第71話 珍しくウィナー

 いつになく強気のエドモンド、そんな勇姿を見ることも無く、一同は卑弥呼がいるVIPルームを目指す。

 偶然にもエドモンドが全員の注目を集めている、今こそ好機。

「HAL、Lock解除して」

 プリンセス天功がドアの前で身を屈める。

「……Lockされてません」

「まさか?」

 ガラッと扉が横にスライドする。

「横?」

「襖というのだ、異国の泥棒よ」

 しゃがんだまま、ジロッと上目使いで声の主を見るプリンセス天功。

「どちら様?」

 ハッとその後ろで言葉を失っているB・B、これまた、しゃがんでいる。

「ナベリウス!!」

「なぜここに?とキミは聞く」

「なぜここに?…ハッ?」

「ククク…久しぶりだねベリアル」

 東洋系の顔立ち、薄い顔、『湯』と書かれた浴衣を着ている男。

「お茶でもどうだい、そんなとこにしゃがんでないで立ちたまえ…気兼ねなく」

 スッと手で招き入れる仕草、それが何となく鼻に付く。

「じゃあ、お言葉に甘えやして」

 手で前を失礼と言わんばかりに上下に揺らし部屋に入るオヤジ。

(アイツ、完全にジャポンの風習をマスターしてるわ…さすがペテン師)

 プリンセス天功はしゃがんだまま、オヤジの順応力に驚いた。

「フン、おじゃまするわ」

 B・Bがスクッと立ち上がってオヤジに続いてもなお、プリンセス天功はしゃがんだまま。

(足が痺れたわ…)

「どうしましたプリンセス天功?」

 HALが訪ねる。

「いいの、何かあるかもしれないわ、アタシはココで…」

(痺れて動けないわ…)

「そうですか…そういうことは、何かしそうな人に聞こえないように言うものですよ」

 HALがコロコロと部屋に入る。

「よろしいのですか?」

「いいの構わないで頂戴」

「そうですか、では、足の痺れが取れたら、いつでもどうぞ、美味しいプリンも用意してますから」

「……テイクアウトで頼めるかしら?」

「お望みならば…」


 とりあえずプリンは食べれそうで安心した、プリンセス天功であった。

 部屋に入ると卑弥呼が椅子に座っている。

「ん? そなたら…」

 何事か言いかけたが、ナベリウスが足でコードを蹴るように持ち上げ抜いた。

「何…ごと…か?」

 すぐに電源が落ちて動かなくなる機械仕掛けの女王様。

「バッテリーは内臓されてないの?」

「あるさ…抜いたけどね」

 B・Bが卑弥呼の隣の椅子に座る。

「用済み…ってこと?」

「そう、この試合が終わるまで…それが彼女の価値だからね」

 スッと武舞台を指さすナベリウス。

「どれどれ」

 オヤジが武舞台を見ようと身を乗り出す。

「げっ? ダンナが…」

「死んだ?」

「いや…ダンナだけ立ってやす…」

「勝ったの?」

「あぁ…彼の勝ちだね」

 ナベリウスが薄ら笑いを浮かべている。


 武舞台では…

 エドモンドが武舞台脇のドクターアナハイムに近づき、

「奴は戻せるのか?」

 鞘に納めた白雨の先で倒れたリッパーを指す。

「いいや…無理だ、機械化だけなら外すことはできるのじゃろうが…ヤツは遺伝子レベルで融合させている箇所が多すぎる、コレもココにいたナベリウスのおかげじゃ…どうじゃ、まだアレは強くなるぞ、うん? 戦いたいじゃろう、任せておくがいい、さらなる融合を果たし、機械化を進めていくぞ、アレは限りなく屈強な実験体となったわ、カカカカ…カッ…なぜじゃ…」

 エドモンドが無表情で白雨を抜き、一閃…変身で強化された筋力が白雨の剣速を飛躍的に押し上げている。

 斬り刻み、その身体のパーツがボロボロと転がり、吹き飛ぶ…

 白雨の切っ先にドクターアナハイムの腕を突き刺し、リッパーの目の前に投げる。

「ギギギ…」

 変な声をあげて、ズリズリとその腕を食わんとして這い寄る。

 細切れのドクターアナハイムに背を向け、リッパーのもとへ歩くエドモンド。


「もう…オマエの顔を見たくない…」

 白雨がリッパーの甲羅を真っ二つに引き裂いた。

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