女の文学論(十八)

「どうなる、といいますと?」

「朕は漢の皇帝である。この度、心ならずも曹操の娘を3人も受け入れることになってしまった。曹操は漢王朝の簒奪をたくらんでいると朕は思う」

「左様でございましょうか?」

「司馬徽よ。漢王朝を救う手立てはないか?」

 深刻な面持ちで劉協は問うた。

 しかし、

「無理でございますなぁ」

 あっさりと司馬徽は答えた。

「すでに漢王朝の命脈は尽きております。すでに瀕死のところを曹操によって生かされているだけの状態でございます」

 劉協は嘆息した。

(やはり学者というのは頼りにならぬ)

 万事、事なかれ主義のこの老け顔の男に助けを求めたのがそもそもの間違いであった。

(朕が困っているのを楽しんでいるのではないか……)

 そう思うほどに司馬徽は泰然とした態度を崩さない。

 劉協は司馬徽に背を向けた。

「ですが、陛下のお命を守る方法はございます」

「朕を曹操からか!?」

 劉協はあわてて振り返った。

 が、司馬徽は首を横に振った。

「魏公は陛下の命を奪うようなことはおそらくないでしょう」

「何ゆえそう言い切れる?」

「魏公は国賊の汚名を着ることを大変恐れておいでです」

「…………」

「おそらく魏公が存命のうちは陛下の命も安泰でしょう。ですが、曹操の死後はその限りではございません」

「曹操の息子が朕の命を狙うと?」

「はい」

 司馬徽は断言した。

 あの孔明の師匠の言葉である。

「どうすれば助かる?」

「あの女性に助けを求めるべきでしょう」

「曹節にか?」

「いや、正しくは三姉妹といった方がいいですな」

「あの者たちは曹操の娘だぞ」

 劉協は上擦った声で言う。

「ですが、漢に嫁いだからには漢の人間です」

「曹憲もか?」

「ああ、一番年上の方ですな。無論、陛下のお味方になってくれるでしょう」

 会ったこともないはずなのに、司馬徽は断言した。

「なぜそう言い切れる?」

「女は、愛してくれる男の言う事を聞くものでございます」

「朕はそうは思わぬ。あれは父親から離れることのできない女だ」

「そうでございましょうかねぇ」

「何が言いたい?」

「うすうす気づいているのではないですか? 父親にも美しくない女だと思われていることに。なにしろ二十歳過ぎても嫁ぎ先がなかったのでございますから」

「それは関係あるまい。曹操が結婚しろと命じれば誰も断れないのだから」

「左様。ただし、それは魏公が命じればの話でございます。あるいはずっと陛下に嫁がせるつもりだったのかもしれません。ですが、父親の思いを娘のほうが汲み取ってくれるとは限りません。おとなしい娘だからといって、心の中まで従順とは限りませぬゆえ」

「だが、あれはなかなか心を開かぬ女だ。どうすればよい」

「それは簡単な話でございます」

 司馬徽はからからと笑った。

「股を開かせて子種を注ぎ込めばよいだけの話でございます」

「なっ……」

「もっとも、それを選ぶかどうかは陛下の判断次第で」

 そう言うと司馬徽は両手で口を塞いだ。

「それ以上のことは申し上げられません。天命を全うしたいので、尊いお方の怒りを買うようなことは申し上げられません」

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