第百六十七章 決意の確認

「そうそう。その調子や」


 私とセルセウスは死んだ魚のような目で聖哉とアーダマを眺めていた。


 私達のHP恥ずかしみポイントを得て満足したアーダマは聖哉に自身のオーラを付与した。紺色のオーラに包まれた聖哉は、アーダマの指示に従って近くの大岩に手を向けている。第三者を強制的に硬質化させて術者を守る特技『仁王立て』を放つ修練だ。


 既に私は荷物袋にあった替えのドレスに着替えていたが、セルセウスは半裸のまま三角座りしている。いじけているのかと思ったが、よく見ると忌々しそうに顔を歪めていた。


「あの技が完成すれば今後、俺の自由は奪われるってことじゃねえかよ……」

「ってかアンタ、着替えなさいよ。あるわよ、スペアの鎧」


 荷物袋にはこういう時の為に私のドレスとセルセウスの装備の替えが入っている。嬉しいような嬉しくないような聖哉の気配りである。だがセルセウスは首を横に振る。


「裸の方がまだ安心だ。監視の土蛇を忍び込まされなくて済むからな」

「だ、だいぶ病んでるわね」

「バカ野郎!! 銃撃されたんだぞ!! 普通、人間が神様をマシンガンで撃つか!? 頭おかしいだろ、アイツ!! 病気だ、病気!!」

「アンタ、聖哉が聞いてなきゃメチャクチャ言うよね……」

「お前は腹立たないのかよ!!」

「うーん。でもまぁ、あれも世界を救う為なんだし」


 少なからず本心からそう思っているのと、傍でセルセウスがメチャクチャ怒っているので、逆に私は冷静さを保てていた。セルセウスは冷ややかな目を私に向け、舌打ちする。


「チッ! まるでDVに慣れちまった憐れな嫁さんだな!」

「な、何ですって!! お嫁さんとか照れちゃうじゃない!! ウフッ、もうバカねぇ!!」

「!? バカはお前だ!! ホントに憐れだな!!」


 何が憐れなのか聞き返そうとした時、セルセウスが顔色を変えてサッと俯いた。見れば、聖哉とアーダマがこちらに向かって歩んで来ている。


「聖哉。修行はどう?」

「……今日はここまでだ」


 聖哉はかなり不服そうな顔付きだった。アーダマが取り繕うように笑う。


「オーラがしっかりと体に定着するのに丸一日掛かるんや。本格的な仁王立ての修練は明日からなんや」

「そーなんだ」


 聖哉は「ふぅ」と溜め息を吐く。うーん。聖哉って修行に関しちゃ、かなりせっかちだもんね。早く習得したかったんだろうなあ。


「まぁまぁ。ゆっくりやったら良いじゃない。私も神界の時みたいに急かしたりしないからさ」

「いや。猶予はあまりない」

「ええっ!? ど、どうして!?」

「これも可能性の話だ。むしろ猶予はたっぷりあるのかも知れない」

「!! どっちだよ!?」

「とにかく、今のうちに冥界で沢山のことを学んでおきたいのだ」


 ――今のうち……?


 聖哉の言い回しが妙に気になった。だが、アーダマはそんな聖哉をカラカラと一笑に付す。


「心配せんでもウチは明日も明後日も此処におるよ!」

「ホラ。アーダマもそう言ってるじゃない」


 聖哉はアーダマの顔を見詰める。そして少し黙った後、こくりと頷いた。


「じゃあ聖哉。ウノちゃん家に戻る?」

「そうだな。この時間を有効活用し、明日までに魔弾用のボディアーマーを合成しよう」

「ちょ、ちょい待ちぃや!! アンタ、ウチの特質、全然信用してないんやね!?」


 アーダマが叫ぶ。完璧な硬質化を教えている最中に『防弾チョッキを作る』などと聞けば、それはビックリするだろう。


「念の為だ」

「せやけどウチの硬質化は無敵やねんで!」

「それはお前の感想だろう」

「感想ちゃうわ!! 真実や!!」

「俺の知識や経験と、冥界の者の特質を合わせることで更に機能が向上するなら、しない理由はあるまい」

「ま、まぁまぁ! アーダマも落ちついて! この勇者って用心深いんで!」

 

 私は二人の間に入る。聖哉はアーダマに失礼なことを言いながらも、いつも通りまるで悪びれていなかった。


「冥王謁見カードを作ったことや、マシンガンを合成したのと同じ。冥界や異世界で得たものに俺の世界にあった既存の知識を加える。こうして……」

「そうそう! 捻曲イクスフォリア攻略に備えるんだよね!」


 聖哉は三角座りをしていたセルセウスに近付いて首根っこを掴み、ぼそりと呟く。


「こうして……神域の勇者に対抗する手段を編み出していく」


 ――神域の勇者……!


「ひゃっ」と声を上げたセルセウスを引きずりながら、聖哉は歩き始めた。アーダマがボリボリと頭を掻く。


「ったく! 教える気、無くすわあ……!」

「えっと、じゃあアーダマ! また明日! ま、待ってよ、聖哉!」


 ……聖哉を追いかけながら思う。アーダマは自分の特質をバカにされたような気持ちになったかも知れない。だが私は、常に最終的な着地点を見失わず、そこを目指して自分を高めようとする聖哉を素直に凄いと感じたのだった。






 翌日、夕刻。


「ウッギャアアアアアアア!!」


 昨日に続き、アーダマの岩場ではセルセウスの悲鳴が響き渡っていた。


 アーダマがマシンガンを聖哉に向けて乱射する。すると硬質化させられたセルセウスが聖哉の前に立ちはだかり、代わりに銃弾を浴びた。いつもながら覚えの早い聖哉は、既に自分の意志でセルセウスを硬質化させることに成功していた。


「あははは! これ結構楽しいやん! ストレス発散になるわー!」


 マシンガンを撃ちながらアーダマが笑う。セルセウスは己の意思とは無関係に、体を素早く動かして防御しながら嘆願していた。


「もうやめてくれえええええええええええ!!」

「……よし。ストップだ」


 しばらくした後。聖哉の合図でアーダマが乱射を止める。硬質化の解けたセルセウスがその場にへたり込んだ。私はセルセウスに着替えを持って行く。


「大丈夫、セルセウス?」

「全ッ然、大丈夫くない……! 体中痛い……! 今すぐ帰りたい……!」


 そんな会話をしているとガラゴロと音がした。見ると聖哉が、木で出来た手押し車を運んでいる。聖哉はセルセウスの前で手押し車を止めた。


「それでは次の修行段階に移る」

「せ、聖哉さん! ちょっと休憩を、」

「ダメだ。『スタンド・アローン仁王立て』」


 聖哉の手から出たオーラに包まれ、またもセルセウスが鉛色に変化する。聖哉は、硬質化したセルセウスを手押し車に叩き込むようにして無理矢理乗せた。


「リスタ。捻曲イクスフォリアの移動中、これをお前が押すのだ」

「わ、私が!? 何の為に!?」

「『仁王立て』の弱点は機動力が無くなってしまうこと。しかし、硬質化したセルセウスを俺達が運んで移動することで、その弱点を克服することが出来る」

「は、はぁ。なるほど……」

「今からこの岩場を遊歩する。手押し車を押して俺の後に付いてこい」


 鉛色になったセルセウスを載せた手押し車は、意外にも軽い力で押すことが出来た。硬質化しつつもグッタリしたセルセウスが、岩場の振動でガタガタ揺れている。セルセウスは心なしか、ずいぶんと老けて見えた。


 ――変な気分……! 何か老人介護みたい……!


 そんなことを感じつつ、スタスタと前方を歩く聖哉に意味も分からず付いていく。しばらくして私はセルセウスに話し掛けてみた。


「ねえ、セルセウス。これって一体何なのかしらね。……あれ? セルセウス?」


 気付けば、グッタリしていた筈のセルセウスが鋭い目で辺りを窺っている。


「こ、この気配……ッ!」

「どうしたの?」

「誰かが俺達を狙ってる!」

「は? 誰かって誰よ?」


 ちらりと背後を振り返る。アーダマは遠くで楽しそうに手を振っていた。聖哉に渡されたマシンガンも今は持っていない。この広い岩場に他に人気ひとけはなかった。なのに、セルセウスは不安げな表情だ。


「感じる! 感じるんだ! いち、にぃ、さん……いやもっと……!」

「ほう。やるではないか」


 聖哉がぼつりと感心したような声を漏らした。


「聖哉! どういうことなの?」

「セルセウスの言う通り。現在、俺の土魔法により具現化したマドハンド泥の手が、岩場の至る所で銃を構えて俺達を狙っている」

「嘘!! そんなの全然見えないけど!?」


 女神の視力で改めて辺りをぐるり眺めてみるが、それらしきものはまるで見当たらなかった。


「透明化を施した上で設置している。更に、マドハンドは魔法で作った擬似生命体。故に殺気を放ったりしない。事前にそのようなものの気配を察知するのは至難の技だ」

「な、なのにセルセウスには分かったっての!?」

スタンド・アローン仁王立てを発動させられているセルセウスは、高性能レーザー探知機のようなもの。通常なら感知不能の銃撃の気配を察知しているのだ」

「ま、マジ……?」

「ちょっとした未来予知のようなものだな」


 私は畏敬の眼差しをセルセウスに向ける。と、同時に乾いた銃声が響き渡った! 途端、目にもとまらぬ速さでセルセウスがすっくと立ち上がり、腕を十字に組んで聖哉の前に立ち塞がる! 仁王立ちする鉛色のセルセウスの肩から火花が散った! セルセウスが聖哉を狙った銃弾を弾いたのだ!


「す、すごいわ! セルセウス! 何だか能力者みたいで格好いいじゃない!」


 誉めた、その時。『タタタタタ』と至る所から連続した銃声が。私も撃たれた経験から、それがマシンガンによる銃声だと分かる。刹那、セルセウスが残像を残すような速度でちょこまかと動き回り、雨あられのような弾丸をその身に受ける!


「アッヒィィィィィィィィィ!!」


 四方八方から降り注ぐ激しい弾幕にセルセウスの装備は見る見るうちにボロボロになって弾き飛ばされ、あっという間に全裸となった。


「!? いや、やっぱ全然格好よくねええええええええ!! 察知した後は蜂の巣じゃんか!!」


 絶え間ない銃撃にさらされるセルセウスを目の当たりにしつつ、私は叫ぶ。つーか、そもそも事前に撃たれるって察知出来てる分、余計に悲惨!!


 終わらない銃撃とセルセウスの悲鳴。いつしか私の隣にアーダマが佇んでいて、冷静に聖哉に告げる。


「完璧や。仁王立ての修練はもう終了やな」

「うむ」


 二人にはセルセウスが痛かろうが裸になろうが関係なく、ただ完璧な防御が出来ればそれで良いらしい。銃撃の後、鉛色のまま放置されたセルセウスはまるで産業廃棄物のようだった。


 ――こ、この役が私じゃなくてホントに良かった……! セルセウス、ありがとう!


「しっかしウチの技をこんな早くマスターするとはなあ。勇者ってたいしたもんやな」


 褒めるアーダマだったが、聖哉は無言で、倒れたセルセウスを片手で掴むと無造作に手押し車に乗せた。


「聖哉?」

「此処にもう用はない」


 そしてそのまま押して歩き去ろうとする。


「あ、あの、色々ありがとうね! アーダマ!」

「ええて、ええて。まぁがんばりやー」


 私は聖哉に代わり、アーダマに礼を言った。笑顔で手を振り合ってから聖哉の後を追う。


「もう。ちゃんとお礼言いなさいよ」

「そんな時間はない」

「ってことは……もしかしてこのままイクスフォリアに出発!?」

「いや、出発は明後日だ」

「明後日? これ以上、一体何を……」


 聖哉は屍のようなセルセウスを乗せた手押し車を押す手を止めて、私に視線を送ってきた。


「リスタ。明日はお前と二人きりで話をしたい」

「え」


 一瞬、思考が止まる。二人きり……何て甘い響き……! い、いやいやいや! この男が、そんな筈ないじゃないの! 


 私は頭をブンブンと振ったのだった。

 




 

 次の日。私は精一杯のオシャレをして、リビングに降りていった。


 いや分かってるよ! 分かってるけど万が一、デートの可能性も無くはないじゃんね! 99%無いだろうけどホラ、世の中『もしも』ってことがあるじゃんね! 1%くらいは可能性あるじゃんね!


 そう思いながらリビングの扉を開く。普段置いてあったソファなどが片付けられて、中央には木製の机と椅子。その前方には黒板があり、隣には指示棒を持って佇む聖哉がいた。


「リスタ。そこに座れ」

「あ、あの今日は……?」

「エンゾから聞いた話を更に冥王に照らし合わせて確認した内容を、お前にも共有しておく。二時間はウノとドゥエにリビングに入って来ないよう言づてしてある。なので集中して勉強するように」


 ……はい。大方の予想通りでしたー。99%の方でしたー。分かってましたー。


「ってか、またデス・コンフェッションやったの!? エンゾさん平気!?」

「うむ。別状はない。命には」

「その言い方が怖いんだけど!!」

「いいからさっさと席につけ」


 椅子に腰掛けた私に聖哉は繰り返し、念を押す。


「後できちんと理解出来たか確認するからな」

「はいはい」


 そうして聖哉先生の捻曲イクスフォリアについての授業が始まった。まず最初に聖哉はくだんの魔導士がもたらした魔導文明の基礎とは何かを私に説明してきた。かいつまんで言えば『魔力を蓄える技術を人々に伝えたこと』が文明を大きく発展させた要因らしい。つまり元々存在した魔力というエネルギーを誰もが自由に扱えるようにした――そういったことが文明の根本だと言うのだ。


 その上で、聖哉は魔導士以後のイクスフォリアの歴史について軽く触れた。これについては、私もエンゾから直接聞いていたのでさらりと復習程度に留め、話は現在のイクスフォリアの状況に移っていく。


「……現在、捻曲イクスフォリアでは魔族や獣人などの亜人種は殆ど滅びている。かろうじて生き残ったそれらの種も、人間が奴隷として使役しているらしい」

「魔族じゃなくて人間が支配、か。元のイクスフォリアと逆ね」

「人間だからとて油断は出来ん。捻曲イクスフォリアにいる者達は、前述の魔導エネルギーから凄まじい能力を得ている。以前、狼に変形しかけていた男が見せた『スペリアル』というものが、それに該当する」

「ああ……確か銃をこめかみに当てて『プラグイン魔導接続』とか言ってたっけ……」

「『スペリアル』とは魔力を封じ込めたマジックアイテム。つまりアイツの場合はあの銃を媒体として体に魔力を注入し、超人的な力を得るという仕組みだ」

「そ、そんなアイテムを皆、持ってるっての!?」

「おそらく使用する人間は、封じ込められた魔力エネルギーに耐え得る資質が必要となる。とはいえ、大なり小なり皆そのようにして本来無いエネルギーを得て能力向上を遂げている。それが捻曲イクスフォリアの住人達の能力値が異様に高かった理由だ」

「なるほど」

「通常の住人が持ちうるマジックアイテムを基本とし、その上位系を『スペリアル』。最上位を『アルテマ』という」

「アルテマ……! それ、狼男も言ってたわよね!」

「アルテマは魔王アルテマイオスの変異体であるアルテマ・メナスを封印する為に使われた四つの力を内包する宝珠。端的に言えば、俺が元のイクスフォリアで倒した獣皇、機皇、怨皇、死皇の魔力エネルギーを宿している。本来アルテマ・メナスを封じる筈のアルテマを巡り、現在各国が戦争をしているという状況だ」


 グランドレオン、オクセリオ、セレモニク、シルシュト。私の脳裏にイクスフォリアでの熾烈なバトルが甦る。あ、あんな禍々しい力を人間達が欲して奪いあっているというの……!?


 戦慄すると同時に私はふと我に返った。


「つーか、ちょっと待って!! 普通こういう事って、現地で冒険しながら分かっていくものよね!? 私達、座学でスイスイ学んじゃってるけど!?」

「だからお前はダメなのだ。冥界にいながら先々の情報が得られるのなら、それに越したことはない。そもそも情報戦という意味で戦いは随分前から始まっている。ボサッとするんじゃない」


 !? な、何か急に怒られた!! 畜生!!


「とりあえず共有する情報は以上だ。セルセウスにも後で伝えておけ」

「あ、あれ? それって二度手間じゃない?」


 じゃあ、どうして聖哉は私と二人きりで話したいと言ったんだろう。そんな違和感を感じていると、


「……リスタ」


 気付けば、聖哉が私のすぐ目の前に! 整った顔がものすごく近い!


「な、な、な、なぁに!?」

「説明した通り、今回敵の大部分は今までのようにモンスターではなく、人間となる」

「あ、ああ……なんだ。そういうことね……」

「俺の言いたいことが分かったような口ぶりだな?」

「そりゃあ前からしつこく言われてるもん。『時と場合によっちゃあ人間も殺さなきゃならない』って念押ししたいんでしょ?」

「そうだ。幻とはいえ魂の伝播がある以上、人命は尊重する。それでも今後、捻曲イクスフォリア攻略に於いて確実に死者は出るだろう」

「うん。それはもう仕方ないと思う。だって、そんな恐ろしい魔力を持った人間達の世界で『誰一人殺さないで』は流石に無茶だもんね。悲しいことだけど……」

「ほう。そうか」


 私の言葉に聖哉は珍しく驚いていたと思う。私は何だか気まずくなって、頬をポリポリと掻く。


「た、ただね。私、ちょっと安心したんだ。あの世界が未来のイクスフォリアじゃなくって。だって未来だったら、またキリちゃんに出会うことになるかも知れないじゃない? それはある意味すごく嬉しいんだけど、同時にすごく辛いことだから……」

「お前の言う通り、おそらくあの世界にキリコは存在しない。だが、リスタ。心の準備はしっかりとしておけ」

「心の準備?」

 

 聖哉は真剣な顔で聖剣イグザシオンの鞘に手を掛けた。


「俺は捻曲イクスフォリア攻略――いや、救済に於いて、その障害となるものがあれば全て斬る。それが人であるなら人を斬り、神であるなら神を斬る覚悟だ」

「えええええええ!! 私、斬られるの!?」

「たとえ話だ」


 聖哉は今『攻略』から『救済』へと言葉を変えた。幻の住民も元の住民も魂は同じ。故に犠牲は少ない方が良い。それでもイクスフォリアを歪めている原因があるなら、それは心を鬼にして斬り伏せなければならない。それが人間ならば人間も。そう、神竜王となったマッシュを殺し、マッシュの魂を救ったように。


 聖哉の言っていることが、今までよりも深く理解出来た気がして、私はこくりと頷いた。


「うん。聖哉はその考え方で良いと思う」

「本当か。ならば、もし仮にそれが――」


 私の目をしっかり見据えたまま、聖哉は言葉を止めた。


「……何でもない」

「は!? い、いやメチャクチャ気になるんだけど――って、わっ!!」


 急に聖哉は一枚の藁半紙を差し出してきた。


「こ、これは?」

「確認のプリントだ。捻曲イクスフォリアについて、きちんと理解出来たか調べる。90点以下なら再試験。しっかりやるように」

「私、女神なのにこんなこと、やらされるの!?」

「女神ならば満点を取れるだろう」

「余裕だっての!!」


 ……三回追試を受けた後、私はようやく自分の部屋に戻ったのでした。

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