第5話「異世界にて獣人と出会う」
「……ガルレオン王国の選手達ですか。何用でしょうか? そちらとの試合は明日のはずですが?」
突如として現れた獣人族と思わしきその三人組に王女ミーティアは先程までの温和な表情とは一変して険しい表情となり、その三人を睨みつけていた。
しかし選手に試合?
オレに取ってはわりと馴染みのある言葉ではあるが、この異世界と思わしきファンタジー世界でそんな単語が出たことに多少の驚きがあった。
「つれねーこと言うなよ。明日の勝負に負けたらお前らまた鉱山を取られちまうんだろう? さすがにそれだと人族様も色々大変になると思ってな。ちょっと取引に来てやったんだよ」
「なんでしょうか?」
「実はオレ達もガルレオンの選手だが、向こうとは契約でやってるだけなんだよ。けど、もしも他に報酬のいい国があったら、そこの選手代表になってやってもいいんだぜ? なんなら次の試合だけじゃなく、今後お前ら人族の試合に選手として出てやってもいいぜ」
その獣人の台詞に周りに居た兵士達に動揺の声が上がるのが見て取れる。
詳しいことはよく分からないが、なにやらその獣人の提案とやらはこの国にとってかなり破格の条件らしい。
「ただし、一試合ごとに500万ジュエル要求するぜ。あー、それから定期契約ってことで月に一度それとは別に300万ジュエルも要求するぜ」
だがその獣人のセリフを聞いた次の瞬間には先ほどの淡い期待にも似たざわめきが別のものに変わったのも敏感に感じ取った。
これはおそらく怒りと困惑のざわめきだ。
そして、それはミーティア王女の表情からも明らかであった。
「……その値段。私たちが保有する鉱山の三つ分にも匹敵するとわかっていての提案ですか?」
「当然だよなぁ? むしろこれくらい安いと思って欲しいぜ。これでお前ら人族様もほかの種族とようやくまともに試合ができるんだぜ? お前らみたいな弱小種族の選手や助っ人になろうなんて物好きは俺らみたいな心優しい連中しかいないぜー? どうするよ、この条件早く飲まねーと、俺らの気が変わっちまうぜ」
げはははっと聞いているこちらが不愉快になる笑い声をあげる獣人三人組。
それに対して王女様も周りの兵士達も悔しそうに歯を食いしばっているだけであり、それは無関係のはずのオレも見ているだけでも気持ちのいいものではなかった。
思わずオレがその三人に対し口を出そうとした瞬間。
「ふざけんな! なら、さっさと気が変わって出ていきやがれ!」
見るとミーティア王女とその三人組の間に割って入るようにひとりの少年が立っていた。
年齢はおそらく10歳前後だろう。子供の外見であったが、それ以上に目を引いたのはその少年の頭と尻尾についていた人間には無い器官であった。
いわゆる犬耳と犬の尻尾だ。
目の前の獣人達は見た目が完全に獣なのに対して、その少年は一部にだけ獣の特徴が出ているおそらく半獣人というやつだろう。
前に妹がこの獣人と半獣人との違いについてくどくどと説明していたので記憶に新しい。
ちなみに妹いわく半獣人の獣耳や獣尻尾が多くのユーザーの萌え要素であり、逆に完全獣人はケモナーと呼ばれる一部マニアック達に人気でどちらにも異なる需要があるとかなんとか。
「あーん、誰かと思ったら出来損ないのリーシャじゃねーか。お前まだ人族に雇われてるのか?」
「雇われてるんじゃねー! オレはこの人たちの手助けをしてるんだ!」
「はっ、お前のような人間の血が流れてる半端者になにが出来るんだよ? この間の試合でも全くの役立たずだったろう? おう、ちなみに今は50m何秒だ? 言ってみろよ?」
「……9.8秒……だ」
9.8秒か。それはオレの世界でも10歳前後の平均タイムであった。
リーシャと呼ばれる子の年齢もおそらくそのくらいであり、タイムも妥当なものであった。
だが、それを聞いて獣人達は大笑いを起こす。
「おいおい! 9.8秒とかガキかよお前! ちなみに俺らの平均は8.7秒だぞ? 100mにもなればその差も倍だ。やっぱお前みたいな半端者じゃ俺ら生粋の獣人族には勝てねーな、おい!」
がははははは! と大笑いをしている獣人三人組だったが、いや! アンタらのタイムもそれ大したことないよね?!
と内心ものすごくツッコミを入れていたが、なぜか周りの人間たち全員負けたとばかりに「くっ……」と悔しい表情を起こしている。
え、ええー。この世界どんだけ人間の立場弱いのー……。
「まあ、とにかくだ。どうするよ王女様。こんな取引、後にも先にも今だけだぜ? このまま一生負け種族のままでいるか、それとも俺らの力を借りるか。さっさと選びな」
そう言って割り込んできた半獣人の少年を強引に手で突き飛ばし、そのまま床に倒れそうになる少年。
それを見て、王女様が慌てて少年をかばおうとするが、それよりも先にオレがその少年の体を支える。
少年は倒れるのを覚悟で目を瞑っていたが、オレに体を支えられたと感じるとすぐさま目を開き、驚いたような表情でこちらを見上げる。
「なあ、そこの獣人三人組さん」
オレは少年を支えたまま、目の前の三人組に話しかける。
その瞬間、三人は初めてオレに気がついたのか怪訝そうな顔でこちらを振り向く。
「その取引なんだけど、ひとつ試させてもらえないか?」
正直、オレはこの国の事情やこの世界のことなどまだ分からないことはたくさんあった。
それでも目の前のこいつらが気に入らないということだけは理解していた。
「その試合とやらで、アンタらがオレより優秀かどうか試させてくれよ」
オレのその提案に獣人三人組は呆気に取られたような表情をするが、それ以上に驚いたのは王女様とその周りの兵士たち全員であった。
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