第43話 異世界にて夢を語る
「うううぅ~~」
「わ、悪かったって、そんなに睨むなよ。リーシャ……」
あれからオレは慌てて部屋に戻ったものの、すぐに服を着たリーシャが戻ってきてこの有様であった。
「というか、お前って女だったんだな……」
「……オレ、一言も男だなんて言った覚えないぞ」
言われてみれば……オレがずっと見た目や体格で男だと思っていただけで、リーシャは自分が男とは言っていなかったような気がする。
それならそうと言ってくれればいいのに、と思ったのだが、この二人っきりの状況でそんなこと言えるはずもなかったか……。
「ところで……どうするんだよ?」
「え?」
「部屋だよ。このままオレとふたりっきりでマジで寝るのか?」
うっ、確かに。とは言え、今更オレだけ一人部屋を頼むのも明らかにリーシャを避けているようで申し訳ない。
一応ベッドは二つあるんだし、特に問題ないように思うが……もしリーシャが気にするようなら部屋を変えよう。
「オレはこのままでもいいけれど、もしリーシャが嫌なら部屋を変えようか?」
「……別に。今のままでもいいよ」
しかし、なぜかそこは反対せず、受け入れてくれた。
う、うーん、信頼されているということなんだろうか?
なんにしてもそういうことなら部屋を変える必要はない。オレはリーシャと一緒の部屋で寝泊りすることとなる。
その後は、特に雑談することもなくリーシャは改めて温泉へ行き、彼女が上がってくると部屋にメイドさんから夜食が運ばれる。
その内容はかなりの豪勢なものであり、オレとリーシャはそれを美味しくいただき、すっかり外が暗くなった頃、オレ達は自然とベッドへ向かった。
「そういえば、天士の故郷ってどんなところだ?」
「地球のことか?」
ふとリーシャに問われて、オレは地球の事を思い出す。
そういえば、ずいぶん前のように思えてそうでもないんだよな。
クラスの皆や妹達は元気だろうか?
「まあ、こことはだいぶ違うね。科学とかが発展して日々の暮らしは便利だけど、とは言えこっちにあるような魔法みたいな技術はないからなぁ。どっちが上とは一概には言えないか」
「ふーん、争いごとはないのか?」
「それはあるね。オレのいた国は比較的平和だったけれど、やっぱり争いや戦争は世界のどこかで起こっていたよ」
「そっちだとスポーツで解決とかはしないのか?」
「さすがにそれは……。と言ってもオレのいた世界でもスポーツは重要な競技として、何年かに一度様々な国が自分達の代表を募って色んなスポーツをして成績を競い合うことはあるよ。それに優勝すればやっぱり世界で一番って認められるし、色んな国の人達からも賞賛される」
そうだ。オレもいつかはそんな舞台に立ってみたいと思っていた。
けれど、まさかそのチャンスがオレのいた地球ではなく、この異世界にて訪れるとは。
不思議な縁もあったものだ。
「そっか、そっちでもスポーツはそれくらい重要な競技になってるんだな」
それを聞いたリーシャはどこか嬉しそうに微笑む。
その顔はいつにも増して、儚げで美しい表情であった。
「リーシャもそういう代表になりたくてスポーツしてるんだろう?」
「まあ、な。と言ってもオレがいた獣人国ではオレは落ちこぼれだったから、そこから追い出されてオレを拾ってくれた人族のミーティア様に恩返ししたくて人族の代表になったんだけど……」
そう言ってリーシャは天井を見つめる。
「けれど、大舞台で各国の代表相手に勝利して、自分の名前を残したいって夢はある。今までは無理だって思っていたけれど……天士、お前がきっとオレ達人族がこの世界で一番になれるのも夢じゃない。そう思えてきたから」
「……ああ、オレも取るなら一番を目指すよ」
それは見栄でもハッタリでもなく、オレが目指すべき目標であった。
その後、リーシャからの返答がなく、隣を見るとスヤスヤと眠る彼女の横顔があり、オレはそれを確認した後、ゆっくりとまぶたを閉じるのであった。
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