異世界転移した先は地球人のスペックがチートすぎる世界でした

雪月花

第1話「異世界を走る」

『さあ、いよいよ始まりました。実況は私ミルノ。今回の戦いは人族王国ルグレシア対獣人王国ガルレオンの試合! それぞれ人族領地“エジキル鉱山”と獣人族領地“グレイオン鉱山”をかけてのスポーツ試合です! ちなみに獣人族領地“グレイオン鉱山”は人族の領土でしたが以前の試合に負けて現在は獣人族の領地。今回の試合にて人族は領土奪還なるか?! 解説のグレイさんどう思いますか?』 


『いやー、正直人族には厳しいでしょう。スキル、スペックと全てにおいて全種族最弱ですからね。片や今回の種目の長距離走は獣人族の十八番。まあ、なにやら人族に見知らぬ助っ人いるようですが、それでも人族では勝ち目は薄いでしょう』


『なるほど、確かにオッズも見る限り獣人族の方がぶっちぎってますからね。とは言え、なにが起こるかわからないのが試合。今回こそは人族の健闘を祈りたいところです!』


「よお、坊主。お前、本気で獣人族のオレとやる気なのか?」


「ああ、一応そのつもりだけど」


 隣に立つライオンの顔と体を持つ獣人族にオレは爽やかに答える。

 それにしても異世界ってすごいなー。本当にこうして獣人族とかと肩を並べるなんて思いもよらなかったよ。


「がっはっはっは、助っ人だかなんだか知らないが、お前見た目はまんま人族そのものだな。まあ、そうなるとスペックも大したことないんだろうけどな。先に言っておくぜ、俺は50m走を9秒でゴールできる。ちなみに自己最高記録は8.4秒だ。戦う前からビビるよな?」


「そりゃもちろん」


 相手の自慢とも思える上から目線のセリフを軽く流しつつ、オレはスタートラインにてクラウチングスタートのポーズを取る。

 それを見た隣のライオン顔がさらに大声で笑い出す。


「おいおい、助っ人! そりゃ一体何のポーズだ! まさか降伏のポーズじゃないよな?! がっはっはっはっは!!」


 そんなライオン顔の笑い声を無視するようにオレは目の前のコースに集中する。

 曲がり角のない一本道。道は舗装され、走りやすく障害物もなし。

 周りの風景は草原に囲まれた場所であり、地球でもこれほど美しい景色の場所はないだろう。


 ――いける。


 そう確信し、次の瞬間、魔法によって会場に広がっていた実況者の声が開始の合図を宣言する。


『それでは第十七回リッグ大陸領土試合――開始!』


 パンッ! と魔法が弾ける音と共に同時に駆け出す隣のライオン。


「がっはっはっはっは! どうだこの俺様のスタートダッシュは! 獲物を狙うようなこの走りから付いた俺の異名こそ“猛獣の獅子”――」


 そんなライオンの得意げなセリフは瞬時に開始と同時に加速を行い、奴の隣を抜き去ったオレを見てあんぐりと口を開けたまま静まる。


 走るたびにドンドンと距離が広がり、遥か後ろへと下がっていくライオンさんに向けて今度はオレがちょっと得意げに言ってみる。


「そうそう、オレの50m走の記録なんですけど5.7秒が自己最高記録なんですよ」


 とは言え、“多分この世界でならその記録もさらに上塗りできる”だろうけど。


 そう思いながらオレは追い風に乗りこの心地いい異世界の大地を思いっきり走っていく。


 そう、この世界では地球人の身体能力そのものがチートだった。

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