光太と曜子2

「はぁ……」


「お前、ため息30回目だぞ」


 翌日、学校の放課後。

 曜子が引っ越しをすることを聞いて、俺はショックでただ呆然としている。

 将太郎は暇なのか、俺のため息を数えてやがった。


「曜子が引っ越しか……」


「さっさと告白すればいいだろ。遠距離恋愛ってあるだろ」


「簡単に言うなよ。あいつはさ……親に迷惑かけないんだよ、だから告白すると引っ越す決心が揺らいで、あいつにも迷惑がかかるだろ」


「告白のOKもらう前提で言ってるなお前。久松は告白された二人に断ろうとしてるのに」


「うー……」


 それを言われちゃな……。

 佐分利は一応中学から知り合いだけど、三間っていう奴にもコクられたもんな……。


「やあ、鯵坂」


 俺の前に現れたさわやかなイケメンは佐分利 剛。

 ボクシング部の元部長で、現在引退済み。

 後のフクロウカフェを経営するオカマだとは到底思えない。

 なんだか妙に元気が無さげだ。


「おう佐分利、その様子だと曜子に振られたか?」


「まあね。『私は好きになる権利なんてない』って言われたよ」


 好きになる権利ねぇ……。

 拾われた身でも権利くらいはあると思うんだけどなぁ……。


「鯵坂も振られたのかい?」


「いや、俺は告白はしてない。あとは同じクラスの三間を振るみたいだけど……」


「三間ってあの不良の三間かい?」


「ああ」


「まずいな……」


 佐分利が三間のことを聞くと、何やら難しい顔をしていた。


「何? 三間ってそんなヤバイの?」


「ああ……暴走族と絡んでたり、飲酒、タバコ、噂だけどクスリにも関わってるって噂があるんだ」


「マジで……」


 やばいな、そんな奴に曜子を狙ってなんて……。


「どう、どう、どうするんだ!? この分だと今日三間に会って振るかもしれないぞ! 何しでかすかわからないぞ!」


 俺は動揺を隠せないでいた。

 この時代はまだ携帯なんてなかったため、連絡なんて取れなかった。

 慌てる俺を将太郎はなだめた。


「落ち着け、三間は最近近くの廃工場でたむろってるって噂だ。とりあえずそこに行ってーー」


「何してんの?」


「「「うぉう!」」」


 いきなりの曜子登場に、俺達三人は驚いた。


「曜子! 三間の告白は!」


「……何言ってるの? 三間君は今日休みだよ」


「……あ」


 忘れてた……。

 曜子の引っ越しで頭がいっぱいで、将太郎と佐分利は違うクラスだから知らないんだ。

 ていうか告白してきた三間が同じクラスってことを気にしてないって、どんだけ引っ越しがショックだったんだ!


「だから明日断るの」


「そ、そうか」


 そう言って曜子は帰っていった。

 曜子は涼しい顔をしているが三間については気にしてないのか。


「んで光太、どうするんだ?」


「決まってるだろ将太郎……」


 俺はある決意をした。



 ***



 さらに翌日の放課後。


「準備完了!」


 俺は学校近くの公園にいる。

 理由はもちろん、三間に曜子に何かするか見張るためだ。

 気づかれないように持ってきた私服に着替えて、準備をした大きなリュックを背負って待ち伏せ中。

 今日は三間もいたし、将太郎が言ってた廃工場を通るにはこの裏口を通る。

 そして待つこと30分。


「お、来た、あ!」


 裏口から現れたのはガタイのいい金髪のヤンキーである三間が仲間を連れ、そして強引に連れられる曜子の姿があった。

 明らかにヤバい雰囲気だ……。

 そして俺のいる公園を通り過ぎ、そこから少し歩いて廃工場に入っていった。


「い、行かなきゃ……」


 俺は行かなきゃいけない……だが、足が震えて動けない……。

 俺はただのノリで生きてるヘタレだ。

 殴られるのは嫌だし、もしかしたら死ぬかもしれない。

 だが……好きな人のために命を賭けなきゃいけない!

 俺は震えた足を無理矢理動かして、廃工場に向かう。

 その前に、電話ボックスで警察に連絡することにした。

 たとえ警察に迷惑でも、曜子を救うために許してくださいおまわりさん!

 電話をかけ終えた後、廃工場の前に着き、中を覗きこむとーー。


「きゃっ!」


「!」


 三間の仲間に押されて、壁にぶつかる曜子の姿があった。

 曜子は壁にぶつかった反動で倒れた。


「てめぇ俺様を振るなんていい度胸してんじゃねぇか! ああ!」


「私は……絶対にあなたなんか好きにならない」


「んだとてめぇこら!」


「三間さん、こいつどうします?」


「もういい! 興が冷めた! やれ!」


「「「ふぅ~!」」」


 三間の命令で仲間がテンションが上がった。


「いや! やめてぇ!」


 三間の仲間は三人がかりで曜子を襲い始めた。

 曜子は必死で抵抗するも、三対一では勝てず、どんどん服を脱がされていく。


 ヤバい……行かなきゃ。

 怖い、怖い、怖い、怖い、怖い……。

 でもやるんだ、やるんだ……やるんだ!


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 俺は大声を発し、気合いを入れて、リュックの中からコレクションのエアガンを取り出した。

 俺はリュックを片方の肩で背負いながら、三間に向かって走り出した。


 ダン! ダン! ダン!


「痛って! 何だ!?」


 俺はBB弾を三間の仲間に向かって乱射した。


 ※危険ですので絶対に真似しないでください。


「ふんぬ!」


 そして三間の仲間に向かってボディーアタックをし、不良達から曜子を離した。


「んだてめぇこら!」


「よ、曜子に手を、出さないでもらおうかぁ~!」


 俺は震えた声で三間にそう言った。

 俺はリュックをおろした。

 リュックの中にはエアガンとBB弾が入っていて、俺はBB弾を急いで補充した。


「光太……何で?」


「そんなの曜子が心配だからに決まってるからでしょう!」


 俺は再びエアガンを構えた。


「痛てぇなこの野郎!」


「せっかくいいところだったのによー!」


 三間と仲間達はその辺にある鉄パイプを持って、明らかに戦う気満々だ。


「ちっ……やっちまえ!」


「「「うぉぉぉぉぉぉぉ!」」」


「うあぁぁぁぁぁぁ!!」


 三間が向かって来る。

 俺はやけくそ気味に、エアガンを乱射し、対抗した。



 ***



「光太……」


「あ……」


 結果は惨敗だった……。

 さすがにエアガンでも、4対1、しかも喧嘩慣れしている相手には勝てるわけがなかった……。

 しかもエアガンが入ったリュックはすぐに取られるし、BB弾を補充する暇を与えないし、普通に考えてわかっていた。

 ボロボロになりもう死ぬんじゃないかと思ったその時に、事前に呼んだ警察により、三間達は逃げ出し、現在に至る。

 ボロボロの俺に曜子が近くに寄る。


「どうしてそんな無茶を……」


 今にも泣きそうな声で曜子は言った。


「言ったでしょ、心配だから来たって、三間の悪い噂があるからね……」


「だからって、私にそんな権利なんてーー」


「権利権利うるさいよ!!」


 俺は大声を上げた。

 それに曜子は驚き、俺も傷に響いた。


「いくら拾われた身でも、拾われたから親が不自由になったとしても、誰かを好きになる権利はある! 自由になる権利もある! それでなくては俺が困る!」


「え?」


「俺は曜子が好きなんだ!」


 俺は言った。言ってしまった。

 告白したら俺はすごい恥ずかしくなり、そして……。


「グスっ……」


 曜子が大粒の涙を流して泣いた。


「私だって……好きだよ」


「……へ?」


「……私だって光太のことが好きなもん! 小学校の頃から、ずっとずっと前から好きだったもん!」


「……マジで」


 こんな口調で感情が出た曜子は多分初めてかもしれない。

 驚いた……まさか俺と曜子が相思相愛だったなんて……。

 わがままを言えずにいた曜子は我慢していたから、俺のこともずっと言えなかったんだ。

 相思相愛ならもう恐いものなどない!

 俺は両手で曜子の手を握った。


「曜子、俺はお前と別れたくない! ご両親の説得は俺がなんとかするから……ずっと一緒にいてくれ!」


「…………うん」


 俺の精一杯の告白に、曜子は涙を流しながら笑顔を浮かべ、OKをもらった。


 その後、俺は曜子の両親に「曜子と付き合いたいから俺の家に住まわせて欲しい」と土下座をして言った。

 曜子の両親は「いなくなってせいせいする」とあっさり了承した。

 二人は心の底から、曜子を拾ったことを後悔したそうで……曜子は悲しい顔をしていた。

 そして俺の両親を説得し、これまたあっさり了承してくれた。

 そして高校卒業後、俺と曜子は18歳で結婚した。

 そして俺はがんばって就職をし、曜子のために真面目に働いた。

 ちゃんとヤることもヤって、曜子が子供を生んで、俄然仕事に身が入った。

 子供は光太の「光」に曜子の「曜」に日を抜いて「耀」。

 そして人を助ける人になって欲しいということで「助」で「耀助」と名付けた。

 曜子は俺と親父達、そして耀助といて昔より笑顔になっていった。



 ***



 それから曜子が死んで……。

 悲しいが、今は耀助もいるし、フクロダさんとニコちゃんもいる。

 まさか人を助ける人と願った子が異世界から来た魔法使いを助けるとは思わなかった。


「ただいま~」


「「ただいま帰りました」」


 思い出に浸っていると皆が帰って来た。


「おう、おかえり!」


「買って来たよ。チーズケーキ」


「ありがとさん」


 曜子の誕生日に大好きだったチーズケーキを食べる、それも曜子が死んでからも続いている。


「父よ、またそれ見てたのか」


「ん? まあね」


 耀助が言ってるのは、俺が持ってる銅のペンダントだ。

 これは曜子が両親に拾われた時にずっと持っていたやつらしい。

 これが誰も知らない曜子の唯一の私物。


「そんじゃさっさと飯作るから、そっちは散らかしたの片付けて」


「へいへい」


 曜子……俺も耀助もちゃんと元気にしてるよ。

 だからこれからも見守っててくれ。

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