第3話「異世界にてスペックの違いを知る」
「ここは……?」
目の前が光に包まれて、光が収まった後、目を開くとそこに広がっていたのは――中世のファンタジー世界のような場所だった。
「……え、えーと」
あまりの事態に意識がついてきていないが、見る限りこれは王国の城下町。そんな景色が広がっていた。
「これってもしかして『異世界転移』ってやつか?」
オレは目の前の状況に対してすぐさま思い当たる単語を口にした。
オレには妹がいるが、実は妹がそういうファンタジー小説をよく好んで見ていたので、いくつか勧められたのをオレも読んだことがあった。
オレは昔から堅苦しい文章が苦手でラノベと言われている小説でもなかなか最後まで読めないものが多かったんだけど、妹がオススメするWEB小説に代表される異世界転生ものの多くは説明文が少なく、一話一話が読みやすいこともあり、気軽に最後まで読めた。
なのでそうした知識もそれなりにあるわけだが、まさか自分がその当事者になるとは夢にも思わなかった。
「というかこういう展開、
妹の祈里は普段は物静かでおとなしく、なにを考えているのかわからないような部分があったが、自分の好きな物について語る時はえらくテンションが上がったのを思い出した。
オレがいくつかおすすめのラノベを聞いた時もそれまで見たことのないようなテンションのまま饒舌に熱く語っていたのを思い出し、思わず笑みが溢れる。
そんなこんなで改めて目の前に広がる城下町のような場所の光景を見る。
街を歩く人の中には人間のほかに獣のような外見を持った種族や、ドラゴンのような姿の種族、ほかにも青白い肌の人や天使のような白い翼を持った種族など多種多様に存在した。
他種族と共存している世界なのかなと思っていると目の前でオレと同じ人間と思わしき男性二人が大きな箱を抱えて移動している姿が目に入った。
「はぁはぁ、なあ、ここらで一旦休憩しないか」
「そ、そうだな。目的地までまだまだあるんだ。ちょっと休もう……それにしてもやっぱ俺らにはこの荷物はキツイな……鬼族とかの力を借りられればいいんだが」
「よせよせ、連中に頼むとこの中身の商品以上の運び賃になっちまう。ここは我慢してオレ達で運ぶしかないさ」
「だなー」
そう言って道の真ん中で箱をおいて休み始める。
大丈夫なんだろうか、こんな道の真ん中で休んでて?
どうにも気になってしまい、いつものお節介感覚で声をかけてしまった。
「あの、大丈夫ですか? よければお手伝いしましょうか?」
「ん、坊主。珍しい服装だが……人族か? はは、好意は嬉しいがやめておけよ。こいつの中身は5キロあるんだぜ。大人二人でも運ぶのが難しいだ。ましてや坊主のような子供が……」
5キロ。ということは米ひと袋分かな。
それだったら全然いけるけど。
「大丈夫ですよ。それくらいなら片手で持てますから」
普段から妹と一緒に買い物に行く際、荷物持ちはオレの担当のため10キロくらいなら平気で持てる。
オレがヒョイっと男性二人から箱を取り、片手で肩に持つとそれを見て二人が驚いたように目を見開く。
あれ、やっぱりちょっとお節介すぎたかな……。
「あ、アンタ、それ、片手で持ち上げたけど、一体なにしたんだい?!」
「オレ達と同じ人族じゃないのかい?!」
「? は、はあ、まあ人族かどうかはわかりませんけど、たぶん同じじゃないんですかね?」
外見はそっくりなのでなんとも言えないが。
とにかく驚くその二人をよそに二人の目的地だったお店の前まで行く。
わりと近くでむしろ家からスーパーまでの距離の方が倍くらいあったので全然労働のうちに入らなかった。
にも関わらず男性および店の主人と思わしき人たちがしきりに自分の力に驚き、必死にお礼と一緒に「ここで働いてもらえませんか!」と懇願された。
即決するのもなんだったので、その場はやんわりと断って、また気が向いたら手伝うよう約束を行った。
部活でもそうだったけど、せっかく異世界に来たんだから、ひとつの場所にこだわらず色んな場所を見てみたい。
そう思い店の前を出ると同時だった。
「きゃ――――!! 盗人よ――!! 誰か―――!! 捕まえて―――!!!」
大通りから女性の叫びが聞こえたのは。
急ぎその場所に向かうと、手に革袋を握り走っている豹ような顔と姿をした獣人の少年が走っていた。
「へへ! とろ臭い人族にオレが捕まえられるかよ! どーしたよ! 盗られたもんを返して欲しかったら追いかけてみろよー!」
そう挑発するように走る半獣人だったが、オレが驚いたのはそう得意げに走っている獣人のスピードと、周りで追いかけようとしている人たちの反応の遅さだった。
「く、くそ! なんて速さだ、あの獣人!」
「やっぱオレ達人族じゃ追いつくのは無理だ……」
え?
いやいや、どう見てもあの獣人の速さ小走り程度でしょう。
しかもたまに得意げにジャンプしてるけどステップしてるようにしか見えないし。
周りの人達の追いかけようとしているけれど、その小走りにも劣るような早歩きだし、えっと、これってなんかの演劇の練習?
思わずそうとしか思えないほどのやらせっぷりだったが、どうにも周りの人達の表情が真剣そのものだったので、とりあえずその獣人を追いかけることにした。
軽くダッシュを決め、人ごみを瞬時にかき分けながら数秒で目的の人物の真後ろまで着く。
「へへ! この盗賊バータ様の瞬足には獣人族でも簡単には追いつけ――うげぇ?!!」
と後ろを振り向き、そこに映ったオレの顔を見て変な奇声をあげる。
あ、どうも。隣り失礼します。あと、ついでに足元も失礼します。
追い抜くと同時に足を突き出して、それに引っかかった自称盗賊バータさんが地面に転がる。
そういえばドラ○ンボールにもこういう同じ名前の自称宇宙最速な人がいたなー。
「て、てめえ! ふ、ふざけやがってー!」
その自称盗賊バータさんが今度は起き上がり拳をこちらに振り上げてくるんだが……これまた遅い。
というか子供のパンチみたいで威力が乗ってないのがハッキリと分かる。
たぶん受けてもちょっと痛いくらいだろうというのがわかるが、それでも当たると痛いのですかさず右手で殴りかかろうとした手をパシッと掴む。
それと同時に自称盗賊と周囲がざわめく気配が感じられる。
オレはそのまま掴んだ手を柔道の応用で絡め手でその場に倒す。
獣人の体を地面に激突させないよう、直前で浮かせて、その場に仰向けで倒し、宣言する。
「どうします? まだやるか、それとも盗んだ物を返すか、どっちか選んでください」
「……はい」
オレのそのセリフに盗賊バータさんは手に持った革袋を素直に返した。
オレは道の先の方で座り込み、こちらを呆然と見ていた先ほどの声の主と思わしき女性にその革袋を差し出す。
「どうぞ、これ。お返ししますので」
オレからその革袋を受け取ると同時に周りから拍手歓声喝采の嵐が巻き起こる。
「すげー! すげーぜ! 兄ちゃん! なんだ今の技?! 王宮の戦士でもあんな不思議な技見たことないぞー!!」
「いや! それ以前にあの脚力とスピード、兄ちゃんアンタ人族じゃないのか?!」
「いやいや、それよりもあの拳を軽く受け止めた反射神経! アンタ、さてはどこかの国の英雄か勇者と見た! なっ、そうだろ? そうだろ?」
「いや、とにかくすごいぜこれは! 早くこの国の王女様に知らせなきゃー!!」
なんだか、やたらと持ち上げられ、女性からは手を握られなんだか熱っぽい視線まで送られている。
ひょっとして、ひょっとしなくてもこの世界って、オレの身体能力……チートに値するの?
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