ユイ再び2

 フクロウカフェを出て、俺達は岩下と別れて、俺達はフクロダさんのバイト終了まで近くのゲーセンで暇を潰している。

 俺とニコはベンチに座りながら対戦格闘ゲームをしている歩美と金山のことを見ている。


「あぁもう! また負けた!」


「ハハハ、ゲームなら僕は自信あるからね」


 ちなみに現在金山が全勝中。

 金山はゲーム慣れしてるのか俺も一度も勝ったことはない。

 歩美はこれ以上金の無駄にならないようにさっさとやめた方がいいと思うが……。


「よし、もう一回!」


 歩美は熱くなってまた勝負を仕掛けた……こりゃ小遣いなくなるな……。


「耀助さん、岩下さんはどうすればいいのですか?」


「岩下が言うなっていうのであれば、俺達は黙ってた方がいいと思います」


「でも、それでは岩下さんは一人に……」


「一人ではないですよ。金山もいますし、その上俺達もいますからむしろプラスになりました。俺達は岩下の味方でい続ける。それだけです」


「なるほど」


 誰だって一人は寂しいもんな……。

 俺だって小さい頃は歩美一人しか友達いなかったし……。


「耀助お金貸して!」


 そんなことを思っていると歩美がいきなりやって来た。

 その後ろから金山も歩いてやって来た。


「兵藤まだやるの?」


「もう小遣いないから貸して!」


「やだよ。もう帰るぞ。フクロダさんも仕事終わってるだろうし」


「え~……」


 スマホの時計を見ると今は四時少し前、そろそろフクロダさんのバイトも終わるだろう。

 俺達はベンチから立ち上がり、帰る準備をしているとーー。


「ん?」


 金山がスマホを取りだし、操作し始めた。


「あ、浅羽さんからだ」


「お前、いつの間に浅羽さんのアドレス聞いたんだよ……」


「え? 耀助のお見舞い行った時にだけど?」


 知り合って間もない異性にアドレスを聞く……俺にそんな度胸はない……しかも金山って彼女持ち(多分)だよなおい。

 これがモテる男の余裕というものか……。


「え!?」


「どうした?」


「今、浅羽さんからメールが来て、ユイが丸二の不良と喧嘩だって!」


「「「えぇ!?」」」


 別れてからまだ一時間も経ってないのにもう!?


「どうやら今、川原にいるらしい。僕達も行こう!」


「お、おう!」



 ***



 俺達は田舎側と都会側を挟む大きな川に着いた。

 俺の自転車に金山、歩美の自転車にニコを乗せて、急いでいたため、交通ルール無視の二人乗りで来た。

 俺達は自転車から降りて、辺りを見渡した。


「皆さん!」


 遠くの方で浅羽さんが手を振っていたため、俺達は浅羽さんの方に向かった。


「浅羽さん、ユイは!?」


「あ、あそこに……」


 浅羽さんが指差したのは橋の下だ。

 その下には橋の影でよく見えないが、複数のうごめく人影が見える。

 俺達が近づいて見るとーー。


「おらっ!」


「ぐふっ!」


「死ねぇ!」


「ごふっ!」


 十数人の青い制服を着た丸二の不良達が岩下を寄ってたかって殴っている。

 よく見たら木のバットや鉄パイプを持っている奴もいる。


「何よアレ……一人にあの集団って勝ち目があるわけないじゃない! しかも武器持ってるし!」


「最初は2、3人だったんですけど、仲間を呼んだみたいで……」


「ユイなら2、3人いっぺんなら勝てるんだけど、あの人数は……」


 2、3人でもすごいけど、あれじゃ一方的過ぎる。


「よっしゃ! 行くよ耀助!」


「おう! ……え?」


 歩美の声に勢いで返事したけど、今何て言った?

 この不良集団に飛び込めと?


「死ねや!」


 不良の一人が鉄パイプを振りかぶった。

 ヤバい、岩下がピンチだ。


「ヤッバ……行って来い耀助!」


「何でだあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 歩美が俺を不良達に向かって投げ飛ばし、俺の体は放物線を描き、岩下と不良達の間に割って入った。


「うぉらぁ!」


「岩下無事かばぁ!?」


「えぇ!?」


 ちょうど不良が岩下に鉄パイプを振り下ろした瞬間、俺が割って入り、俺が殴られてしまい、岩下が驚いた。

 出てきて早々大ダメージ……すんごいデジャブを感じるな……。


「お~、痛った~」


『えぇ!?』


 俺が殴られてすぐに起き上がったことに岩下だけではなく、不良達も驚いた。


「鯵坂何でいるんだ!? いやそれ以前に大丈夫か!?」


「あー……平気、血が出てないから」


「そ、そうか……」


 俺は頭を押さえて確かめると、頭に傷があるくらいだ。

 アーネの魔法の岩攻撃は頭から血が出るほどだから不良の鉄パイプ攻撃はあまり大したことはない。

 岩下は納得していない表情をしているが、俺は歩美に鍛えられて体だけは頑丈に出来ている。

 我ながら本当丈夫だな……。


「耀助さん、ご無事ですか!?」


「ユイも無事か!? あ、耀助頭がちょっと傷が!」


「はぁ!? あんた達、よくも耀助に傷を!」


「「いやお前(兵藤)のせいだから!」」


 ニコ、金山、歩美、そして何も言わずに浅羽さんが後から来て、歩美が投げたのに不良のせいにしたことに俺と金山がツッコミを入れた。


「お前ら、何でこんな所に……お前らには関係ないだろうが!」


「関係ないわけないだろ! 友達がピンチな時に行かないバカがどこにいるの!」


「スズ……」


 金山が岩下を本気で怒っている。

 これは友達を本気で心配しないとしない行動だ。

 岩下も金山の言葉に何も言わなかった。


「おいコラ、無視してんじゃねぇぞ」


「てめぇら死ぬ覚悟はできてんだろうな、あぁ!」


 うわ、丸二の不良はヤル気、というか殺る気満々だよおい……。

 ニコと浅羽さんは俺達の後ろに隠れて、歩美はやる気満々だ。

 ぶっちゃけ歩美一人ならなんとかなるかも知れない。

 だがしかし、もしこの状況を誰かに見られて、進路的なことに損害が出たらピンチだ。

 だからと言って、このまま逃げるわけにもいかないが、丈夫しか取り柄がない俺にはピンチだ。

 どうしようこれ……いずれにせよピンチに変わりないな……。


「ちょっと待った!」


 俺がピンチに思っていると、聞き覚えがある声が聞こえた。

 声のした方を向くと、夕日をバックに現れたのは、翼を生やした、某外国の顔丸出しヒーローのようなピチピチの青いタイツにSM嬢がかける蝶のメガネをつけた怪しさ満点の謎のヒーロー……もといフクロダさんだ。

 何やってるのフクロダさん!


「私の名前は謎のヒーロー、オウルマスク! そこの不良達! 喧嘩はやめなさい!」


 ポーズを決めてるようだけど、何がオウルマスクだよ! フクロウ部分は素顔だし、顔隠す部分蝶々だし、そのタイツも明らかに某ヒーローのパクリだし、というかどっから持って来たのとか、もうツッコミだらけだよ!

 見ろ! あまりの姿に歩美達だけじゃなくて弟子のニコも唖然としてるよ!


「んだてめぇゴラァ!」


「なめた格好してんじゃねぇぞ!」


「降りて来いや! ぶっ殺してやっから!」


 丸二の連中すげぇ……フクロウ男とあの格好にツッコミもせずに喧嘩売ってるよ。


「ハハハハハハ! とう!」


 フクロダさんがジャンプをして、河川敷近くまで跳んだ。

 不良達は全員、フクロダさんの前に集まった。


「おいおいフクロウ野郎、丸二なめってっと痛い目見るぞ!」


「あなた方のような寄ってたかって一人に暴力行為、見過ごすわけには行きません!」


「うっせぇ! この世は弱肉強食! 殺るか殺られるかなんだよ!」


 何こいつら……時は世紀末でアベシとやられる世界の住人か?


「どうやら話が通じる相手ではないようですね。ならばーー」


 フクロダさんが両手をボクシングのように構えた。

 フクロダさん、魔法は得意だけど格闘はどうなんだろ?


「やっちまえやぁ!!」


『うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!』


 不良集団がフクロダさんに向かって一斉に飛びかかっていく。


「火よ放て! 『ファイアボール』」


 ボォォォォォォン! ドカァァァァァァン!


『ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』


 肉弾戦で戦うかと思ったら、フクロダさんが火の玉を放ち、河川敷が爆発し、不良達は吹き飛んだ。


「「「…………容赦なっ!!」」」


 俺、歩美、金山が叫んだ。

 容赦ねぇよフクロダさん! いきなり普通の人間に魔法使う普通!?


「フクロダさん何してんの!?」


「大丈夫です! 今の私は魔力が半減しています! ……はっ! 私はフクロダではなくオウルマスクーー」


「遅いよ!」


 もうバレバレですから!


「え? 何あれ? 何なのあれ?」


「何で手から火が出んだよ……何で爆発すんだよ……わけわかんねぇよ!」


「あ、あの落ち着いてください!」


 浅羽さんと岩下がこの状況に混乱し、ニコがなだめている。

 そういえば二人は魔法初めてだっけな。


「て、てめぇ……」


 皆が気絶してる中、不良の一人が起き上がった。

 丈夫だなこの人も……。


「何ですか? まだやりますか?」


「当ったり前だ! 今に見てろ、もうすぐーー」


 ブロロロロロロロロロロ!


「来たな!」


 今度は河川敷から改造された何十台ものバイクの集団が現れた。

 全員バイクから降りると、三十人ほどの黒い特効服を着た暴走族がこっちに来た。


「ヒヒヒヒヒヒ、ついさっきこの近くを通る先輩を呼んどいたんだよ! 先輩方御苦労様です!」


 こいつら全員丸二の卒業生すか? だとしたらろくなのいないな……。


「てめぇか、うちの可愛い後輩に手を出した変態野郎は!」


 暴走族のボスらしき男がそう言った。

変態というか変人だけどな。


「あなた達は人に暴力をして恥ずかしくないのですか!?」


「無いな! 丸二のモットーは『弱肉強食・警察上等・団結暴力』だからな!」


 なんてろくでもないモットーなんだ丸二……。


「てめぇらやっちまえやぁ!」


『おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!』


 今度はさっきの三倍の数ある暴走族達が攻めて来た。


「邪魔っ!!」


「はぁ!」


『ぐがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』


『ぐっ!』


 フクロダさんがまた魔法で倒したと思ったら、歩美のダッシュしてのローリングソバットで一人が吹き飛んでビリヤードのように後ろの奴等も吹っ飛んだ。

 そしてニコも所持していた薬入りの注射器が不良達の眉間や胸元に刺さって倒れた。


「おいそこの二人! 何で加勢するかな!?」


「だって一人相手にあんな大勢は卑怯でしょ!」


「大丈夫です! ちゃんと毒薬が入ったのは抜きましたから!」


 ニコさん、毒入りもあるの!? 危ないよ!


「なぁスズ! あのフクロウもそうだけど、あの女子の戦闘力の高さ何なんだよ!」


「いやー、そんなこと言われても……」


 岩下が金山の肩を抱いて混乱している。

 岩下よ、気持ちはわかる……意外に常識がある人だったんだな。

 浅羽さんなんてもう目が死んで黙ったまま、考えるのをやめているしな……。


「おい待て! どこ行くんだよ! 」


 不良の方を向くと、ニコの薬を当たって気絶した暴走族の背中や腹から長い足が出て来て、ひとりでに歩いてどこかへ行ってしまった。


「ニコさん、あの薬って……」


「はい、松の葉で作った薬です」


 やっぱりか……あれはどうやら足が出ると、1時間歩き続けて、半日は動けなくなるハイリスクノーリターンの薬だ。

 経験者は語るのだ。


「もうわけわかんねぇよ……」


 とうとう岩下が頭を抱えてしまい、金山が肩を叩いてなだめた。

 岩下よ、気持ちはわかるよ……。


 歩美とニコのおかげで暴走族が半分になった。

 歩美は腕をポキポキと鳴らし、ニコは注射器を構え、フクロダさんが右手から火を出して暴走族に近づいた。


「さぁ悪は断たないといけませんよね。フフフフフフフ」


「フフフフフフフフフ」


「え、えっと……フフフフフフフフ」


「ひ、ひぃぃ!」


 フクロダさん、歩美、そしてつられてニコが不適な笑みを浮かべ、暴走族が悲鳴を上げた。

 暴走族と見た目蝶メガネをつけたヒーロータイツのフクロウ人間……どっちが悪役に見えるんだろうな……。


 その後は言うまでもなく、フクロダさん達の圧勝である。

 岩下も浅羽さんも一応フクロダさん達のことを一から説明したけど、二人は「もう考えたくない」と言ったため、説明をやめた。

 不良達もこれにこりてしばらく岩下の相手をしないだろうと願った。

 そして夜ーー。


『次のニュースです、今日の夕方、○○県丸々市の河川敷で爆発事故が起きました。爆発の正体も犯人も煙が見えずに不明、ですが河川敷から数キロ離れた所に暴走族の集団が倒れていたという情報をーー』


 晩飯を食べている時、地元のローカル局のニュースで今日のことが放送されていた。

 幸い、爆発のインパクトと煙でフクロダさんも俺達のことはバレなかったようだ。


「フクロダさん、そういえばあの衣装ってどこから持って来たんですか?」


「あ、あれは店長のコレクションです。驚かせようとこのまま来たんですが、待ち合わせしても居なかったのでニコの魔力を頼りに来たんですよ」


「そうなんですか~、店長も色々持ってるんですね~」


 俺はあの騒動を何事もなかったかのように、現実逃避をすることにした。

 さて、夏休みはどうしようかな~。


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