第3話 イールが要る
エドモンド少尉に命令書が届いた。
『うなぎの養殖計画』
長々と書いてあったが要約すれば、そういうことだ。
「うなぎとはなんだ……」
思わず
そう、うなぎを知らないエドモンド少尉である。
資料室に足を運ぶ、図鑑で調べるに川に生息するヌメヌメしたヘビのような黒い魚らしい。
養殖するにも、本体が必要である。
まずは卵ないし、成体を捕獲せねば。
残念ながら、捕獲方法についての記述は無かった。
(さて、どうしたものか……)
『うなぎ』を求めて基地の外、
迷い迷い、街でブラブラ気づけば、あの路地、あの店、
『骨董品グラスホッパー』
店の名はジャポンの名店を指す言葉『ばったもの』から取った由緒正しい店である。
看板にはバッタの改造人間であるライダーの姿が描かれている。
旧世界ジャポンの科学力の高さを物語る存在であるらしい。
(気づけばここか……)
まぁ、ダメもとで行ってみるか……そういえば、この間のテケテンのお礼もまだであった。
ギィッと開きの悪いドアを開ける。
「オヤジいるか!」
「これは旦那!この間のグエッ!」
「死にたいのか、キサマ」
顔を見た瞬間、死にはぐった、この間の思い出がよせばいいのに鮮明に蘇る。
あのとき、キノコまみれでなければ、あるいは……。
湧きあがる殺意を止めるものが何もない。
びっくりするくらい、殺意しか感じない。
この場で、一閃、腰の愛刀『
想像しただけでスカッとする、やったら絶対スカッとするに決まってる。
「で……今日は……なにを……お探し……で……」
胸ぐらを掴まれたままで、苦しそうだが、この期に及んで、何かを売りつけようとする姿勢には脱帽である。
さすが、
「俺は、うなぎを捕まえなければならないんだが、なにか良いモノはありますか?」
語尾のありますか?には無ければ殺すというニュアンスがたっぷり込められている。
「あります!ありますから離して」
壁に叩きつけるように店主を離すエドモンド少尉。
「これです。コレ、うなぎにはコレが一番ですよ旦那」
と差し出したものは、
竹かご 竹ざる 一文銭 手ぬぐいの4点セット。
「なんだ?これは?」
ふたたび殺意がこみ上げてくる。
「これをご覧くだせぇ旦那」
とDVDを再生すると……。
やす~きぃ♪
御存じ『どじょうすくい』だ。
「これがジャポンのシャーマンがうなぎを捕る様子を儀式化した映像です」
たしかに、手つきは、ぬるぬるしたナニカを捕まえたり、放したりしているように見える……見えるのだが、鼻のアレは何だ?
「おい、うなぎとは、釣ったり、網を張ったりして捕まえるのではないのか?」
「旦那、さては~うなぎを知りませんね~」
「ぐっ……」
「えぇ、えぇそうでしょう、無理もない、アレは幻の珍魚ですから」
「幻……珍魚」
ここで畳み掛けるオヤジ。
「旦那、普通の道具じゃ、うなぎは捕まえられませんぜ!」
「ぐっ……むむむ……」
「どうしやすか?」
完全に足元を見られている、がしかし、今はこのオヤジしか頼る者がいない。
「毎度あり!」
高い買い物であった。
DVD付きというのが痛かったが、あの複雑な儀式を一見では覚えられない。
寮の自室で猛特訓である。
特訓は深夜まで及んだ。
もともと飲み込みの早いエドモンド少尉ではあるが、あの複雑な動きには手こずったようだ。
眼が真っ赤に充血している。
朝日とともに出発である。
リュックに、竹かご 竹ざる 一文銭 手ぬぐいの4点セット。
「いくか……」
そして街はずれの河を上へ、上へと登って行く。
所々で踊りながらの移動である。
やす~き~♪ 鼻栓の一文銭と頭に巻いた手ぬぐいが痛々しい。
太陽が登る頃には、バテバテであった。
腰痛になりそうだ。
この儀式はツライ。
(キツイ……、そもそも姿を見せない、うなぎをどうやってすくうのだろう……)
踊っていれば、バシャバシャと川を埋め尽くす、うなぎが……とか思っていた。
「そんなことだろうと思ってましたぜ」
河原の向こうから声がする。
聞き覚えのある声、オヤジである。
「旦那!」
「オヤジ!」
抱き合いたくなるような場面だが、そうはならなかった。
「貴様!うなぎなんか姿かたちも見せやしねぇじゃねえか!」
「旦那、言ったでしょう、幻の魚だって」
「朝から何度、踊ったと思ってやがる!」
「まあまあ、落ち着いてくだせぇ、アタシが手ぶらで来るとでも思ってるんでやすか?」
「なにか持ってきたのか?」
「とりあえず、弁当とグェッ」
「誰が、弁当を頼んだんだ!えっ!おい!」
「苦しい、旦那、放して」
オヤジの胸ぐらを少し緩めてやると
「はぁ~まったく旦那は短気でいけねぇ、ハンバーグは御嫌いですか?」
「グエッ」
「違います、冗談です、放して」
オヤジが差し出したものは、プラスチックの捕獲カゴ。
中には、小さな『どじょう』が数匹泳いでいる。
「うなぎか!」
「うなぎです!」
「オヤジ!」
「旦那!」
ガシッと抱き合う2人。
「しかし、小さいな……」
「稚魚です」
「なるほど、図鑑では1mを超えるとか書いてあったが~コレが成長するのか~」
「そうです、何年か後にはメートル越えでさぁ」
「そうか」
「そうです」
「で、コレは何だったんだ?」
「コレ?」
「うなぎ捕獲の道具だ」
「…………まぁ、半日かそこらで捕獲できるほど簡単なモンじゃございやせん」
「お前は、どうやって、うなぎを捕まえたんだ……」
「…………いやぁ、偶然……ヒョイッと」
「幻の魚が、偶然ヒョイッと」
「まぁそれはさておき、どうしやすか?」
「ぐっ」
「アッシは別にどうでもいいんですがね、川に戻してもね」
「ぐっ……むむむ……」
「どうしやすか?」
――夕刻
「エドモンド少尉、うなぎ養殖計画の遂行のため、稚魚を確保いたしました」
結局、買ったのである。
現在、食堂にて『うなぎ』という名の『どじょう』が観覧できる。
いつか、『かば焼き』なる料理を食すために……。
頑張れ飼育長、エドモンド少尉。
どじょうにエサをやり続けるエドモンド少尉に新たな任務が!
どんなにエサを与えても、大きくはならないぞエドモンド少尉。
次回 『ひとつぶ300m』
幻の覚醒食を探せ、エドモンド少尉。
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