第26話「異世界にて鬼ごっこ開始」
「心理戦? どういうことだ?」
まるで意味がわからないと言った様子のリーシャに対し、オレはかいつまんで話す。
「つまりこのスポーツは最初に選んだスキルによって有利不利が大きく別れるんだ。例えばそうだな、こちらが『鬼』で『村人』に触れた際、実はそいつがスキル『偽装』で役割だけ村人表示されてる『狩人』だったらどうだ?」
「あっ……!」
オレの言わんとしていることが伝わりリーシャも納得する。
「そう、このスポーツ。単純な強い速いじゃ勝てない競技だ。いかに相手を出し抜き意表を突くか、それをスキルで選択していく心理戦スポーツだ」
「な、なるほど……」
納得はしたものの、どうやら難しくて頭を悩ませ始めるリーシャ。
まあ、確かにオレもこのゲームのルールやスキルを全て把握したわけじゃないが、それでもこれをただの鬼ごっこだと思ってかかれば、間違いなくこちらが敗北する。
「天士様のおっしゃる通りです。実はクリスト率いるエルフ族はこの競技においては連戦連勝無敗と聞いています」
「なっ!」
バズダルのその発言にはオレも思わず驚く。
先程バズダルが本気で戦えば自分達が敗れていたというのはそういう意味だったのか。
確かにこれは筋力や脚力よりも、頭の回転の速い奴の方が有利だ。
「そういえば、頭の良さとかって種族によっても違うのですか?」
ふと気になって、そんなことを尋ねたところ。
「……オレは算数はできるけど、掛け算とかは種族的にちょっと……」
「オレもどちらかというと、そういうのは……すまん」
リーシャとセルゲイはそれぞれ気まずそうに謝った。
な、なるほど。やはり種族によっては頭の回転なども異なるのか。
オーガ達もセルゲイ達と同じように首を横にブンブン振っていた。
ま、まあ、そうですよね。
ちなみにバズダルの方を見ると――
「私もそれほど頭の回転のいい種族ではないですが、それでも私個人は領地を治めている事もあり多少は考えがある方ですが、それでもエルフ族と比べるといささか劣るかもしれません。ましてやあのクリストの戦略を見抜くのは私では実力不足かと」
と、申し訳なさそうに謝った。
やはりこうなるとオレが中心となって策を考えるしかないか。
そう思っていると、ふとオレの手を握る感触に気づき、隣を見るとイノが強い決心を抱いた瞳を向けていた。
「天士様。及ばずながら私もお力をお貸しします。兄ほどとは言いませんが、私も少しは兄の考えを読めるかもしれません。それで作戦に役立てる案を出せればと思います」
「イノ……」
いくら黒幕が自らの兄とは言え、彼女にも思うところはあるのだろう。
それを押してなお、協力しようとする彼女のその姿にオレも奮起し、彼女の手を握り返す。
「ああ、必ず勝って君を自由にしてみせるよ」
「て、天士様……は、はい!」
そう言って顔を赤くし頷くイノの隣では、リーシャが「やっぱこいつ天然だな……」と呟いていた。
◇ ◇ ◇
「お待ちしておりましたよ。天士様」
「……ああ」
あれから三日。オレ達は万全の体調と策を備えて、クリストに指定されたフォレスト神殿まで来ていた。
「さて、ではまず参加する三名の選手を宣言してもらいましょうか」
「一人目は当然オレだ」
クリストの質問に対し、すぐさまオレが名乗り出る。それに続いて隣にいたリーシャ、セルゲイも一歩前に出る。
「オレも参加するぜ」
「三人目はオレだ」
「いいでしょう。では、こちらの参加者は当然私ですが、残る二人はこちらになります。」
オレ達三人の名乗りをそれぞれ聞いた後、クリストも背後にいた二人を紹介する。
「うっわー! マジであのウォーレム族じゃん! すっげー! 感動! つーか、ちょっと触っていいっすかー? くっはー! なんっすか、この筋肉! オレらエルフ族には絶対につかいないものじゃないっすかー! カッコイイー! マジ憧れるっすー!」
一人は金髪にいかにも軽薄そうな見た目と言動の青年。歳はオレより少し上だろうか。
なんだかセルゲイを見て一人で大はしゃぎしている。ちなみに当のセルゲイは間近でジロジロ見られて、迷惑そうにしているが。
「あー……って言うか競技とかマジだるーっす……。こういうのはー他に相応しい人がたくさんいるのになんで私がしなきゃいけないんっすかねー……」
見るともうひとりは銀色の髪にやたらとテンションの低い女性だった。
戦う前からすでにやる気がないし、隣ではしゃいでいる青年がいるだけにそのテンションの落差が目立つ。
「姉ちゃん! テンション低すぎぃ! オレら選手に選ばれたんっすから、ここはパァー! 明るく元気よく行こうぜー!」
「ええー……嫌っす……面倒っす……」
と思ったらあの二人、姉弟なのか。すごい正反対な姉弟もいたものだ……。
「ルーク。ローゼ。名乗りくらいはしておけ」
「ああ、そうだったっすね。オレ、ルークって言います! 今回はよろしくっす!」
「あー、ローゼって言いますー……。今回はよろしくせずにっすー……」
クリストに言われ、それぞれ自己紹介をする二人。
随分個性的なメンバーを選んできたな、と思っているとクリスト自身もちょっと後悔しているのか、何度か咳払いした後、会話の流れを戻す。
「さて、それではこれよりこの地での『スポーツ勝負』を開始します。お互いに勝ったときの条件は以前伝えた通り。ここでの勝負の結果は神々の盟約により必ず果たされます。よろしいですね?」
「ああ、構わないぜ」
クリストの念押しに対し頷くオレ。
それを合図として、オレ達の前に存在した巨大な神殿の扉が開かれていく。
「よろしい。では、勝負――『鬼ごっこ』の開始です」
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