耀助の両親
どうも、最近出番が少ないフクロダです。
ある7月の土曜日、私は四人で朝食を食べています。
最近耀助さんの父、光太さんが来てから、話を振るのはだいたい光太さんである。
「最近暑くなってきたね~、フクロダさんその羽毛暑くないの?」
「若干は暑いですが、もし限界になれば水の魔法で水浴びしますし」
「そんなことしなくても、ホース使えばいんじゃね?」
「いえ、水道代もかかりますし、居候の身なのでそういうわけにはいきません」
「ふ~ん、気にしなくていいのに」
そう言いながら光太さんは焼き魚に醤油をかけた。
「父よ醤油かけすぎ、あと俺にもくれ」
「はいよ」
光太さんは耀助さんに醤油を渡した。
そこでニコはあることに気づいたようだ。
「あの……耀助さんはどうして『父』なのですか?」
「「は?」」
「学校では親のことは『父さん』とか『パパ』とかが多いのですが、『父』と呼ぶのが珍しいので……」
言われてみればたしかに。
「それは……なんでだろ? 俺も物心ついた頃にはそう呼んでたし……父よなんでだ?」
「ああそれはーー」
光太さんがその理由について話し始めた。
***
あれは耀助さんがもうすぐ1歳になろうとした頃。
「ちち~ちち~」
「どうだ耀助。この姉ちゃんの乳でけぇだろ。こっちなんて手ブラだぜ」
光太さんが耀助さんに見せていたのは絵本とかではなく巨乳系のエロ本である。
際どい水着にはみ出る大きな胸の写真を光太さんは耀助さんに見せていた。
「ちち~ちち~」
「そう、乳だな耀助。次のページはすごいぞ。乳だけじゃなくて下の毛も見えそうな姿がふっ!」
「……何してんの?」
エロ本を読んでいると、当時まだ生きていた耀助さんのお母さん、
そして耀助さんを抱き、立ち上がった。
「耀助にそんな物を見せないで。耀助がおっぱい好きになったらどうするの?」
「ちち~ちち~」
「……手遅れかもしれない」
耀助さんはそう言いながらお母さんである曜子さんの乳をペシペシとはたき、曜子さんはこの状況にため息をついた。
「ええ、いいじゃん。もし耀助が貧乳好きになったら巨乳好きの俺と将来エロ本会話が出来なくなるじゃん」
「しなくていい。光太、せめて耀助のこの『ちち』を『父』と呼ばすようにしないと。でないと『ちち』は『母親』という意味にとられてしまう」
「ええ、いいじゃん」
「でないとあなたのことを『おっぱい』と呼ばせる」
「やめて! そんなことしたら親子ともに黒歴史になるから!」
***
「ーーというわけで俺のことを父と呼ぶようになったってわけ」
「聞きたくなかったわそんな事実! 父の由来はおっぱいだったんかい!」
耀助さんが叫んだ。
まさかエロい本が理由だとは……。
「……ちなみに耀助さんは巨乳は好きでしょうか?」
「何聞いてるのニコさん!? ……まぁ……好き……だけど」
耀助さんは正直ですね。
そしてニコ、ちょっとにやけない。
そんな事実を知った朝食を食べ終えて、私は洗い物を、耀助さんは歩美さんの弟と妹と一緒に遊ぶ約束をし、ニコは部屋に引きこもっている。
「フクロダさ~ん、これで終わりで~す」
光太さんが食器を持って来てくれた。
仕事の方は大丈夫なんでしょうか……。
そう思っていると、光太さんが話しかけて来た。
「フクロダさん。俺がいない間、耀助とは仲良くやってんの?」
「はい、ニコ共々よくしてもらっています」
「そう、それはよかった。耀助はちょっと人間関係に後ろ向きなんだよね」
「後ろ向き?」
「あいつは静かでしょ。曜子……母親に似て思ってることはよっぽどじゃないと言わないから友達も歩美ちゃんしか出来なかったのよ」
たしかに耀助さんは何か言いたそうな顔をして、結局言わないことがある。
なんというか、心の中にためているような……。
「まぁ、母親の遺伝ってのもあるけど、悲しい偶然が重なったせいだけどね」
「偶然?」
「……耀助が生まれて間もない頃に、ばあちゃんが病気、じいちゃんが熊に襲われて死んでさ、そして8歳の頃に母親が交通事故……あいつが生まれてから次々と家族死んでるから自分が仲良くなったら死んでしまうんじゃないかって思うようになってさ」
知らなかった……耀助さんにそんな過去があったなんて。
よく考えたら、私達を除けばこの家には耀助さんと光太さんしかいない。
自分が仲良くなったら死ぬ。そう考えてしまうと後ろ向きになってしまうのも無理はない。
「俺が外国に行くときも、快く送ってくれたし、歩美ちゃん家に耀助の世話を頼ってしまったし……金は稼げても親らしいことしてねぇな……」
光太さんが笑顔だが何やら悲しげな表情をしている。
父親として息子のことを心配し、やれることが少ないことに悩み、悲しんでいるのだろう。
「どうして私にこのことを?」
「フクロダさんには感謝してんのよ。耀助がこんな元気にツッコミしたり、あんなテンション高い耀助は久々に見たよ」
「光太さん……」
「異世界から来た魔法使いとか、フクロウ人間とか俺には関係ないし、これからも耀助のこと頼むわ」
光太さんが私の肩を叩いた。
ちゃんと私も役に立っているんだ……。
そう嬉しく思いつつ、私は洗い物を続けるのだった。
お昼近くになると、耀助さんが帰って来た。
「ただいま~、すぐ飯作りますんで」
「お疲れ様です」
耀助さんはすぐに台所に向かい、昼食の準備を始め、野菜を切りながらこう言った。
「あ、フクロダさん、突然なんですけど、明日夜までニコさんと二人で留守番してもらってもいいですか?」
「え? わかりました。何か用事でも?」
「あ、はい。明日母さんの命日なんです」
「え……」
「そこが隣の県にあるんですよ。ですから早くても夕方までかかるかもしれません。朝に昼食も作りますから」
耀助さんが料理をしながらそう言った。
さっきの光太さんの言ったことを聞いてしまうと、少し複雑な心境になります……。
耀助さんは今、どんな気持ちなんでしょう?
「あの……耀助さん」
「ん?」
「えっと、実は朝、光太さん耀助さんの事聞いたんです。その……家族が死んだこととか。自分のせいとか……」
「…………」
耀助さんの手が止まった。
やはり失言だったか……。
「……まぁ、そんなこともあったね。フクロダさんってたまに空気を読まない所ってあるよね」
「すみません」
「ま、今はそんなことは考えてないですよ。母さんのこと考えて前向きに生きようと決めましたし」
「え?」
母親のことを考えて? どういうことでしょうか?
「俺が小学校に上がる前、母さんが自分のことを話してくれたんだよ。母さんは元々拾われた子供だって」
「え!?」
「母さんは5歳の頃、ここの近所の山の中で記憶喪失の状態で今の両親に拾われたんです。両親と距離を置いたり、友達と上手くいかなかったりして、ずっと一人らしいんです。それで父の方から仲良くなってそのまま結婚したみたい」
耀助さんのお母さんにそんなことが……鯵坂家はすごい人生を送ってしてますね。
「んで、母さんが言ったんですよ。『私は本当の家族を知らないし、おじいちゃん達とは上手くいかないまま死んじゃった。だから耀助、あなたは今の私の幸せの塊、だからお父さんみたいに笑って生きて』って。父が海外に行ったときに思い出しました」
きっと耀助さんが自分に性格が似ていることを察してそのことを言ったんでしょう。
「だけどね、祖父母も母も死んでしまって、この時8歳の俺には、そうすることが難しかった。口下手になって歩美しか仲良く出来なかったし、金山とも偶然で仲良くなったようなもんだし……それに父みたいにはふざけた性格になりたくないし」
それが本音ですか……。
耀助さんも昔はそんなことを考えていたんですね。
光太さんの思い、お母さんの思い、そして耀助さんの思い、皆家族のことをちゃんと考えている家族だったんですね。
そんな家族に憧れるな……元の世界での私の家族とは全然違う。
「耀助さん。光太さんはふざけてはないですよ。耀助さんに親らしいことをしなかったって嘆いていましたし、ちゃんと考えてます」
「そうなんすか……だったらもっと真面目にして欲しいような感じが……」
「耀助さん、私の数少ない知り合いにおちゃらけた奴がいました。彼はいくら怒られても馬鹿にされてもその性格は変わらなかった」
「なんでですか?」
「私がいた所は戦場が多かった。だからそんな緊迫した雰囲気の中、彼は明るく接して緊張をほぐし、場を明るくした。それと同じことじゃないでしょうか?」
「……まぁ、父がふざけたことを言う度に母さんと失笑してましたけど、明るくはなったと思いますね」
「でしょ」
でも彼曰く「性格はそう簡単に変えられない」とか言ってたけど……。
「でも、いつもふざけた人を感謝するのはちょっとね……」
「気持ちはわかります。私も彼を感謝する気にはなれませんから」
「たっだいま~!」
そんな光太さんが帰って来た。
というか、いつの間に外に出たんですか?
「花と線香と母さんの好きなお茶買ってきたぞー」
「ああ、ご苦労さん。何? 車で行ったの?」
「ああ、将太郎(歩美の父親)に車借りたけど、ペーパーだから、さっきガードレールで擦っちゃった。アッハハハハハハ!」
「いや後で謝れよおじさんに!」
光太さんはお気楽に笑った。
たしかにこれは感謝する気持ちにはなれない……。
「まーこれで車には慣れたから明日の墓参りは安心だ!」
「安心できるか! 墓参りは電車で行くから!」
「えぇ、それだと遅いし荷物持つのが面倒~! あ、だったらフクロダさんに飛んでもらおう! 荷物も持って、鈍行よりスムーズだし!」
「はい! 私でよければお任せください!」
「やめろおぉぉぉぉぉぉ! これ以上フクロダさんを見せるなあぁぁぁぁぁ!」
結局耀助さんの言う通り、翌日は光太さんと電車で行ってしまった。
なんか今日は耀助さんのことを知ってよかったと思いました。
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