第40話 ドッチボール決着

「さあ、どうする! 人族代表! いくらお前の剛速球でもメルティナに当てることは不可能だぞ!」


 ふはははは! と高笑いを上げるディアーナ。

 だが、無論オレには秘策がある。

 とはいえ、あれをやるのは久しぶりである。果たしてうまくいくかどうか。


 オレはボールを握るをそれまでと異なるフォームを取る。

 そしてうまく全身のひねりを使い、ボールを下から救うように投げる。


 投げたボールはこれまでと異なりそれほどのスピードを出さない。

 どころかボールはメルティナの横を通り過ぎてあらぬ方向へと向かう。


「ふははは! なんだそれは!? 当たらないからとヤケのボールか! 人族の超人とやらも大したことないなー!」


 これにはさすがのディアーナも爆笑し、メルティナも額に「?」を浮かべている。

 だが、オレの本当の狙いはここから。

 メルティナの横を通り過ぎたボール。だが、それが地面に当たるとその場で急激なスピンをし、地面から跳ねる。

 そのままボールはメルティナの斜め後ろ。

 ちょうど彼女の死角となる位置へと向かう。


「!? メルティナ! 後ろだ!」


「え?」


 ディアーナの声に振り向くメルティナであったがすでに遅い。

 そのまま彼女は地面をスピンしたボールに当たり、「あうっ」という声と共にアウトとなる。


「メルティナ様。アウトです!」


「なっ!?」


 まさかの事態にディアーナだけでなく会場中に呆気に取られる。


「ま、まさか! あのメルティナ様までアウトになるとは!?」


「というか、メルティナ様をアウトにしたあのボールはなんだ! 地面に当たったかと思うと奇妙な変化をしたぞ!」


「人族のスキルか!?」


「いや、スキルを使った気配はなかった! 一体あれはなんだ!?」


 と周りではざわめきの声が絶えない。

 久しぶりだったが、どうやらうまくいったようだ。今のはボールに回転をかけて地面にあてることでスピンさせたのだ。

 とはいえ、野球のボールならともかくドッチボールの球になるとさすがに難しい。

 だが、イノのスキルよって強化された『剛力』のおかげでボールへのスピンが普段よりも強くかけられた。

 通常時のオレでだったら出来なかったかもしれないが、これもスキルのおかげだ。


「さて、今度はそっちの番だぜ。ディアーナ」


「うっ」


 見ると向こうの陣地にはディアーナが一人。

 そして、残された彼女は地面に落ちたボールを拾い、それに炎を込める。


「ええい、喰らえ! ファイアーボール!」


 そして再びファイアーボールを投げるが、それは先ほどと同様に両手に服を包むことで難なくキャッチ。

 それを見たディアーナの顔が明らかに青ざめる。


「それじゃあ、今度はこっちの反撃いかせてもらうぜ」


「ひいぃ!?」


 オレが構えるとディアーナは明らかに怯えた様子で両手を交差させて後ろに下がる。

 そして、オレがボールを投げると同時に「うあああああああああ!」と叫び目を瞑るが……。


 ぽすん。


「……?」


 ボールは軽くディアーナの体に当たるとそのまま地面に落ちる。

 呆気に取られるディアーナにオレは優しく微笑む。


「さすがに怯える女の子相手に本気でボールは投げないよ。というより、これでオレ達の勝利だね?」


「あっ……」


 オレがそう告げると審判の笛が響く。


「それまで! ドッチボール勝者、人族代表!」


 こうしてドラグニアにおけるドラコ三姉妹とのドッチボールは決着を迎えた。

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