魔法使いのフクロダさん

三合 雷人

フクロダさん参上

 某県、丸々市まるまるし

 そこはそれなりの都会と自然が溢れる結構過ごしやすい所だ。

 そこに俺、鯵坂 耀助あじさか ようすけは特に目的も夢もなく、ただただ平凡な毎日を送っている。

 そう……が来るまでは……。


 俺の家は都会から結構離れた山の中にある。

 元々は死んだ祖父が経営していた宿屋を父がリフォームをした。都会からは遠いが元宿屋なだけあって広く部屋も多い。

 しかも父は海外で仕事、母は死んでいるため、俺一人で生活しているから余計に広く感じる。

 家の周りは森ばかりで、動物や鳥の鳴き声が昼夜問わずに鳴いている。

 そんなある日の夜、突然ピンポーンと家のチャイムが鳴った。

 きっと宅配便で海外にいる父がお土産でも送ってきてくれたんだろう。

 そう思い俺は玄関のドアを開けるとーー。


「はー…………」


「ホー、ホー」


 あまりの驚愕に俺の思考がフリーズした。

 そこには身長約180センチ、背中から羽が生えて、手足には4本の指と鋭い爪、身体中を白と茶色の羽毛に覆われて、そしてパッチリしたお目目に丸い顔……簡単に言えば八頭身のフクロウ人間だった。

 俺はそのドアを……………………そっと閉めた。


 ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい!

何あれ!? 何なんだあれ!? なんで人型のフクロウが俺の家に来てんの!?

 もしかして助けたフクロウが中途半端な変身を遂げて恩返しに来たのか?

 いや待て俺! あれは鶴だし、フクロウを助けた覚えもない!


ガン、ガン、ガン、ガン


「ホーホーホッホー、ホーホーホッホー」


 なんかドアを叩きながら鳴いてるぅ!

 どうしよう怖い! しかもあの鳴き声はキジバトという鳩で決してフクロウではない。

 はっ! つまりあれはフクロウじゃない! フクロウじゃないとなると……フクロウの着ぐるみを着た人。

 うん、それなら合点がいくし、現実的だ。これで安心……出来ねぇよ!! だったらなんでフクロウの着ぐるみを着た人が鳴きながらドアを叩いてるんだ! 普通に怖ぇよ!


「ホーホーホッホー、ホーホーホッホー、ホーホーホッホー、ホー……ホケキョ!」


 最後ウグイスになった!? 訳わかんねぇよ!

 ……ん? ウグイスの鳴き声をしたら鳴き声が止んだ?

 ドアを恐る恐る開けるとそこには誰もいなかった。


「なんだったんだ?」


 幻覚、幻聴だったのか? 俺はそう思い、ドアに鍵をかけ、さっさと寝ようと思い後ろを振り向くとーー。


「勝手口空いてましたよ」


「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 フクロウが俺の背後に現れて、その後、俺は気を失った。

 俺……あんな大声出るんだ……。



***



 気がついたら俺は畳の上に横になっていて、目の前にはあのフクロウ人間が俺の顔を覗きこんだ。

 寝たからなのか? 驚き疲れたのか? 俺は落ち着いて、驚かなくなった。


「目が覚めましたか?」


「あ、はい……」


「驚かして申し訳ありません。この姿でしたら当然でしょう。できれば私の話を聞いてください」


「はあ……」


 ずいぶん礼儀正しいフクロウだな……。

 落ち着いた俺は起き上がり、話を聞くことにした。


「私はフクロウです。名前はありません」


 突然有名文学作品の冒頭みたいな紹介をしたが気にしないことにした。


「突然言って信じられないと思いますが、私は異世界から来た魔法使いだったのです」


 んー……まあその姿を見たら信じないわけにはいかないが、でも異世界の魔法使いか……。


「証拠はここに、火よ起きろ『ファイア』」


 ボオォ!


「熱っ!? 」


 フクロウが手を出し、呪文を唱えると突然手から火が飛び出し、俺はその場に飛び上がった。


「すみません! 大丈夫ですか!?」


「はい……まあ、これで信じました……」


「そうですか。ではどうしてこの世界に来たかというと、これで説明します」


 フクロウが突然その場から紙芝居を出してきた。

 そのタイトルには「私がここに来た理由」と書かれてある。


「私はとある国の魔法使いをしておりました。モンスターから人々を守り続け、それなりの金と地位を手にいれました。しかし、ずっと魔法に没頭して友達がおらず、使い魔の動物と弟子としか親しいのがおりませんでした」


 ぼっちか……弟子はともかく動物って……。


「そんなある日、私はあることに絶望した。長年連れ添ったフクロウのホーちゃんが死んでしまったのだ」


 絶望というにはちっちゃいな!


「だが、私の世界では生き物を生き返らせる

のは禁忌であったが、私はそんなことを気にせず、あらゆる魔法書を調べ、動物実験を繰り返した。そしてついに私は魔法陣を完成させた。私はホーちゃんを置き、魔法を発動させた。だが私はあるミスを犯してしまった」


「ミス、とは……」


「私もその魔法陣に入ったまま魔法を発動してしまった」


 まさかのケアレスミス!?


「そのせいで私はホーちゃんと合体してこのようなフクロウの姿になってしまった。そして私は禁忌魔法を発動した罪で処罰が下った。名前を剥奪され、呪いで魔力も半減、そしてどの世界に行くかわからない『次元の穴』という所に落とされ、私はこの世界に来たのです。ここには去年からこの世界に潜んでいたのですが、さすがに限界を感じ、さ迷っていた所にあなたを見つけました」


 なるほど……それでここに来たのか……。


「それで、えっと、お名前は?」


「鯵坂 耀助、耀助でいいです」


「それで耀助さんにお願いがあるのです。私をここに住まわせてもらえませんか?」


「いやです。帰ってください」


「なっ!?」


 俺は即答で拒否をした。

 だって普通に関わりたくないんだもの!


「そこをなんとか! 私は炊事洗濯掃除も出来ます! 食べ物も自分で調達します。耀助さんには迷惑をかけません! せめて住む所を!」


「いやです」


 フクロウは土下座をしているが、俺は断固として拒否をした。

 こんなフクロウ人間が家にいたら、見つかったら絶対大騒ぎになって、市民から距離を置かれてぼっちコースまっしぐらだ。


「……わかりました。ではせめてこれを」


 フクロウが何か紙を取り出した。

 そこには異世界語のわけがわからない文字が書かれていた。


「これは魔法契約書です。私はこれを使うことによって一時的に魔力が回復します。それで私は遠い所へ行きます。これは他人が書かないと効果が発揮しませんのでお願いいたします」


 なるほど、それなら喜んで。


「わかりました」


「ではここに名前を」


 俺はシャーペンを取りだし、その紙に自分の名前を書いた。


「では、ぬん!」


 フクロウは紙に魔力を注ぐと、紙が光出し、その光は俺とフクロウの腕を包み、腕輪になった。


「ありがとうございます。これであなたとの契約ができました。私はあなたの使い魔になりました」


 ……………………WHAT? 契約?


「あの……魔力を上げて、どこかへ行くのでは?」


「はい嘘です」


 ……さらっと嘘つかれたぁぁぁぁぁぁぁ!!

 このフクロウ! 丁寧な口調をしておきながら嘘ついてんじゃねぇよ!!


「ちょっと!? 出てってくださいよ!」


「無理です。私達は一定の距離からしばらく離れると死んでしまいます。解除の仕方もわかりません」


「もうサギじゃねぇか!!」


「いえフクロウです」


「わかってるわ!」


 くそぉ! もう一緒に住むしかないのかよ畜生!


「もう……暮らすよ、暮らせばいんだろ! その代わり色々やってもらうからな!」


「わかりました。それでは私に名前をつけて下さい。名前を剥奪した身ですので」


「フクロダ!」


「は?」


「だからフクロダ! フクロウだから!」


「はあ……わかりました」


 納得してないようだが知ったことではない! こっちだって納得してないんだから!


 こうして俺とフクロウ人間フクロダの生活が始まった。

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