混ざりあった二人2
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁ!」
歩美とニコが混ざりあった二人の裸姿を見て俺は手で目を隠して叫んだ。
「何であんたが叫んでんのよ! 普通逆でしょ!」
アーネにつっこまれた。
俺は指の間からこっそり見た。
改めて見ると二人の体は髪色の左右対称以外は同じで、背丈も顔も胸も二人の間にしたような感じだ。
「…………っ!」
右のアユニコ(混ざりあった二人の名称)が恥ずかしがり、その場にしゃがみこんだが、左のアユニコはめっちゃ堂々と立っている。
「もう耀助さんったら、もっとちゃんと見てくださいよ」
左アユニコが俺の両手をつかんで、裸を見せようとしている。
ニコほどではないが、大きめな胸があらわになっている。
「いやちょっと!」
「耀助さんだったらいくらでも見てください。なんなら色々好きにしても構いませんよ」
えぇ……何この子、色々大胆なんだけど~。
「アーネ、この声と俺のことさん付けで呼んでるってことは、こっちはニコさん?」
「ええ、忌み子の精神に歩美の明るさと度胸、あとあんたに対する好感度のほとんどをつぎこんでおいたわ」
俺に対する好感度って何?
いやいやいや、それよりたしかに明るいし、裸を堂々と見せる度胸はあるけど、こちらとしては困るよ!
気づけば右のアユニコはすでに歩美の服を着ていた。
「…………変態」
「うぐっ!」
歩美の声で変態と呼ばれ、ゴミを見るような蔑む目で見られた。
赤ん坊の頃から一緒だったこと、そしてドMではない俺にとって、今まで言われたことなかったから、胸に突き刺さる。
「こっちは歩美の精神に忌み子の頭脳を少し分けて、弱気な部分を全部つぎこんだの。その代わりあんたへの好感度は少しだけだけど」
だから俺に対する好感度って何?
これは俺の長い付き合いとしての、親友的な好感度を含めてなのか?
「わっ!」
「ひっ!」
アーネがいきなり大声で叫ぶと、右アユニコはまたしゃがみここみ、プルプルと震えた。
「アハハハハハ! どうよあの怯えよう! あの歩美とは思えないくらい弱虫になったわ!」
右アユニコの怯えにアーネは大爆笑……歩美にしごかれたとはいえこいつ本当に性格悪いな……。
「耀助さん、私のこと見てくれないと嫌ですよ~」
「とりあえず服着てください!」
左アユニコが裸で俺の腕にくっついてくる。
俺も人間のオスで嬉しいことは嬉しいんだが、いきなりこれは困る!
「さぁ混ぜ歩美。いつまでもしゃがんでないでもう帰るわよ!」
「うん、帰る……」
アーネを右アユニコを連れて行こうとする。
「ちょっとこんな状況で帰る気!?」
「大丈夫よ。ちゃんとやり方はわかったから戻すことはいつでも出来るわ。飽きたら帰すし」
「飽きたら!? 飽きたらって言ったか!」
そう言ってアーネは右アユニコを連れて行って庭から帰ってしまった。
「耀助さん、着替えましたよ」
左アユニコはちゃんとニコの服を着ている。
あーもう……一体どうすればいいんだよ。
溶けたり、合体したり、戻らなかったり、持って帰ったり、とても宿題どころじゃねぇよ。
ていうか歩美宿題忘れてるし……ていうか事の元凶であるフクロダさんがいつの間にかいねぇし。
「アユニコさん。フクロダさんは?」
「スライム化の薬がなくなったので山に材料の調達に行きました」
アユニコ呼びについてはスルーなんだ。
というかまじっすか……つまり、この大胆になった左アユニコさんと二人っきりですか……大丈夫かな、俺の精神……。
「じゃあ……宿題します?」
「はい」
ということで、俺とアユニコは宿題の続きをすることにした。
「「………………」」
沈黙の中で宿題をしているが、全く集中出来ない……。
じぃぃぃぃぃぃぃぃぃ~……。
なぜならアユニコがノートではなく、俺を見ているからだ。
俺を見てニヤニヤしているアユニコ、ここは言った方がいいな。
「あのー、宿題しましょうよ……」
「えー、だって耀助さんのこと、ずっと見ていたいんですもん」
おおぉぉぉ、16年間生きてきて、まさか満面の笑みでそんなセリフを言われるとは思わなかった!
他者から見ればバカップルみたいでうざったいかもしれないが、本人だとこうも嬉しいとは!
「アハハ……照れますね」
奥手のニコに歩美の強気、そして好感度が増すと、こうも変わるとは……。
「ねぇ耀助さん、せっかくの二人っきりなんですよ」
そう言ってアユニコはシャーペンを置き、じりじり俺に近づき、隣に来た。
「もっと私に構ってくださいよ」
「おぅ……」
「えい!」
「おほっ!?」
アユニコが俺の腰に抱きつき、その勢いに負けて俺達は倒れてしまった。
俺は驚いて変な声が出てしまった。
「ちょちょちょ! アユニコさんや! そんな大胆な!」
「あぁ……耀助さん、いい匂い……」
アユニコさんが俺の腹にうずくまっている。
「耀助さんの全てが欲しいです」
「す、全てとは!」
「耀助さんの顔も体も欲しいです」
体!? そんなエロスなことを!
「眼球も心臓も唾液も血も……このまま殺して飾って一生見ていたいです」
「え、殺す?」
「そしてこのままどこか誰にも見られない場所に閉まって、私だけ独り占めしたいです」
今殺すって言ったよね……なんかアユニコさんの目が怖いんだけど……。
ブーブーブーブー。
「ん?」
スマホのバイブが震えた。
「ちょっと失礼」
見てみると浅羽さんからのメールだった。
そういえば夏休みの自由研究の時に岩下と一緒にメアド交換したんだっけ。
『自由研究のまとめの手伝いがしたいので、また会えますか?』
そういえば自由研究は捏造するってことになったんだっけ。
とりあえず金山に相談してあとで報告するようメールをしてーー。
ドスッ!
「…………え?」
……今、寝ている俺の顔の横にはニコが投擲に注射器がぶっ刺ささった。
それをやったのはもちろんニコだ。
「耀助さん……私がいるのに、何で他の女の子と話しているんですか?」
えぇー、これはメールであって話してないんだけど……。
これって嫉妬ってやつ?
「いや……耀助さんは私の……誰にも渡さない! 私だけのものなんだから!」
アユニコさんが頭を抱えながら叫んだ。
目に光がなく半端なく怖い!
俺は今、貞操的な危険より、命の危機を感じている。
これは好意が強すぎるあまり、精神的に病んでしまう、いわゆるヤンデレというものではないか!
「よっと!」
命の危機を感じた俺は勢いよく起き上がり、アユニコをどかし、逃げようとした。
ガシッ!
「ひっ!」
だが、アユニコが俺の腕をつかみ、力負けした俺は再び横になってしまった。
これは歩美の馬鹿力も混ざっているから腕力も上がってるようだ。
「耀助さ~ん……逃げないでくださいよ~…逃げないように耀助さんの四肢を切断しましょう」
「四肢!?」
俺手足無くなるの!?
「大丈夫ですよ、私が全てのお世話をしてあ・げ・ま・す、ウフフフフフ……」
アユニコの不気味な笑みに、俺は顔を青くした。
ヤバイ、このままだと俺は死ぬかもしれない……。
「ちょっとアユニコさん! ストップストップ!」
「それではまずは大人しくしてもらいましょう」
アユニコが注射器を取り出して俺の眉間に刺そうとしている。
これは……もうダメかもしれない……。
「ぐふっ!」
死を予感しているとき、アユニコから奇声を発し、反り返った。
そして後ろ向きに倒れて、そのまま動かなくなった。
「えっと……助かった? あれ、注射器?」
アユニコの脇腹にはニコがいつも使ってる注射器が刺さっていた。
「危なかったですね」
すると、フクロダさんが野草がたくさん入った野菜かごを持って庭からやって来た。
「フクロダさん!」
「再びスライム化の薬を作ろうと急いで山の中に行ったんですが、眠り薬を常備しておいて正解でしたね」
「注射器、フクロダさんが……」
「ええ、ニコの投擲は私が教えましたからね。ニコほどではありませんがね」
「フクロダさん……」
フクロダさん、あんたは命の恩人だ。
あのアユニコの狂気はさすがの俺も命の危険を感じたぜ。ただ……。
「フクロダさんありがとう……と思ったけどそもそもあんたが元凶じゃねぇかドロップキーック!!」
「ぐふぁ!」
俺は庭に走り出し、フクロダさんにドロップキックを食らわし、庭には蹴った勢いで野草が飛び散った。
それから夕方、フクロダさんがスライム化の薬を作り終えてすぐに、アーネがもう一人のアユニコを連れて来た。
あれからアーネはおじさん達ががいない間にスネーリア、ウルルンと共にネチネチといじり、そして帰って来てすぐにバレたというごく普通な理由だった。
そして「ちゃんと歩美を連れて来ないと飯抜きって香織(歩美母)に言われた」と言われたからここに来たようだ。
こうしてフクロダさんの薬で二人のアユニコを溶かして、アーネが振り分け、元の歩美とニコに戻った。
もちろん今度は隣の部屋に移動して裸を見ないようにした。
そしてその後ーー。
「……………………」
「どったのニコちゃん?」
俺とフクロダさんが晩御飯を作っているとニコがちゃぶ台でうずくまって、帰って来た父が心配している。
「私、一度気を失ったんですが、その時に耀助さんに裸を見せたり、密着して誘惑したり、殺そうとした夢を見たんです。ですから私は恥ずかしさといたたまれなさに……もう……」
「んー何で気を失ったのかはともかく、妄想なんじゃないの?」
「だとしたら私はなんて不埒なことを……あぁ!」
父の適当な言葉でニコが恥ずかしさにまたうずくまった。
どうやらスライム化した間は記憶かま曖昧になっており、あのヤンデレ状態は夢としているようだ。
もし覚えていたらヤンデレになるんじゃないかと思い、俺は内心ホッとした。
「フクロダさん、今後は薬の効果は早めに言ってくださいよ」
「わかりました……」
歩美に関しては単純だから大丈夫だろう。
結局、夏休みの宿題は少ししかやってないから一番泣きを見るのは歩美なんだろうな……。
そんなことを思いながら俺は晩飯を作るのだった。
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