第七章 完全なる病気
「これが……ケオス=マキナの本体……!!」
目の前に現れた異形から溢れ出る邪悪なオーラに飲み込まれそうになる。
お、落ち着け、私! 案外、見かけ倒しかも知れないわ!
そして能力透視を発動。私は目を大きく開いて、
グレイターデーモン
Lv66
HP15100 MP424
攻撃力3577 防御力3229 素早さ3847 魔力548
耐性 水・土・風・火・毒・麻痺
特殊スキル 全魔力攻撃力転化(Lv15) 飛翔(Lv10)
特技
性格 残忍
……私の両足はガクガクと震え出す。
う、う、嘘でしょ!? こ、こんなステータス……難度Dクラス世界の魔王を超えているじゃない!!
絶望が私の体全てを覆い尽くした。元々、薄かった勝率がこれで完全に消滅してしまった。
私は先程、こう思った。『ステータスの数値が高い方が必ず勝つとは限らない』と。だがそれは、あくまで互いのステータス値に大きな開きがない場合である。聖哉の攻撃力、防御力、素早さは全て1000未満。対してケオス=マキナは3000を超えている。たとえどんなに勘が鋭くても、もしくは、どんなに類い希なる戦闘のセンスを持っていようとも、素早さが相手の三分の一しかなくては有無を言わさず攻撃を喰らってしまうだろう。そして、それは聖哉の死を意味する。
私の青ざめた顔を見たのか、ケオス=マキナ……いやグレイターデーモンは金色に光る目を細めた。
「理解したか!? 能力差は歴然!! 勇者よ!! もはやお前に勝機はない!!」
女性の声から打って変わって唸るような低い声を出した後、ナイフのような爪を持つ右腕を大きく掲げる。
「一撃だ!! 一撃でお前の首を胴体から切り離してやる!!」
そして大きな体を屈めたかと思うと『ドンッ!』と激しい音を立て、両足で地を蹴った。その刹那、腕を振りかぶったグレーターデーモンが既に聖哉の目前まで至近している!
……その瞬間、私は思わず目を閉じた。自分が召喚した勇者が殺されるところを見たい女神などどこにいるだろう?
――ごめんなさい、聖哉。アナタは本当に逸材だった。だけど、難度Sの異世界ゲアブランデでは魔王の配下でさえ他世界の魔王並の力を持っていた。まさかこれ程までに恐ろしい世界だとは思わなかった。そう……無理だったのよ。私にこの世界を救うなんて……。
絶望、後悔、諦観……やがて私は目を開き――そして驚愕した。
聖哉は平然と佇んでいた。首も切り離されてはいないし、体のどこも鋭利な爪で切り裂かれていない。そしていつものように、つまらなさそうな顔をしている。
「か、かわしただと!? な、何故だ!? こんなバカな!!」
私同様、ケオス=マキナは驚愕していた。そして得体の知れない者を前にして、次の攻撃を逡巡している様子だった。
その間に私は思考を巡らせる。
ど、どうして!? どうしてこんなことが!? もう第六感なんかで攻撃を避けられるレベルをとうに超えているのに!?
……その時、不意に。私の脳裏に、聖哉がニーナの父親を救った光景が蘇った。あの時、見せた特技『
だが、見落としていなかったとしたら?
ステータスに無い特技を聖哉が繰り出したのだとしたら?
そこから導かれる結論は一つ!
能力透視で私やケオス=マキナが見ていた聖哉のステータスは彼本来のステータスではないということ! つまり……
――『
私は聖哉を見やる。そして自分の持つ女神の力全てを両目に集中させてから、能力透視を発動した。
すると、ステータスの代わりに私の視界にこんな文章が現れた。
『見るな』
えっ……な、何コレ……? そ、そうか! 聖哉が持つ『偽装』のスキルよりレベルが低い『能力透視』だとステータスが見れないようプロテクトされているのね! で、でもコレで聖哉がステータスを偽装していることが確定したわ!
私はより集中して、目を凝らす。また新たな文言が現れた。
『見るなと言っているのに。特にリスタは絶対に見るな。のぞきは犯罪だ。この変態女神』
ぐうっ!? 名指しで書いてきた!? わ、私に見られるのを見越していたというの!? つーか、誰が変態よ!! こうなったら意地でも見てやるんだから!! もっと能力透視のレベルを上げてやるっ!!
私は私の持つ全ての力を両目に注いだ。
唸れ!! 私の『
全メガミックパワーを費やした結果、ガラスの割れるような音が私の心の中で鳴り響いた。遂に聖哉の『偽装』が解けたのである。
私はゼイゼイと息を切らしつつ、聖哉の本当のステータスを垣間見た……。
Lv37
HP51886 MP8987
攻撃力11005 防御力10369 素早さ9874 魔力4787 成長度863
耐性 火・氷・風・水・雷・土・毒・麻痺・眠り・呪い・即死・状態異常
特殊スキル 火炎魔法(LvMAX)爆炎魔法(Lv5) 魔法剣(Lv7)獲得経験値増加(Lv11)能力透視(Lv15)偽装(Lv20)飛翔(Lv8)
特技
性格 ありえないくらい慎重
……げええええええええええ!? な、な、な、何じゃこりゃあああああああ!? 統一神界で見た数値の五倍……いや十倍以上!? こ、ここまでステータス上げる、普通!? スキルも特技も増えてるし……ってか、待って待って!! これって流石にあの短期間じゃ無理よね!? ってことは何!? 最初の修行が終わった段階から、聖哉は『偽装』のスキルを発動していた!? つまり、つまり、ケオス=マキナに出会った時、既にケオス=マキナを軽く上回るステータスを持っていて、それなのに慎重を期して敵前逃亡したというの!? そして更に召喚の間で修行をして……!?
グレーターデーモンのステータスを見た時以上に私は激しく震えながら、目の前に立つ男を眺めていた。
――び、病気!! これはもう完全なる病気!!
おののく私と裏腹にグレーターデーモンは覚悟を決めたようだった。
黒い翼を広げ、空高く舞い上がる。やがて空中で停止し、そこから大声で叫ぶ。
「ならば!! ちょこまかとかわすことの出来ない技をお見舞いしてやろう!! 全ての魔力を拳に乗せ叩き付ける奥義
だが、そこまで叫んでグレーターデーモンは言葉を止めた。空中から見下ろした先程の位置に、聖哉がいなかったからだ。
グレーターデーモンは自分の隣で空中停止している聖哉に気付くと、目を大きく見開いた。
「な、何だ……と!!『飛翔』のスキルだと!?」
空中にいる筈のない勇者と対峙し、愕然とするグレーターデーモンを見上げながら、私は心の中で独りごちていた。
――魔王軍四天王ケオス=マキナ。アナタは強い。ものすごく強い。奥の手を二つも隠し持つ、用意周到な戦闘の達人よ。普通の勇者なら此処でアナタにやられて即座に退場だったでしょう。でもね……今回は相手が悪かった。だって……だって……
今。グレーターデーモンの前には同じく空高く舞い上がり、剣を構えた勇者がいた。そして構えた剣の刀身が火を放ちながら赤く燃えている。上級スキル『魔法剣』の発動である。
魔法剣を見て、顔を大きく歪ませたグレーターデーモン。同時に聖哉が口を開く。
「喰らえ……全てを焼き尽くす灼熱の剣技……『
残像の残る驚異的なスピードで聖哉が炎の剣を乱れ振るう。すると瞬く間にグレーターデーモンの体表には赤く光る格子状の線が刻まれる。その後、固まったように微動だにしないグレーターデーモン。聖哉が剣を鞘に収め、グレーターデーモンから離れたところで再度、空中停止する。途端、グレーターデーモンの体に無数に刻まれた格子がより赤く輝きを放ち、次の瞬間、耳朶を振るわす轟音を放ち、大爆発した。
地上にて爆発の熱風を浴びながら、私は思う。
――だって……この勇者は……ありえないくらい慎重すぎる!!
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