本当にごく僅か。ほとんどがモンスター絡みのクエストなので採取系クエストでもモンスターとの戦闘は必須。

クエストの難易度も高く、ほとんどの冒険者はこのランクから思う様に上がれないらしい。

クエストをこなせばランクは上がるのでは?と思ったのだが、そのキーとなるクエストが無い。

無い...と言うのは少々違うか?クエストリストを見てもキークエストが見当たらない。

D+になった時クエストカウンターに居る人が教えてくれたキークエストと普通のクエストの見極め方と違い。

キークエストをこなせばランクは上がる。種類もいくつかありクエスト名の横に白星マークが付いているモノがキー、黒星マークのモノはそれ1つクリアでランクアップするキークエスト、星が無いモノは普通のクエスト。


モンスターにもモンスターの生活があるしこの季節にはあのモンスターはいない等の理由からランクアップも難しくなるのか?

強いモンスターとの戦闘、キークエスト不安定、他にも色々と条件やタイミングがシビアになっている為、C+からはランクアップが難しい。と言われているのだろう。


確かな結果を出せばキークエストを攻略しなくてもランクは上がる。しかしそれはキークエストを攻略するよりも難しいだろう。確かな結果。この言葉こそ不確かなモノなのだから。





ノムー大陸の朝と違ってウンディー大陸の朝は白く靄の様なモノが世界を包んでいる。太陽が出て数十分でこの靄は綺麗に消える。

わたしはこの靄を見るのが初めてだった。

街を白い煙りの様な靄が包み静かに朝が始まる。珍しく早起きする事に成功したわたしはすぐに準備を済ませて宿屋を出た。白い煙りの中を歩き無言で目指す場所は集会場。

3ヶ月毎日この道を通っているので迷う心配はない。

ただこの道しか知らないわたしはまだ10%程しかこの街を見ていない事になる。

今までは必死にただランクを求めていたが今日からは少し心に余裕も出来るだろう。街を見て、人を見て進もう。


ワタポとは3カ月前に別れたっきり連絡はとっていない。

わたしにはわたしのやるべき事、ワタポにはワタポのやるべき事があり、必ずまた会える。

連絡をしてお互いの関係が切れない様にする必要はない。

そんな暇があるならお互い全力で進む方が何倍もいい。

そろそろ痛みが無くなり義手を扱う為の修行が始まる頃だろうか?

頑張れ。や 負けるな、等の言葉はわたしに言う資格は無いし言うつもりも無い。

必ず追い付くと言ったんだ。

わたしはそれを信じて進んでいればいい。


朝靄が綺麗に無くなる頃、わたしは集会場に到着した。


集会場の二階、[バール・トラットリア]と書かれている看板は二階にはバーとレストラン...綺麗で居心地の良い場所ではないが料理を提供してくれる場所がある。と言う意味だった。

集会場に来てわたしは最初にトラットリアへ向かい食事を済ませてからクエストを始めていた。今日もその流れでトラットリア...二階へ登るが急ぎこなしたいクエストも無いのでゆっくり食べる事にした。

料理のラインナップも豊富で正直その辺りのレストランよりメニューの数が多い。バーも同じ様に種類豊富な酒等があり冒険者やギルドの者達は大体ここで済ませる。

しかし、街にあるレストランや酒場等と比べれば味は美味しいとは言えない。

自分が食べれればそれでいい。

そんな考えを持っているわたしはこの集会場で事足りる。


酒や料理を作っているのがまだ大きくない美食ギルドなのでこの味は妥当、値段もそれ相応で正直助かっている。

今日は[本日のオススメ]というモノを注文してみた。どんな料理が出てくるのか全く予想は出来ないがアルミナルの料理に比べれば何が出てきても美味しいハズ。

料理が届くまでわたしはフォンでフォンページを見る事にした。ウンディーポートでキューレがやっていた様に自分のフォンとコードをプラグインさせる。これで見れる。

最近世界がどんな動きをしているか等わたしは興味ないので過去の出来事を調べる事にした。

調べるのは勿論、C+から更に上のランクへ上がるにはどうするべきか、だ。

過去にキークエストを達成せずにランクアップした例を見て参考にする作戦。

色々と見ていると気になる文字があった。

[D→B+]と書かれた文字。その横には赤字で例外と...これは見るしかない。

即そのページをタップし開くと2人の名前が書かれていた。1人はひぃたろ、そしてもう1人はプンプンという人物らしい。写真や特徴が無いので目撃情報等を全力で募集しているみたいだが、情報屋が2人の情報を提供していない事から、恐らく激レアな人物なのだろう。そんな事よりもどんな手段でDからB+まで飛躍的な成長を遂げたのか是非とも知りたいのだが..その手段さえも謎に包まれている。

しかしこのページに書かれているという事はDからB+になったのは本当だろう。

オススメ出来ない方法 または 奇跡的に成功したが危険極まりない方法等々...か。

確かにそんなモノを載せて真似した誰かが死んだ場合は2人も嫌な気持ちになる。

例え自己責任だったとしてもそれで割り切れるモノでもない。

この2人の様にランクアップするのは望めない...他の方法も一応拝見してみたが正直どれも意味が解らない...。


結局何も解らず...溜め息が出そうになった時、注文していた[本日のオススメ]が届いた。

タマゴサンドと野菜サラダ、ベーコンとコーン...絶対名前似てるから同じ皿に乗せただろうコレ。そして飲み物はドス黒く染まった危険度S3ランクの熱い液体...コーヒーだ。

鼻を刺すこの香り...見るからに危険な色...そして最悪な事にミルク等のエスケープアイテムも見当たらない...。


「ど、どうしたんじゃ?ピンチ!と言わんばかりの顔じゃぞ?」


そう、まさに今ピンチな状態。正直わたしは食べ物より飲み物の方が断然大事。朝に何を飲むかでその日のコンディションが決定すると言っても過言ではない程に。

コーヒー等飲んでしまえばその日1日は寝込んでしまうだろう...そんな時に話しかけて来たのは しゅつぼつ...なんだかの情報屋キューレ。


「おはよう、ごめん!今わたしは今日1日をダメにするか、性格の悪い冒険者になるかの決断を迫られているんだ!少し黙っててもらいたい...っ」


「そ、そか」


この料理を運んで来たのは注文を聞いた人物、胸に新人マークがついていた...そしてメニュー表。今確認したみたのだが...ここには書いてある...[本日のオススメ]の下に飲み物はコーヒー、紅茶、ミルク、からお選び下さい。と...黙って水を飲めばいいのだが...わたしは水もコーヒーも紅茶もお茶と呼ばれる和國の飲み物も大嫌いだ、、。

ここで「すみません、コーヒーじゃなくてミルクに変えてください」等と言ってみろ...あの新人は先輩達に怒られ最悪ギルドをクビになるのでは?行く宛もなくなり悲しみが怒りに変わった時...狙われるのはわたしだ。マズイ...何か..何か手はないか..くっ。


「ウチはコーヒーだけにするかのぉ。おーい!オーダーよいかのぉ!」


コーヒーだけ...だと!?ここだ!ここ以外にもうチャンスはない。ワンミスも許されない...だがっ!


「コー」

「コーラ!コーラを1つ!以上!コーラ1つね!それ以外は必要ナッス!よろしく!」


...勝った。キューレがコーヒーを注文しようとした一瞬を逃さずコーラを注文し、相手がオーダーを繰り返す隙すら与えない怒涛の注文作戦。

狙い通り繰り返し聞いてくる事なく頷き去った。あとはこのコーヒーをキューレに渡せば完全勝利だ。


「さぁキューレ、君はこのコーヒーをお飲みなさい。わたしはコーラを頂く事にしますわ。うふん」


「...うむ、お前さんコーヒー嫌いなんじゃな?有り難く貰っておくぞ!」


キューレにコーヒーを渡そうとした時、コーラが、神の液体が届いた。危なかった。もう少し早くコーヒーを渡していたら「む?まさか...オーダーミス!?」と思われてしまう所だったぜ。

命を狙われる事もなく1日寝込む事もなく無事にコーラ入手に成功、キューレも求めていたコーヒーを手にしたので誰も嫌な思いをせずに済んだ。

シュワシュワがわたしの眠っていた全細胞を目覚めさせる感覚。最高の1日が始まる。


「そんなにウマイかのぉ?」


「最強。で、キューレは朝ゴハン食べにココきたの?」


タマゴサンドをクチへ運びつつ質問すると許可していないのにもう1つのタマゴサンドを手にとり食べるキューレ。このヤシの木女は情報屋を引退して盗賊にでもなったのか?


「んやぁ、暇じゃったからのぉ~誰かおらんか来てみたんじゃ...これウマイのぉ!」


暇だったから集会場に来てわたしを発見したから近付きタマゴサンドを奪ったのか!?最低なヤツだ。


「ちょ、あげるって言ってないよ!タマゴサンドの料金としてBランクに上がる方法教えてよ。キークエストが無いんだよねー」


これで聞きたい情報をゲットできるハズだ。馬鹿め...わたしの大事なタマゴサンドに手をつけた自分を怨むがいい!


「ん、わかったのじゃ。と言うかお前さんC+になったんかのぉ?」


その言葉を待ってましたと言わんばかりにフォンを取り出し自分のランクを出し見せる。

フォンを取り出してから見せるまで2秒程の速度。練習しておいてよかった。

C+の文字を見てキューレは驚きの表情を浮かべ、タマゴサンドを食べ終えBランクへ上がる方法を言い始めた。


「C+からは戦闘能力以外にも判断力や武具のスキル、剣術や魔術、アイテム等々の勘や感覚、個人の戦闘経験から産まれる熟練度スキルが必要。とウチは前言ったのを覚えとるかのぉ?」


わたしは頷き、言葉の続きを待った。


「それは何時何処でどんな相手と戦うのかさえ解らんからじゃ。突然強いモンスターと戦う事もあれば、犯罪者や犯罪ギルドと戦う事になる場面もあるじゃろ」


「は?」


ワケの解らない事を言い始めるキューレ。突然モンスターやヤバイ奴等と戦う事になる?全然意味が解らないし、わたしが求めた情報でもない。


「今お前さんが言ったじゃろ?キークエストが無い と、その通りじゃよ。C+からキークエストは存在せん。それ所かC+のクエストリストなど存在しとったか?危険なクエストは[高難度]と書かれとって全てのクエストに受注可能ランクが書かれとるじゃろ」



C+になってから1回、それもほんの数秒だけクエストリストを見た。指でスクロールし黒星マークを探していただけなのでクエスト名すら読んでいない。わたしは自分の眼で確かめる為、一階へ降りクエストカウンターへ急ぐ。

コードを繋ぎ表示される文字を見る...ランクを選んでいないのにクエストリストが表示されていた。


Cランクの時は確かにあったDとCの文字。そのどちらかをタップするとそのランクのクエストが表示されるシステムだったのだが...今はそのランク別の文字もない。

適当に1つクエストをタップし受注可能ランクを確認してみるとD。別のクエストを同じ様にタップし確認すると今度はS+...キューレの言った通り[高難度]の文字が書かれている。

なるほど、C+からはキークエスト等のランクアップする為のアシスト的なモノは無くなり、ランク別けリストも無くなっている。

全てのランク全ての難度のクエストが並んでいて自分で気になったクエストをタップして受注可能ランクを確認、条件を満たしていた場合のみ受注可能。

受注、報告、破棄、全て自分のフォンで行われる為その者がどのクエストを成功または失敗したのか集会場のシステムが即座に確認し、見合った実力者はスムーズにランクアップ、逆にいつまで経ってもランクアップ出来ない者も現れる訳か。

判断力や感覚、個人の戦闘経験から産まれる熟練度スキルが必要...今やっとその意味が理解できた。

ここからは決められたクエストではなく、自分自身でクエストを選び成功させなければならない。そうなると武器や防具は今まで以上の品へ、アイテムも常に多数持ち歩かなければならない。そこを犯罪者や盗賊等に狙われる場合もある...と言う事か。

面白くなってきた!


「やる気出しとる所 悪いがのぉ、お前さんお金払わんと」


「あ、やば」


クエストリストを閉じすぐに二階へ戻る。本日のオススメ代を払おうとしたのだが...金額がおかしい。なぜか850v多い...オーダーした料理をもう1度読み上げてもらうと、本日のオススメが2つに...慌ててテーブルを見ると確かに2つ、そしてわたしのベーコンやサラダも綺麗に無くなっていた。

600×2、250=1,450v...コーラの料金すら払わず何処かへ消え去ったのかあの女!

今度見つけたら請求してやる。必ず。


暇潰しで現れたキューレの分もキッチリ支払い、わたしは一階へ急いだ。とにかくクエストをする以外にランクアップは望めない。ならば片っ端からクエストをクリアしてやればいい。階段を二段飛ばしで降り最後の三段は華麗にジャンプ、素晴らしい程綺麗に着地しクエストカウンターを目指し1歩踏み込んだのだがその足は止まった。

クエストカウンターが他の冒険者達で埋まっている。それだけじゃない集会場には多くの冒険者が居た。今までは自分のランクを上げる事しか考えていなかったので集会場にどれだけの人が居るのか等見てもいなった。昼夜問わず人が居ると聞いていたが3ヶ月経った今、やっとその言葉を眼の前にした気分。

きらびやかな武具を装備した者やオシャレな者、お前そんなに武器必要か?と思ってしまう程武器を身に纏っている者も居る。無意識に二階へ視線を送るとわたしと同じ様に食事を済ませてから活動開始する者も大勢いる。


本当に、本当にここは冒険者とギルドの街だ。そんな事は知っていたハズなのに実際眼の前に広がるこの光景を見るまでは “他の国や街よりも冒険者とギルド少しが多いだけ” としか思っていなかった。

少し なんてレベルではない。本当にこの街バリアリバルには冒険者が集まり、ギルドを立ち上げ拠点にする者が多い。


...どうして みんな冒険者になったのか。ふとそんな事を思ってしまった。クエストをこなしてお金を稼ぎ、自分の実力も磨く。戦闘や武具、モンスター等の知識も自然とつく。

しかし、必ずと言っていい程付いて回るモノもある。それが 死。

そんなリスクが常に隣にある状態の職をなぜみんな選んだのか?


騎士 になれば人助けもできて低ランククエストの報酬よりも多くのお金が入る。勿論、騎士でも冒険者でもレベルを上げれば高難度の任務、クエストをする時がくる。

死が隣にある点では同じだが騎士は隊で行動する。ギルドで行動すれば同じだろ。とも思ったが違う。

ギルドは気が合う者、目的が同じ者が集まって結成されるが騎士隊は似た実力者が集まって結成される事が多い。中にはレベルの低い者も存在するが10人で隊を組んだ場合1、2人だけで残りの8人は自分を守れて周りも見れる実力者になる。ギルドの場合はその実力にバラつきが出てしまう確率が極めて高い。


騎士は国のルールの下で王や騎士団長が指揮をとり、難易度に合った実力者を束ねて任務を与える。


ギルドはマスターが指揮をとり気が合う者や目的が同じ者を集めて結成される。ギルドのルールの下で。


ルールと指揮者。ここが大きな違いではないか?

騎士の指揮者は団長。団長は過去の功績と実力が国に認められていなければなれない。

ギルドはギルド登録さえすれば誰でもマスターになれる。


ルールもユニオンが作った数少ないルールとギルド独自のルール、騎士は国のルールと騎士のルール。

ルールの数は多いが安全性は騎士の方が断然上だ。

生活する。という事をベースに考えれば誰もが騎士を目指すべきではないのか?...しかし、ここにいる者達からは後悔などの気持ちが全く感じられない。好き好んで冒険者を選んだ様にしか見えない。


本当に解らない。わたしが人間ならば騎士を目指し頑張るだろう。給料、安全性、未来を考えれば冒険者なんて絶対に選ばない。

しかし人間は好んで冒険者を選ぶ者も多く存在する...気持ちが全く理解できない。


魔女 という時点で人間の世界ではハイリスク。騎士団に入隊し自分が魔女だとバレれば80...いや90パーセントの確率で魔女のスパイ と言われ処刑されるだろう。それで終わればまだいい方だ。その後に魔女が人間を殺す為に動いている等となれば戦争の準備が始まる。

なんだってすぐ争いを選ぶのか...人間も魔女も悪魔もバカばっかりだ。

まぁ今の理由からわたしは騎士になる事を即諦めて冒険者を選んだ。街の花屋さんとかでも生活は出来るが1ヶ所で止まっている事が苦手な性格なのでわたしには無理。

自分の足を使って自分で行動し、自分の力でクエストを完了させお金を貰う方がわたしにはあっている。


と、まぁ正直 どうでもいい事を考えているとクエストカウンターが1つ空いた。


さて、今日からはランクアップが難しくなるC+が始まる。

気合いを入れクエストリストに眼を通す。

討伐系クエストと納品系クエストを同時に受注したいのだが、その場合は討伐クエストの対象からドロップ出来るアイテムが納品クエストの対象なのが理想だが、そんなウマイクエストはそう存在しない。

討伐クエストでドロップしたアイテムを商人へ売り、商人は何処かの店へ下ろす。討伐クエストでドロップするアイテムは多く出回っているので商人や店から買う事が可能。

わざわざ売り値より高い報酬金を出してクエストにする者などまずいない。


クエストリストをスクロールしていると気になるクエスト名を発見した。

[カワイイ宝石] と [人見知りな宝石のお告げ] と名付けられたクエスト。内容を確認してみる事に。


[カワイイ宝石]

こんな噂を聞いた事ない?

森に住む小動物は額に赤い宝石を持っている。その宝石は幸運をもたらす効果がある。

冒険者の皆さん、ニンフの森に生息しているカーバンクルから幸運の宝石を1つ貰ってきてください。


受注条件:B+ 報酬:25,000v



[人見知りな宝石のお告げ]

バリアリバル付近で希に見る事が出来る宝石の様なモンスター、クォーツストーン。このモンスターが数日前に目撃された。人見知りをするクォーツストーンが人間に目撃される時は何かのお告げ。どうかクォーツストーンを1匹捕獲し、ユニオンまで連れてきてほしい。


受注条件:なし 報酬:300,000v




[カワイイ宝石]の方はランク的に受注不可能だが[人見知りな宝石のお告げ]は誰でも受注可能で報酬が30万!?

捕獲...モンスターを連れてこい。と言う事か...クォーツストーンといえば3ヶ月前にわたしが平原で遭遇したモンスターの名前。確かにあのモンスターは人見知りしていた。弱そうだったし捕獲も簡単に思えるが、即逃げられたので発見が難しいクエストか。

でも...発見して捕獲に成功すれば30万。これはヨダレが出る金額。

迷わず受注しクエストカウンターを離れた。

クエストは受注条件欄に受注可能数が記入されていない場合は1人でも100人でもそのクエストを受注できる。そして報酬は早い者勝ち。

ほとんどのクエストには受注可能数は記入されていないので奪い合いだ。

今すぐ出発したいのだがモンスターの捕獲方法を知らない...。捕まえて運んで来ても結界の効果で街中には入れれない。テイムしろと言う事か?いやそれはない。テイムは知識と才能が必要な方法、誰でもホイホイ出来る事じゃない。ならばポーチに収納?有り得ない。モンスターをポーチに収納なんて不可能な事だ。

捕獲...結界の影響を受けさせないでモンスターを拘束出来るのか?


その辺りにいる人達に話を聞きたいのだが、それはダメ。

恐らくほとんどの冒険者やギルドがこのクエストを受注しているだろう。捕獲方法を知らない者...同じクエストを受注したライバルに教える訳がない。それだけならまだマシだ。嘘を教えるヤツも現れる。キューレにモンスター捕獲の情報を売って貰う...ダメだ。あの女の性格だと今頃 モンスター捕獲方法 の情報はふざけた金額になっているだろう。やはり自力で捕獲方法を知るしかない。

ユニオンも何で捕獲なんて面倒な事をさせるんだ。ユニオンの誰かが平原で待って冒険者がクォーツストーンを引き吊り回してくるのを待てばいいだろう。街中にモンスターを入れろ?バカかよ。


このクエストはついさっきクエストリストに追加されたモノらしく、突然妙な空気が集会場に充満する。それもそうだ。報酬が30万でそれがユニオンから支払われるとなれば本気になる。

30万という高額報酬、ユニオンのクエストを成功させる事で名は一気に広まる。冒険者やギルドにはこれ以上無い最高のクエストだ。

もういいや、1人でやろう。

適当にしばき倒せばモンスターも黙るだろう。力と恐怖でテイムしてやる。


「こんな弱そうなモンスターは適当に痛みつけて従わせればいいんだよ!いくぞ!」


...却下。何かだっせーモブ男と同じ事するのはイヤ。となると次の手段は...色気だ。女の武器を最大限に使ってモンスターを誘惑して従わせる下僕作戦。


「私の魅力でモンスターをカワイイ下僕にしてあげるわ。でも離れてくれなかったら困るわね」


...却下。何だ今の女。蛾蝶の翅みたいなサイケデリックなメイクとキモイドレス。あんな虫女と同じ作戦は無しだ。

ならば最後の手段、行き当たりばったり作戦。やはりコレが一番しっくりくる。わたしの直感力があればモンスターの捕獲など楽勝。貰ったゼ!30万ヴァンズ!


自分に気合いを入れ直し、集会場を、街を駆け抜けた。

3ヶ月前にクォーツストーンと遭遇した場所へ行けば手がかりくらいなら発見出来そうだ。


この勝負、もらった!













「おい、今走ってたチビを追うぞ」







右も左も前も後ろも冒険者。


全員が[人見知りな宝石のお告げ]を攻略中という訳か。

平原で目撃された。という情報しかない連中は草むら掻き分けて探しているが、甘いゼ!

クォーツストーンは逃げる際、全身を回転させてドリルの様に穴を掘り地面に潜る。

捻り開けた穴を探して手を入れてその方向を予想、そして追うのが一番早い。

1度遭遇した事のあるわたしだからこそ知っている情報だ。

とにかく3ヶ月前に遭遇した場所へ行ってみよう。何か解るかも知れない。


迷いなくグングン進んでいると辺りから冒険者の姿が消えた。街から地味に離れた場所なので、まだみんなここまで来ていない様だ。このエリアはゆっくりと探索させてもらおう。

1度止まり辺りを見る。穴や何かおかしな跡はないか...無闇に動き回って自分で変な跡をつける訳にはいかない。

少しずつ1歩ずつ移動していると何かの気配を感じた。

その方向をずっと見ていると小さく何かが光った。クォーツストーンの宝石が光を反射させたのか!?

軽く走り近付くとチクリ と 首に痛みが。数秒遅れて足が、腕が、身体が重く、動けなくなりその場に倒れてしまった。モンスターの攻撃か?マズイ恐らくコレは麻痺。ベルトポーチから解痺ポーションを取り出したいが指先が少し動くだけでポーチまで届かない。

地面を伝って届く震動が近く...モンスターは1匹ではない...それにしてもこのリズムはモンスターか?...違う、コレは人間の歩く音だ。

わたしの麻痺に気付いてくれた冒険者か!?助かった。


「よし、麻痺成功だな。拘束して解痺ポーションを使え!コイツはクォーツストーンの情報を持ってる確率が高い」


あー、なるほどね。麻痺をしてきたのもコイツ等でわたしの持つ情報を狙ってるのか。

近くにあった木に縛られ武器とポーチを没収される。ポーションを飲まされ麻痺拘束からは解放されたが拘束状態なのは変わらない。

7人...この真ん中の大斧装備がボスか。


「なに、わたしがカワイイから縛り付けて観察?いい趣味してるねー」


「だろ?まぁ出来ればもっと大人の女が好みなんだがお前に話を聞きたくてな。クォーツストーンを何処で見た?」


コイツ..なんでわたしがクォーツストーンを見た事あるって知ってるんだ?誰にも話してない情報なのだが...まさか記憶を見る事が出来る能力を!?...ないか。こんなダッセーヤツが凄い能力を持ってる訳ないし、記憶を見れるなら質問なんてしない。でもまだその能力レベルが低いから “知っている” 程度の情報しかゲット出来ないのか?頭悪そうだし記憶調査能力が勿体無いな。持ってればの話だけども。

勿論、わたしの答えは 見た事ねっす。だ。


「あの場でお前だけが迷いなく平原へ向かい走った、平原でも止まらずここまで」


「は?クエ説みてないの?平原に走ったのは書いてあったから、ここまで来たのは他の人が探してない場所だから」


「バカかお前、街から平原に出るには2つ出口がある。集会場を出てまずどっちの平原に行くかで止まる。それから平原に出て状況確認後、どこを探すか決める。でもお前は集会場から迷わずここまで走った。周りも見ないで進めるのは情報を持ってるヤツだけだろ」


おぉ、コイツ馬鹿っぽい顔してるのに結構頭良いぞ。

まぁでもわたしの天才的な閃きには勝てないな。コイツがペラペラと長い文をアホ面で喋ってる時に詠唱は済ませ弱々レベルでウインドカッターを発動させロープを切っておいた。今そのロープを手で掴み縛れてます!を演出している。フルーレとポーチは返してほしいしブッ飛ばしたら探すのも面倒くさい。それにわたしを麻痺らせて武器とポーチを奪ったヤツを1発蹴ってやりたい。お前だよ黒バンダナのモブ盗賊。


「へぇー、それでわたしが1人で行動している様に思えた訳ね」


そう言ってニヤリと笑い少し首を傾けて後ろを見る動作をする。

この動きに反応し振り向く盗賊達、この隙にロープを投げ飛ばし大きく1歩進み、黒バンダナへ必殺奥義のエミリオン・スーパーキックを炸裂させる事に成功、蹴りの衝撃で剣とポーチを手放し飛ぶバンダナ男。

すぐに剣を拾い抜き、倒れたバンダナ男の背に足を乗せ剣を向ける。


「動くなバカ」


コイツを人質に奴等の動きを止める作戦に成功。

後はポーチを拾って逃げるだけ。落ちているポーチに一瞬眼線を送ってしまった。

その僅かな隙に斧男は距離を詰め大斧を振り下ろす。


身体が勝手に反応したかの様に素早くバックステップを入れ回避と同時に距離をとったのだが、やられた。

大斧を振り下ろし わたしが回避すれば仲間を斬ってしまう。

振り下ろすモーションをしてわたしをバンダナ男から離れさせる作戦...、


「..は?」


作戦、ではなく、本当に振り下ろしていた。肉厚で幅広の大斧はバンダナ男の頭を通過し地面にまで抉り込んでいる...コイツ、仲間を躊躇なく殺した。

バンダナ男の身体はピクピクと痙攣し、動きが止まる。血が飛び散った地面。深くまで抉り込んでいた斧を引き上げるとコルクを荒々しく抜かれ噴き出すシャンパンの様に血が散る。


「おい、このオブジェを掃除しろ。俺はアイツをオブジェクト化する」


仲間を平気で殺す男に従うアイツ等も、この斧男も頭がオカシイなんてレベルじゃない。部下の表情的にも恐怖で従わせている訳でもなさそうだ。


「アンタ...命について考えた事ある?自分の命、今まで奪った命、今まさに奪った命の事について」


「邪魔になった時点でそれはゴミだ。奪う奪わないの話ではなく、掃除する話だ。ゴミは綺麗に掃除しないと不愉快だろ?」


単純に腹が立つ。

眼の前にいるコイツは人間じゃない。

わたしの知る人間は、どんな人間の命も平等だの何だの言って甘ったるい考えを持っていて精一杯生きる為に生きて、人間という生物種の命だけではなく心や気遣いまでも大切にする存在ではないのか?


コイツは自分の荷物になる人間はゴミ、ゴミは掃除する=殺す。


...魔女のわたしから見ても立派な悪魔だ。本当に、


「立派だよ」



そう言い一気に距離を詰め速度も全体重もすべてを乗せた斜め上から下へと振り下ろす剣術、スラストを全力で大斧へ撃ち込んだ。


コイツは殺さなければまた命を奪う。仲間だけではなく、関係ない者の命も。だからそうなる前にわたしがコイツの命を奪う...わたしもコイツと同じだな。

自分で自分の考えに呆れながらも先程のスラストで発生したノックバック.....男の防御を揺らし体勢を崩した時に産まれた隙 を逃さず狙う。

スラストで右下まで下がった手首を曲げ突きの形を作り下から男のノドを突き刺し終わりにしようとしたのだが追撃はギリギリで回避され距離までとられた。


手首を曲げフルーレを構え直した時の動きで太陽の光が反射してしまい、その光が男に追撃を知らせた。


「油断していた...。次は無いぞ」


そう言った瞬間、恐ろしい速度で接近、斧を軽々と振り回す。今度はわたしが攻撃を防御するも馬鹿げたパワーで吹き飛ばされる。

今の一撃でハッキリ解った。この男は強い。


休む暇を与えない怒濤の攻撃をガードしては飛ばされ回避をすれば蹴りで飛ばされ、徐々にわたしの体力は削られていく。何度も魔術を射ち込んでいるがあの斧にはマジックブラストの効果がある様だ。魔術は斧に近付けば威力が弱まり簡単に潰される。


対人経験値、体術、剣術、全てが高い。


隙さえあればマジックブラストなど貫通する威力の魔術をいくらでも発動できるのだが、この猛攻を上手くやり過ごしながらの詠唱は低級魔術が限界...マジックブラストの効果があるのはあの斧だけだ。

アイツ自体にはそんなスキルはない。


今のわたしの “レベル” では下級魔術しか出来ない。でも下級魔術なら.....、 “2つ同時に発動できる” 。

魔術を1回の詠唱で複数同時に発動する事ができる能力。これがわたしの “ディア” だ。


斧攻撃を今度はわざとガードし威力に逆らわず吹き飛ぶ。ガードする瞬間から詠唱に入り、地面に叩きつけられた時、下級炎属性魔術 ファイアボールと下級風属性魔術のウインドカッターを同時に発動させ左右から攻める。

ファイアボールとウインドカッター、どちらかにスキルブラストを使えばどちらかをモロに受ける。

あの斧の大きさとパワーは脅威だったが、手数を稼げないから体術を挟んでいた。アイツの体術にマジックブラスト効果はない。


野太い声を上げ全ての魔術を斧で潰そうとするが、わざと威力の弱めた火球と風の刃を大量に作って発動した魔術だ。全て潰すのは斧じゃなくても不可能に近い。

半分も潰せず男は火と風に襲われる。


威力が低いとはいえ魔術をモロに連発受けた男には相当なダメージだろう。バカな自信かキモい斧を使いたい為か、防具は動きやすいモノを選んでいたので防御力は低い。


「鎧だったらよかったのにねー、ざんねん」


派手に倒れた戦闘不能状態の男に言ったが恐らく意識はない。


いきなり暴れられると怖いので 地属性拘束魔術で男の手足を岩の錠で拘束し、この勝負はわたしの勝ち。


本気で殺すつもりだったが途中、やっぱりそれはダメだ。と思い殺さず勝利する事を選んだ。


この戦いで今の自分に何が足りないかハッキリ解った。

剣術と体術、それと戦闘経験値。

体術があればガードや回避も上手くなり猛攻中も余裕が生まれる。剣術があれば回避からの反撃も細かい攻撃も可能になる。

そうすれば魔術詠唱の余裕や時間も作れて強い魔術を詠唱しながら戦う事が可能になる。戦闘経験値は、もう数をこなすしかない。


それにしても、久しぶりにディアを使ったせいか一気に疲れた。

下級魔術を2つ同時 これが今の限界...これも積極的に使って伸ばさなければ奥の手にしては弱すぎる。



「はぁー...つかれた」



クォーツストーン探しは後だ。

ポーチを拾い、回復ポーションを1本飲みながら斧男をどうするか考えた。

変に甘いポーションの味は何度飲んでも慣れない。


コーラ味のポーションとか、今度アルケミストに注文してみよう。




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