セミのなきごえ
市伍 鳥助
ようこちゃんの場合
小学二年生の頃に気づいたことだけれど、どうやら私はセミの鳴き声が嫌いらしい。
シネシネシネシネシネシネシネシネシネシネ────。
「死ね」と。そう言われてる気がして、私が何をしたのだと、叫びたくなった。
「ようこちゃんは可愛いね!」
いつからだろう。可愛いと言われるのが苦痛になったのは。
小学五年生の頃、友達の女の子にはそのとき好きな男の子がいたらしい。
夏休みのある日、夏祭りの日、その友達はその男の子に告白したのだそうだ。
「あのね…しんや君」ストレートに「好きです!」子供らしくませた「わたしとつきあってください!」だけど一生懸命な告白だったのだろう。
夏休みが明けてから、その子は私と口を聞いてくれなくなった。
シネシネシネシネシネシネシネシネシネシネ────。
ほんとに、私が何をしたというのだろう?
そして今、高校二年生の私は、冬だというのに、トイレの中に逃げ込んだのに、聞こえるのだ。せみのなきごえ、が。
…ああ、なんでふゆなのにせみのなきごえがきこえるんだろう。ふしぎだなあ。
怨嗟を込められたせみのなきごえは、ただひたすら、私の耳を埋め尽くしていった。
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね────。」
ずっと、ずっと、ずっと、き こ え な く な る こと もな く。
めのまえにすごくまぁっかなみずたまり、ぴちゃぴちゃしてて、あったかい、つめたい。
なにもみえない!きこえない!わたしはもうじゆう!やった!やった!もうきこえ──あれ? シネ なんで シなネんで きえなシネいシネのシネ?
シネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネしネしネしネしネしネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね──────。
やっぱり、せみのなきごえは嫌いだ。
セミのなきごえ 市伍 鳥助 @kazuki0405
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