第六話 はじめての奴隷
集落にあった藁の小屋を魔法で破壊してから帰路につき、冒険者ギルドへと帰ってくる。
「お疲れ様でした。ゴブリン六体、ゴブリンアーチャー三体、ゴブリンメイジ一体の魔石を確認しました。依頼達成と素材の合計で大銅貨一枚と銅貨二枚です。よくこれだけのモンスターが出て大丈夫でしたね。」
茶髪ポニーテールの受付嬢さんが驚いたように言う。ちなみに名前はヴェディン。
「まあ、これでも軟流は将級ですし。魔法術もそうですから。確かに外見が頼りないのは解っているんですが……。」
「その口調もそうですね。上級冒険者ならともかく、下級冒険者が丁寧な口調でも舐められるだけですから。」
確かに冒険者の仕事は荒事が大半を占めるので当然なのかもしれない。
「わかった。気を付けるよ。」
「ランクが上がっていくなら仲間が必要ですね。」
「仲間か……。」
「はい。併設された酒場の掲示板や直接交渉したりしてメンバーを集めてパーティーを結成するのです。中には奴隷を使う人もいます。」
「なるほど……。考えておこう。」
そう言ってギルドを後にした。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「ここか……。」
赤い焼き煉瓦の建物に《ファーシャル商会》と看板が立っている。
「ごめんください。」
重厚な木製の扉を開く。
「当店に何か御用でしょうか?」
中年の禿げたおじさんが椅子から立ち、歩み寄ってきた。
「ここで奴隷を取り扱っていると聞いたのだが?」
「そうですとも。私はファーシャル商会の支店長のカイルと申します。さあ、どうぞこちらへ。」
ニコニコ顔で案内される。
「どの様な奴隷をお求めですか?家事ですか?パーティーメンバー?冒険者さんですか。女性ですよね?何か特別な要望は?」
ちなみにこのような街で取り扱う奴隷は女子供が多い。
「予算は幾らほどまで?」
「白金貨五枚。」
カイルは少し唖然とするがすぐに切り替えて笑みを浮かべる。当然と言えば当然だ。白金貨は一枚百万円程の価値なのだ。
「それならお客さんは運が良い。数日前にイラビアから十歳程のダークエルフが届いたばかりなんですよ。ダークエルフは種族として戦闘能力は高いので。ヴェルナ。マイラを連れて来なさい。」
はーい。という声が聞こえて、バタバタと足音がする。
出された紅茶を飲みながらダークエルフの奴隷が来るのを待った。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
昔々、精霊に嫌われたエルフの少年がいた。
エルフという種族は尖った耳を持ち、優れた聴覚で精霊の声さえも聞く。
その中でも何故か精霊に嫌われ産まれてきた子供がいる。
エルフではそのような子供を邪子と呼ぶ。
しかし、その男は諦めなかった。体を鍛え、武術に励み、魔力を武術に生かす方法を模索した。
やがて少年は青年となり森を出て、北の砂漠へと向かった。
紆余曲折を経て魔力を武術に生かす方法……気功術を編み出しそれにふさわしい体とすべく薬を作り、自分と他の邪子達に投与した。
するとエルフ特有のブロンドの髪は色が抜け落ち、逆に新雪の様に銀色に輝く。
白かった肌は褐色に焼け、肢体は引き締まる。
邪子だった少年は一生かけて、ダークエルフという新しい種族を創り上げた。
彼ら彼女らは弱者では無くなった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
マイラは石の地面の上で折り曲げた両膝を抱え、虚空を眺める。
ダークエルフは確かに弱者では無くなったかもしれない。しかし、それは普通になっただけだ。
決して強者になったわけではない。
「お父さん、お母さん……。」
マイラは助けを求めるように口の中で呟いた。
「お客さんが来たわよ。出て来なさい。」
ああ。買われるんだ。
マイラは失望で重い腰を持ち上げる。
「早めに買い手がついて良かったね。買い手がつかなかったら商館に回されるんだから。」
何がよかったのだろうか?買われて、抱かれるのは変わらないのに。
溜め息をつきながらヴェルナについて応接室に出る。
そこには一人の青年がいた。
漆黒の髪、蒼と金の双眸、色白の肌、それらで構成される顔は整っており、女顔、美少年といっても良いだろう。
レオは公爵家の人間なので母は美女、父も美人な人を母に持つので美男なのだから当然と言えば当然だ。
「へえ。実力の程は?」
「冒険者としてはLランク程度かと。白金貨二枚枚でどうですか?」
「わかりました。買いましょう。」
その日、私は15歳の主人を持つ奴隷になった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「俺はレオと言う。よろしく。」
店からでてマイラに話しかける。
「はい。レオ様。」
マイラの首には奴隷であることを示す首輪がある。
「まずは服を買いに行こうか。」
服屋は奴隷商会の店舗の近くにあった。奴隷商会利用後の購入が多いのだろうか?
「当店は初めてのご利用ですか?」
女性の店員が声を掛けてくる。
「彼女の服数着をこれで見繕ってほしい。」
取り出したのは大金貨一枚。
「えっ……大金貨……?」
大金貨その物となぜそんなものをこんな少年が持っているのかわからないといった顔だ。確かに無理もない、大金貨は五十万もの価値がある。この世界では店の売り子なら住み込みで月、銀貨五枚なのだから子供(十五歳なので、一応成人している。)
「はっはい、普段着ですか?」
「ああ。」
店員さんはぱっぱと品を選別していく。
「礼装はどうします?」
奴隷を従者として公式の場に連れていくこともあるので聞いてきたのだろう。
「ああ。お願いする。」
それも終わると会計を済ませ外に出る。ちなみにお釣りは金貨三枚だ。
次に行くのは武器屋。
「得物は?」
「槍と曲刀。」
マイラは淡々と答える。
「すみません。槍と曲刀はありませんか?」
「おう、ダマスカス鋼の槍と鋼鉄製の曲刀があるぞ。」
「買おう。後、レザーアーマは?」
「あるぞ。合計で金貨七枚だ。」
マイラの装備を買い終わった後、蹄鉄亭へと帰る。
「あらレオさん……後ろの方は奴隷ですか? 」
「ああ。イラビアのダークエルフだそうだ。マイラという」
「でしたら二人部屋ですね。銀貨二枚の追加で二人部屋にしますが。」
「二人部屋ですか……。そうしてください。」
「わかりました。では新しい部屋に案内します。」
マイラをそういう目的で買ったと思われているようだ。まあ女奴隷とはそういうものだというのがこの世界の常識なので仕方ないと諦めてはいる。まあ少し腹立たしくはあるが。
その後新しい部屋に案内され、夕食をとった後部屋に入った。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「術式構成‐書き込み開始」
ベットの上に座りながら霊器を創る。使用した魔石はJランクモンスター《レッドブル》。媒体は曲刀。
「書き込み完了」
「術式構成‐書き込み開始」
こちらはGランクモンスター《ヘルホーク》を使用した槍。
「書き込み完了」
「レオ様は《ファントム・スミス》なんですか?」
「ああ。多分そうだ。」
自分が巷でどういう風に言われているのかは知っている。
「ではなぜレオ様は……?《ファントム・スミス》は公爵の息子だと聞きましたが。」
「殺されそうになったんだよ。母親は殺された。父親の正妻にな……。だからお前を買って護衛にしようとしたんだ。」
「すいませんでした。」
「べつに構わない。じゃあ寝るぞ。明日、マイラの冒険者登録とパーティー登録を済ませる。」
「はい。」
マイラが返事をしたのでレオは自分のベットに潜り込む。
そして、マイラも潜り込んできて……。
「ちょっちょっと待て!」
ベットに潜り込んできたマイラを制すと、マイラはこてんと首を傾げる。
「何故ですか?」
「俺はお前を性奴隷として買った訳ではなく、護衛にしようと買ったといったよな。」
「いえ。性奴隷にしないとは仰りませんでした。」
「解った。お前を性奴隷としては扱わない。だから自分のベッドに行け。」
「レオ様。奴隷としては、ご寵愛を賜れないのは大変不安なのですが。」
「解った。準備をしてからまた今度な。だから今日は添い寝だけだ。」
「はい。レオ様のお手伝いをさせていただきます。」
「しなくていい!!」
その日はマイラの頭を腕の中に包みながら寝た。
ちなみにお手伝いはレオが全力で阻止したとだけ記しておこう。
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