episode 1

「狼狩り?」



私は物騒な言葉に思わず聞き返してしまった。


「ああ、最近森から狼が町におりて来て人に危害を与えた事件があったそうだ。…それで国が責任を取って狼狩りをする…と」


狼が人に悪さをするなんて思えない。国を挙げての狼狩りだ。きっと何匹もの狼が殺される。…そんなの絶対に嫌だ。


「お祖父様、それって今日もやるの?」

「何をする気?ノエル」

「お祖母様…」


お祖母様は察しがいい。私が何をしようとしているのか、大方予想はついているのだろう。


「お祖母様、私狼狩りを止めてきます」

「なっ、何を言っているんだ!ノエルの身に何かあったら儂は…!」


「大丈夫だよ、お祖父様。私にはガルがいるから…おいで、ガル」


『ガル』私の友達の名前だ。

「ガウ…?」


私よりもはるかに大きい狼が『ガル』だ。ガルは私が森の中を彷徨ってた時に見つけた狼。


今ではパートナーみたいな存在だ。


ガルがいるから、ガルみたいな狼がたくさんいるって信じてるから狼狩りが許せない。


「ガル、一緒に行ってくれる?」

「…」


ガルはこくんと頷いたように見えた。


昔から一緒にいる所為か、狼でも人の言う事をちゃんと理解しているらしい。


「それじゃあ、行ってきます」

「くれぐれも気をつけるんだよ」


私はガルに跨って森の中を駆け抜けて行く。

どこで狼狩りが行われているか知らないけれど、聞き慣れない人の声や足音は聞こえてくるはずだ。


「…!」


ガルは何かを察知したらしくスピードを落とした。


「ガル?どうしたの?」


私はガルから降りて、ガルの視線の先をじっと見つめた。そこには国からやって来たらしい兵士が何人かいた。


「…!あれが…狼狩りをしている連中…!ガル、隠れて」


私は茂みに隠れてガルの頭を抑える。

するとガルは身を低くして伏せる体勢になった。


「1匹残らずここの狼は排除しろ」


兵士の低い声が聞こえる。その兵士の手には猟銃が握られていた。

あれで狼を殺してしまうのだろうか。そんなこと、絶対にさせない。


私は持ってきた頭巾を深くかぶってから兵士達の前に立ちはだかった。


「今すぐここから立ち去って!」


「ん?なんだ、貴様」

兵士の1人が私の方を睨みつけて言った。


「私は、この森を住処とする者だ。ここの狼を殺すことは私が絶対に許さない」


「はっ、お嬢ちゃんが何を言う。こっちは国王から命令されてるの。ここに許可証だってある」


そう言って1人の兵士は許可証をひらひらと私に見せてきた。


「それでも絶対に許さない。勝手に狼を悪者扱いしないで」

「国の兵士にそんな口の聞き方とは…随分、生意気じゃねぇか…殺してほしいのか?」

「…っ!」


背筋が少しゾクッとした。兵士は何の躊躇いもなく、剣のグリップに手をかけたその時、


「やめろ、素性の分からぬ者を無闇に殺そうとするな」



よく通る青年の声が聞こえた。

それは初めて聞いたのにどこか懐かしく思うような声だった。




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運命をこの手に。 chika @Ryu_den5121

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