第8話 謎の言葉

「瞬間移動の能力、ね……なるほど、ならあの影人という男の能力は不明か」

「いや、まだ仲間がいて、その仲間がアシストをした可能性もありますよ」

「統制が取れて無かったのに、その可能性は無いと思うけど? それに、アシストが使えたなら私達との戦闘の時にもどんどん使ってたはずなんだけど」


 三人が、俺を完全に無視で話を進める。内容は、敵の能力が見たままで正しいのかどうか、だ。


「アシストに使わず、完全な不意打ちを決めるためだとすればどうですか?」

「いや~、アシストがあるなら瞬間移動使いまくって奥に行った方が脅威だと思うけど……」

「はいはい、もう終わり。こういうのは、どれだけ考えても答えは出てこない。それより、椎名君の事について話し合おう」

「えっ、俺ですか?」


 相馬さんの言葉に、少しばかり驚く。


「当たり前でしょ。今回の襲撃の原因よ」

「まぁまぁ、そんな邪見にしたら駄目だって。皆月君だって事情があるわけだし」


 木南さんが笑顔で言う。しかし、石田がそれに簡単には従わないようだった。


「しかし、ここに置いておいては私たちが危険なのはさっき証明されたはずです。早く追い出さないと……」

「それは、さすがに先決しすぎだ」


 相馬さんが言葉をはさむ。


「確かに危険かもしれないが、戦力にもなるかもしれない。まぁ、ここまで俺たちの事を知っておいて出て行こうとするのなら容赦はしないが」


 と、不吉なひと言を口から放ってこちらを鋭く見る。


「大丈夫ですって」


 俺は慌てて言う。俺だって死にたくないが、そうなるとここを離れるわけにはいかなくなったな。


「さて、どうするか……椎名君、家族何人?」

「あの……死別しました……」


 それを聞いた相馬さんが目を見開く。


「なら、施設暮らしなの?」

「いえ、一人暮らしです。援助は貰ってますが」


 相馬さんが少し考える素振りを見せる。それから数秒経って、口を開いた。


「まぁ、いいか。事情はどうせよく分かんないんだし。じゃあ、この建物に部屋があるからそこに住むでいいね?」

「いいね? じゃなくて、強制ですよ」


 石田が口をはさむ。


「……はい、よろしくお願いします」

「よし、それなら早速仕事に行くぞ。今日は椎名君と木南だ」

「はぁい」

「え、えっ!?」


 あまりに唐突だったせいで、反射的に声を上げる。


「えっ、ってどうしたの? 今から仕事に行くんだよ」

「いや~、四人になって良かった。これで二人ずつのシフトがしやすい」

「で、でも急すぎて……」


 何故こんなに早く? シフトに何故俺が入れらてるんだ? そもそも仕事とは? 頭が混乱しているせいで、言葉も詰まる。しかし、相馬さんたちは容赦なく言葉をかけていく。


「部屋を貸すんだから、このくらいはしてもらわないと」

「というか、貴方はまだ完全に信用されてないんだから、仕事で示しなさいよ」

「まっ、気楽にやればいいよ、それに……」


 次の言葉が、俺を無理やりにでも納得させた。


「君の言う『夢の男』を信じ切れてるわけじゃないし」


 木南さんの笑顔が、冷たいものに変わった。石田も相馬さんも似たような視線を向ける。


「……分かりました」


 渋々、仕事を請け負う。確かに部屋をタダで貸してもらうわけだし、拒否したら殺されるんだ。納得できなくても請け負わなければならない。能力者相手じゃ、警察に通報しても俺に危険が及ぶだけだし、ここから抜けてもさっき襲撃してきた『蜥蜴』に殺されるだけだ。

 そう自分に言い聞かせて、無理やり心を落ち着かせることに成功する、

 直前、



 ――おい。



 空耳、ではない。確実に誰かの肉声。周囲を慌てて見渡すが、口を開いたと思われる者はいなかった。

 しかし、声は再度投げかけられる。



 ――そろそろ、



 忘れてた。いや、考えないようにしてたんだ。

 当然、答えはノーだが、今度は無理やり意識をはがそうとしてきた。


 そして、『夢の男』のその行為は成功する。


「どうも、みなさん。こんにちは」


 唐突に謎の言葉を発した『夢の男』の言葉に反応して、三人が慌ててこちらを向く。石田に至っては戦闘の構えも取っている。


「俺が、あいつの言う『夢の男』だ。よろしく」


 やられた……俺は重力から解放された空中で、そう言葉を漏らした。



 同時刻、数キロ離れたとある別荘――


「むーっ……今日は調子が悪いな」


 完成した絵画を見て、私はそう口にした。その後、ロングの黒髪を手でかきあげて筆を手に取った。しかし、その筆を紙に触れさせることは出来なかった。


 ドン!


 と、大きな音を鳴らして、扉が外れた。数メートル先に倒れた扉の奥には、男女二人が立っている。


「どうも、白亜はくあ嬢」


 黒い短髪の男が声を出す。皮肉じみた呼び方を気にしないように心がけながら、私は返事をした。


「今回はいつもの人ではないんですね」

「世間話をしに来たわけじゃありません。白亜嬢、これで最後です。我ら、能力者特殊部隊に加入する気はありませんか?」


 馬鹿馬鹿しい。


「扉の用途も知らないような組織に、加入する気はありません」

「そうですか……」


 私が立ち上がりながら言った後、同時に男女二人も歩み寄って来た。


「加入が成立しない場合、死んでもらう事になってるのですが、それでもいいでしょうか?」

「それも受け入れがたいですね」


 近くにあった凶器、ペインティングナイフを持つ。


「では、力ずくですね」

「さぁ、話しが終わったのなら早く殺ろうよ」


 茶髪の女が笑いながら言う。恐ろしいな。


「殺ってみせなさいよ」


 半分、強がりで言う。


「黙れ!」


 男が急に大声を出す。そんなキャラじゃ無いでしょ。


「貴様のような、のうのうと絵を描いてるような奴に、負けるわけが無い!」

「そう、頑張りな」


 その言葉の後、鬼気迫る様子で二人が突進してきた。この状況を見て動きを見せないのは、馬鹿か自殺志願者くらいだろう。


「能力『絵に描く前の餅』」


 直後、二人の足が止まり、周囲を見渡すようなそぶりを見せた。


「なんだ……これは!」


 ペインティングナイフを持って、ゆっくりと近づいていく。

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