第80話 ソッチのほう?

「名探偵!!……」

 HALがエドモンドの心を読んだかのようなタイミングで何かを言いかけたときであった。

「コラァ!!」

「えっコアラ? 名探偵コアラ? そんな感じだったっけ?」

 後ろから聞こえたドスの聞いた声、聞き返すように振り返るプリンセス天功。


「ダンナ…やっぱ、あの桃、喋ってやすぜ?」

 オヤジが桃を指さす。

「オマエ…この期に及んで、まだアレを桃だと認識してるのか?」

「ありゃ、喋る桃でさぁ」

「桃が喋るくらいで、なんだ」

 エドモンドがHALを見る。

「ウチにも喋るボールがいる」

 ドンッと胸を張るエドモンド、ヒト科を卒業してミュータントとしての道を歩んでいる途中、その人である。

「負けてやせんぜ…負けてやせんぜ!! ダンナ!!」

 バカ2人は無視してB・Bが話を進める。

「喋る桃でも玉でもいいわよ…敵? よね」

 B・Bが桃との距離を一気に詰める。

 クルッと身を回転させて後ろ回し蹴りを桃に叩きこむ。

「驚いたな…達人でも躱せない程の速度…だが、少し軽い」

 桃からニュッと手が出てB・Bの蹴り足を掴んで離さない。

「中に人が?」

 エドモンドが真剣に驚く。

(当然じゃない…まさか…ホントに桃が喋ったとでも? というか、あんな大きさの桃に疑問を欠片程も抱かなかったというの?)

 若干、引き気味でエドモンドを見つめるプリンセス天功。

 エドモンドの前髪の生え際から伸びる触覚がピクピク動く。

(まさか脳みそもカミキリムシに近づいていくのでは?)

 ゴクッと唾を飲み込むプリンセス天功。

「エディ…可哀想…くっ」

 思わず口を抑えて涙ぐむプリンセス天功であった。

「誰か中に入っているぞ‼ 皆、気を付けろ‼」

 叫ぶエドモンド、ドン引く一同。

(気づいてなかったんだ…)

 もはや喋る桃の中の人より、ガチで気づいてなかったエドモンドの方が視線を集めてしまっている状況で、出るタイミングを外した桃の中の人の気持ちも考えてもらいたいものである。

(どうやって出たものか…)

 ほらっ考えちゃってるし…


 桃の中に人は考えていた。

 この掴んだ少女の足をどうすべきか…メッチャ暴れてるし…ガンガン桃殴ってきてるし…

 なんでこの少女は、こんなに狂暴なのか?

 モニターに映る美少女が鬼の形相で、この『お一人様用万能シェルター・桃型参式』「核の直撃すら防ぎ切る」という謳い文句を疑いたくなるほどの勢いで殴って来る。

 ツリ目をツリ上げて「ウンガァァァー」とか吠えてるし…なんか揺れるし…モニター時折ザザッとなるし。


 大きな音にガンッ‼

 桃の中の人がビクッとなる。

 エドモンドが変身して蹴りを、お見舞ったのだ。


 モニターに映し出される、見たこともない生き物。

「キモイ…」

 カミキリムシの遺伝子を摂り込んだ男の異形。

「ギギギギ…」言ってるし。


「オラァ‼ 出てこいやー‼ この引き籠り野郎‼」

 ヤンキー臭い鬼姫みてぇのがガンガン蹴ってくるし、

「皮被りのホーケー野郎が‼」

 剥げたおっさんが金属バットで叩いてるし…


 だんだんイライラしてきた。


「大概にしろや‼ この蛮族共がー‼」

 スピーカーの音が割れるくらいの怒号が桃から響く。


 ブシュッ‼

 桃が真ん中から割れて、中から男が現れる。

 スクッと立ち上がる男の姿は、どこか懐かしい。


「ん? どこかで見たような…いや気のせいか?」

 エドモンドが首を傾げる。

 首の節目がギギッと鳴る。


「マスター、コレです」

 HALがエドモンドにモニターを見せる。


「むかーしむかし…あるところにお爺さんとお婆さんが暮らしておったそうな……」

 5分ほどの沈黙、皆、モニターに流れる紙芝居を大人しく観ている。

「……幸せに暮らしましたとさ…桃太郎、おしまい」

 ナレーション市原悦子…


「あっ?」

 一同、桃の中の人をハッと見返す。


「我こそは…桃から産まれた桃太郎‼」

 ビシッとキメポーズ。

(えっ? 侍のほう?)

 HALがデータバンクから資料映像を探し始めていた。

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