新酒呑童子の野望

アイキ

第1話皆からはプロローグとか始まりの話とか表現されるじゃろうお話し

【0】


僕は夢を見た。

今思えばこの時からようやく僕の物語が始まったのだと思う。

逆に言えばあのときまでは、なんとなく生き、なんとなく暮らしていたのだと思う。要するに僕は何もなかったのだ。

今から語られる物語は、夢も希望もなにも持っていなかった青年がとある少女と出会ったことで始まる甘くも酸っぱい青春ストーリーなんてものではなく、夢も希望もなにも持ってなかった青年が、とある少女と出会ったことで戦いに巻き込まれ、その中で自分自身と言うものを見付けていくというテンプレで、少し探せば何処にでもあるようなありふれた物語だと思う。

……どうか最後までお付き合いをお願いしたい。


【1】


「起きろ!起きるんじゃ!お主よ!そこのお主じゃ!……こやつは何故起きぬのじゃ?ここまで波長が合う者等、そう居ないのじゃよ?そーろーそーろーおーきーるんじゃー!!」

古風な言葉遣いをする少女の〝声〟が叫んだ瞬間、何故か地面に寝そべりすやすやと寝息をたてている青年から、痛々しい、言うなれば〝誰かにお腹を殴られた〟様な音が鳴り響いた。

「うぐッッ! 痛っ!……な、なに?何が有ったんだ??」

青年はさっきまで声が聴こえていた方を向く。

そこできっかり10秒凝視してから、首を少し傾げながら「……誰だよ?」と呟く。

「ほう、やはり妾の姿が見えるのかえ?」

「黒い人の形をした影しか見えないけど?……ってここ何処??何で空が赤いんだ?と言うか貴女誰??」

冷静に問い掛けられ、素で返してから質問責めと言うちょっとしたテンプレしていた。

「質問をする前にお主の名を名乗るのじゃ」

「あ……土嶋鬼門つちしまおうがだ」

「鬼門かえ?……良い名前じゃな! 妾の名は酒呑童子しゅてんどうじじゃ!」

「酒呑童子?酒呑童子ってあの?」

「あー多分お主の言っておる酒呑童子と妾は別物じゃな」

鬼門は自分が座って居ることに気付き立ち上がる。

「別物?」

「お主も知っておるじゃろ?酒呑童子はもう何百年も前に倒された事をのう?」

「確かにそうだな……じゃあ何だ?」

「酒呑童子は鬼と言ったら真っ先に出てくるほど有名になってしまったからの~怪と言うのは皆から知られてしまったら実態を持つことになってしまうのじゃよ。言うなれば酒呑童子2世かの?」

2世とは日本のしかも最強の鬼が使うような表現方法ではない様な……

「な、なんじゃ!その目は!と、ともかくそんな話はどうでも良いのじゃ……そうじゃのお?先に結論を言うとするかの。妾は酒呑童子じゃ。しかしそれは名だけで、今の妾は姿も趣味も考え方すら違う全くの別物なのじゃ……そこでの?他の鬼……まぁ、茨木童子いばらきどうじとかじゃの。あやつらが偽者と勘違いして妾の命を狙ってるのじゃ。……じゃからの?」

そこで酒呑童子は一旦言葉を溜めて申し訳なさそうな声でこう呟く。


「妾を助けてたも?」

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