浅羽さんの秘密
もうすぐ夏休みになる7月下旬。
アタシは金山とニコちゃん、そしてなぜか浅羽さんと一緒に耀助の家に向かっている。
その訳はーー。
***
「耀助さん、風邪大丈夫でしょうか?」
「大丈夫でしょ。昔から治るのは早いから明日になれば学校に来るでしょ」
「途中コンビニでアイスでも買おうか?」
今日耀助が風邪をひいて学校を休んでいる。
普段から体が丈夫で、めったに風邪ひかないからアタシは内心心配している。
放課後、金山とニコちゃんとお見舞いに行こうと思っている。するとーー。
「兵藤さん、少しいいですか?」
いきなり浅羽さんが話しかけて来た。
「え、何?」
「鯵坂君の家に行きたいんですけど、場所を教えてもらえますか?」
「……え?」
浅羽さんが耀助の家に? 何で? まさか……耀助のことが好きになって?
「浅羽さん、どうして耀助の家に行きたいの?」
「数学の坂本先生から宿題のプリントを渡されました。委員長だからと言われて」
「ああ……」
そうか、そうだよね……アハハ、アタシったら何考えてんだろ。
「ああ、そうなんだ。じゃあアタシが持ってーー」
「いえ、私が届けます」
「……は?」
なぜか浅羽さんが否定した……。
「えっと……浅羽さんが届けるより知ってるアタシが届けたほうが……」
「いえ、先生に頼まれた以上、役目を果たさなくていけませんので」
真面目か!
うー……耀助、何故か浅羽さんに話しかけるから出来れば会わせたくないな……。
「じゃあさ、僕達耀助のお見舞いに行くから一緒に行く?」
「あ、その方がいいと思います」
「そうですね、お願いします」
スズキこの野郎……余計なことを。
はぁ……しょうがないか……。
***
そしてアタシとニコちゃんが自転車(光太購入)、金山と浅羽さんと最寄りのバス停で待ち合わせをして現在に至る……。
アタシが先に行く中、金山とニコちゃんは浅羽さんと話している。
「へぇ、浅羽さんは手芸部なんだ」
「はい、幽霊部員ですが、外に出ることはないので、よくぬいぐるみなどを作っていますね」
「すごいですね、私は薬しか作れないので、その方が女の子らしくてうらやましいです」
「あの、薬を作る方がすごいと思うんですけど……」
浅羽さんって結構しゃべるんだな……。
普段は黙って本読んでる印象しかないけど。
「そういえば、浅羽さんって昔は田舎側にいたんだよね? 耀助とは遊んでたの?」
「う……」
「浅羽さん?」
「いえ、その……昔の話はちょっと……」
浅羽さんが青い顔をしていきなり口数が少なくなった。
それって何か、アタシ達の思い出はあまり話したくないってか。
あまり話したことないけど……。
あの「ニワトリ事件」のこともあるし、ホントわけわかんない。
あ、耀助にメールしとかないと。
***
「あ~、頭痛い……」
「大丈夫ですか耀助さん」
「はい、まぁ最初よりは……」
風邪を引いた俺はフクロダさんに介抱されている。
おでこに冷たい貼るやつに半袖半ズボンで寝て、朝からずっとこの状態だ。
しかし小三の頃以来、インフルエンザもかかったことない俺が風邪を引くとは珍しい。
何かよからぬことが起こる前触れなのか?
ブーブーブーブー
いきなり布団の横にあるスマホが震えた。
起き上がり、取って見てみると歩美からのメールだ。
『起きてる? これからお見舞いに行く。金山となぜか浅羽さんが来るから。もうすぐ着くよ』
そんな用件で絵文字が大量にあるメールが来た。
浅羽さんが来るのかー、何で来るんだろう浅……羽……。
「ぬぉあぁ!」
俺は慌てて立ち上がった。
「どうしました耀助さん!?」
やばいやばいやばいやばい!
浅羽さんが来る! 浅羽さんはまだあれのはず! そんな状態でこのフクロウ人間を見せちゃいけない!
「フクロダさん! いきなりですけど、どっか行っててくれますか!」
「え!? どうしました!? 一体何がーー」
ピンポーン
「あ、はーい」
「ちょっと待っ、痛っ!?」
チャイムが鳴り、フクロダさんが出ようとしている。
俺は止めようとしたが、布団に引っかかってこけてしまった。
「待ってフクロダさん!」
「こんにち……は」
遅かった……しかもよりにもよって浅羽さんが一番前にいる。
「ノーマル様、ただいま帰りました」
「こんにちはフクロダさん」
「どうもー」
「これは歩美さんと金山さんと……この方は?」
「この人は浅羽さん、プリントを届けに……浅羽さん?」
浅羽さんが固まっている。
これは目の前のフクロウ人間を見てはあっているが、見たインパクトでではない……。
「…………い」
「「「「い?」」」」
「嫌あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
浅羽さんがフクロダさんを見て絶叫した。
「浅羽さんどうしたの!」
「大丈夫です浅羽さん! ノーマル様は恐くないないです!」
「いや、やだ、やだ、やだ! やだ!!」
浅羽さんがその場に座り込み、カバンをブンブン振り回している。
んーこれがフクロウ人間を見たときの普通の反応だと思う。
「ふぇ、ふぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
浅羽さんはとうとう泣き出してしまった。
「もう帰る! おうち帰る! ここやだあ! うぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
「あ、浅羽さん……」
ショックが大きすぎたのかお浅羽さんは幼児退行を起こしている。
「あー、やっぱり治ってないかー」
「あ、耀助、浅羽さんに一体何があったの?」
「説明するよ……その前にフクロダさん!」
「は、はい!」
「しばらく屋根で待ってて!」
「えぇ!?」
この状態の浅羽さんをなんとかするためにはフクロダさんがどこか行かないとならない。
俺は皆を家にあげ、フクロダさんは屋根で待機。
とりあえず泣き疲れた浅羽さんは別の布団を敷いて寝かせた。
そして残りの四人でちゃぶ台を囲って話すことになった。
「んで耀助、浅羽さんに一体何があったの?」
「あぁ……これはおそらく俺しか知らないことなんだけど、浅羽さんは鳥がダメなんだよ」
「「「鳥?」」」
「そう、浅羽さんは小二の頃辺りから鳥を見ると、暴走するかああいう風に泣き崩れちゃうんだよ。まぁトラウマみたいなものかな……『ニワトリ事件』の時も迫ってくるニワトリにパニクって暴走したんだよ」
「じゃあ僕が聞いた『なにもないところで逃げ惑う』っていうのにいうのは……」
「カラスかスズメにビビってるんだろうな」
「でも耀助、浅羽さん小二の時は飼育係してたよね。あの後何があったの?」
「うん……あれは小二の時のお泊まり学習の時だった……」
「お泊まり学習とは何ですか?」
「隣町の自然公園にある宿泊施設で一泊するイベントだよ。あの時浅羽さん途中で熱を出したんだ」
「あぁ、そういえばあったね」
「その夜のことなんだけどーー」
***
夜中、俺がトイレに行こうと部屋を出たときーー。
「あれ、霞ちゃん?」
「あ……」
当時全員を名前で呼んでた俺は、浅羽さんが壁に寄りながら歩いていたのを見つけた。
「トイレ?」
「うん……」
「じゃあ一緒に行こう」
俺は浅羽さんと一緒にトイレに行くことになり、その間、浅羽さんが休んだ間のやったことを話していた。
「それでね、皆で肝だめしをしたんだよ。皆が大声上げてたけど、歩美はお化けを攻撃したんだ」
「休んでてよかった……私、お化け嫌い」
「そうなんだー」
そんなことをしてる間に俺と浅羽さんが角を曲がろうとしたとき、誰かの足音が聞こえた。しかも数人の。
どうせ先生だろうと気にしなかったが……。
かどでばったり会い、その姿を見た。
「ひっ……!」
「あ」
「?」
そこにいたのはニワトリ、カラス、鳩など頭が鳥の姿をした人間の集団だった。
出会って少しばかりの間があったがーー。
「夜中に出歩いてるのは誰だー!」
「食っちまうぞー!」
「死ぬがいいわー!」
鳥の集団は脅かしにやって来た。
鳥の集団が周りを俺達を囲み、俺達をつかみ上げた。
「うわあぁぁぁぁぁぁ! やだやだやだ!」
泣き叫ぶ浅羽さんに対し、俺は冷静だった。
なぜならこの鳥の集団は肝だめしの時に出てきたやつだから見慣れた。
「おじさん、トイレ行きたいんだけど……」
「あ、そうなのか。すまんすまん。てっきり無断で出てるかと思ってな」
カラスのおっさんは謝ってすぐに下ろした。しかしーー。
「さぁ人間はどんな味がするんだろうな~」
「うぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ニワトリのおっさんは悪ふざけをして浅羽さんを怖がらせていた。
「ふぁ……」
浅羽さんが泣き止んで顔を赤くした。
「あ」
俺は匂いで気づいた。
浅羽さんのパジャマのズボンが濡れて、床には水たまりが出来て、お尻が茶色になっていた。
浅羽さんは大も小も漏らしたのだ。
「ふ、ふえぇぇぇぇぇぇぇぇぇ……」
そして再び泣きじゃくる。
ニワトリのおっさんもそれに気づきーー。
「うわ汚なっ! あ……」
ニワトリのおっさんは漏らした汚なさで浅羽さんを離してしまった。
ゴンっ!
浅羽さんはおしっこの水たまりがある床から頭を打ち、そのまま動かなくなった。
「おいしっかりしろ! 誰か救急車!」
***
「ーーそんなわけで、浅羽さんは軽い脳震盪で済んだけど、その鳥の集団の恐怖が頭をよぎったみたいで、それ以来鳥がダメになったんだよ」
「そうだったんですか……」
「今、浅羽さんが寝てるから言うけど、高校で再会したとき浅羽さんは漏らしたこともあるから話さないで欲しいって言われたんだ」
「浅羽さんにそんなことが……」
俺が話したことにより三人が浅羽さんに同情した。
「だとしたらそのニワトリ男が悪いじゃない! そのニワトリ男の先生、ちゃんと責任とってんの!?」
「それも非常に言いにくいんだけど……ニワトリ男は歩美、お前のおじさんだ」
「「「えぇ!!?」」」
俺の発言に三人が驚いた。
「嘘ぉ! ……あ、そういえばお泊まり学習の時になぜかお父さんいたっけ」
「そう、肝だめしの脅かし役として名乗りを上げたみたい。俺に話してくれたけど、土下座して謝ったらしいよ」
「えぇ……」
歩美が黙ってしまった。
原因が自分の父親にあること、自分が浅羽さんに冷たくしたこと、それを含めての罪悪感があるのだろう。
「まぁ、歩美は知らなかったし、悪いのはおじさんだ。だから歩美は全く悪くない」
「あ、うん、ありがとう……あと耀助と話してたこともあるけど……」
「ん?」
何か「ありがとう」の後が聞こえなかったんだけど、なんだろ?
「あぁ!!」
浅羽さんが勢いよく布団から起き上がった。
「えっと……おはよう」
「おはよう……ございます……はっ! 鳥人間はどこ! どこ!?」
おう、起きた途端、浅羽さんがまだパニクってる。
「大丈夫! どっかに行かせたから!」
「はぁ、はぁ、そう……ですか……あれは、鯵坂君の、知り合い、ですか?」
浅羽さんが途切れ途切れに話している。
相当ビビってるんだな……。
「あの……ゴメン浅羽さん」
「兵藤さん?」
歩美が土下座して浅羽さんに謝った。
「耀助から話を聞いたの、鳥のこと……」
「……!」
浅羽さんがこっちをにらみつけてる。
内緒にしてたからね……。
「あの『ニワトリ事件』から冷たくしちゃったし、よりにもよって私のお父さんが原因だったなんて」
「え?」
「だからこれからはその……仲良くなろうとーー」
「知らない……」
「え? あ、もしかして冷たくしたのを知らなかったの?」
「あれ、兵藤さんのお父さんだったの?」
「え……?」
「ごめん、浅羽さんにおじさんのこと言ってなかったんだ」
「えぇ!?」
おお、歩美を見る浅羽さんの目が恐い……。
なんか恨みと絶望とかが一緒くたにしたような目をしている。
「えっと……なんか色々とごめん!」
歩美がまた頭を下げた。
浅羽さんがため息をついて立ち上がり、歩美に近づいた。
「あの、大丈夫です。兵藤さん……」
「え?」
「たしかにあの件以来、私は鳥が怖くてたまりませんでした。外に出ることが怖くて、ずっと引きこもって、外を見ないように読書に集中して、友達と出かけるどころか関わることもありませんでした」
「うっ……」
なんか毒のある言い方だな。
「ですが、あなたは悪くありませんし、諦めていた友達を作るというのが出来るので感謝します」
「浅羽さん……」
「えっと……ふつつか者ですが、これからよろしくお願いします」
「こちらこそ!」
二人はぎこちなくお互い正座して頭を下げた。
いやぁ、浅羽さんのことを言ったから初めはどうなるかと思ったが、何事もなくて一安心した。
歩美と浅羽さんが仲良くなってよかったよかった。
こうして浅羽さんはしばらくうちで休み、夕方にはプリントを渡して帰っていく。
そういえば俺の風邪もいつの間にか治っている。
「それでは、お世話になりました」
「えっとごめんね。フクロダさんのこと」
「いえ……ただ二度とここへは来ないと思います」
ハハハ……ですよねー。
「それじゃあ浅羽さんは僕が送ってくから」
「お願いします金山君。それではーー」
「あづ~い」
「うぉわ!?」
「あ~耀助さん、暑いですよ……」
突然上からフクロダさんが降ってきた。
フクロダさんからなんか湯気が出ている。
そういえば今は7月、こんな暑い中屋根の上で待ってるなんて拷問過ぎたな。
だがしかし、今だけ出て来て欲しくなかった。
「い、い……いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
浅羽さんの叫び声が田舎にこだまする。
結局この後、また倒れて浅羽さんが帰るのは夜になってしまった。
余談ではあるが、歩美はその日の夜、おじさんを怒り、後日おじさんは再び浅羽さんの家に謝りにいく予定だと言っていた。
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