HERMES
きーぷ
第1話
「私が雇ってあげる」
背中の中ごろまで伸びた綺麗な銀髪に、澄んだ青い瞳、お嬢様みたいな格好をしてる女はそう言った。
そして、この女との出会いが俺の人生を大きく変えたのだった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
四月十日某所喫茶店 和夢(なごみ)
「くっそ!……また落ちちまった」
行きつけの喫茶店でいつものまずい紅茶を飲みながら俺はそう言う。
「えー!才我君また駄目だったんですかー!?」
と栗色のショートボブの女の子は驚いた表情で言う。
「……だろうな」
金髪の髪にヒゲを生やした男は反対に解りきっていたようにいってくる。
俺 天城 才我(テンジョウ サイガ)は苦しんでいた。この前まで働いていた土木作業の会社を、クビになってしまい食い扶持を失ってしまったのだ。まだ、二十歳という人生これからって時にだ。
まぁ、クビになったのはオレが悪い。調子こいてる現場監督の野郎にチョークスリーパーを決めてしまったからだ。
やっちまったことは仕方ねーと新たな職を見つけようと探すが予想以上にうまく行かない。何処も書類だけで落とされてしまう。
落とされる原因はわかっている。高校中退というのともう1つが…
「……お前は……特殊能力がダメだ」
「そんなことないですよ! 大丈夫です、きっと! 才我君の紐を操る能力でもきっとやっていけますよ‼︎」
ニ人からダメだしと励ましの言葉を言われる。
今この世界は特殊能力というのものが普通になっている。二十年前にとある科学者が能力を発現させる薬の開発に成功した。そして、それから5年経つ頃にはほぼ全ての人類が何かしらの特殊能力を手にしていた。
さらに能力者たちはS〜Cまでのランクに格付けされ、ランクに応じた処置を受け暮らしている。Sランクの人間とかはそれだけで勝ち組の未来なのだ。
しかしながら、俺はその中でも最低のCランク……
「直接見てから決めやがれってんだ。学歴とCランクってだけで落としやがって!」
俺は不貞腐れるように言う。
「うーん、才我君、見た目もちょっと怖いから、それもあると思うけど」
「なんだとーリア、おまえ言うようになったなー」
その女の子の頭を掴み、軽く左右に振る。
「きゃあぁぁ!めーまわるからやめてー」
ちなみに今話しているのはこの店のスタッフである葉山リアとマスターの伏見 涼だ。
俺がこの店和夢に通いだして早六年この二人ともかなり仲良くなり、腐れ縁のような関係になっている。
「何だったら、ここで雇ってくれてもいいぜ?俺だったら、このいつも客のいない喫茶店も繁盛させられるぜ?」
「それ、いーですよ‼︎ そした…「いらないね」
リアが何か言いかけるのを遮るように涼は言う。
「何でだよ⁉︎ いーじゃねーかよ!」
涼は俺の肩に手を置くと口角を少しあげ
「……能力……しょぼいから」
「りょ〜う、テメー相変わらず、ちょこちょこ腹立つなぁ」
俺は身を乗り出し、ガンをつける。
涼は目を逸らさず言う。
「……やるか?」
「わわっ!喧嘩はダメですよー!」
リアが慌てて止めに入る。
「ふっ、今更お前と喧嘩するかっつーの」
俺は席に戻り、不味い紅茶をまた飲む。
「……だろうな」
涼は解りきっているようにいった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
その後、紅茶を飲み終わった俺は店を出た。
(…あっ、金おろさなきゃもう金ねーや。…残高あとどれくらいだっけな)
不意に思い出した用事を済ませようと俺は隠れ家的にある和夢から都心部へ向かう。
街中には色んなやつがいる。空を飛んでるスーツのおっさんや手から水を出して遊んでいる子供達など様々だ。
そして、そんな人々を慣れた様に無視し、俺は店やビルにある求人情報を目の端に捉えながら歩いく。すると突然
ドゴォォォォン‼︎!
と大きな爆音が鳴り響く。
俺はとっさにうつ伏せになって、手で頭を守る。
(はぁ、何だよ急に!どっかのバカな能力者が暴れてんのか?)
そのままの体勢から前を見ると少し前のゲーセンがあるビルの入り口から黒い煙が出ている。
そして、俺の目の前には1人の女がいた。
「ちっ! 逃したわ!」
イラついたようにそう言うと、その女は俺の方へと振り向く。
その女は中ごろまで伸びた綺麗な銀髪に、澄んだ青い瞳、整った顔でお嬢様のような格好をしている。めちゃくちゃ綺麗な女性だった。そして、その綺麗な顔立ちと服装からは似合わないような、少し子供っぽい縞々のパンツが顔を覗かせていた。
俺は目線を少し上に逸らすと女の蔑んだ瞳と目があった。顔を真っ赤にしながらも軽蔑をした目で女は
「下衆!」
と一言だけ言い放つ。
俺は静かに立ち、辺りを一瞥する。
「いやー確かにパンツ見たのは悪かったけど不可抗力ってやつだぜ?そもそもあの爆発が悪いんだ。誰だよ?こんな街中で爆発なんて起こしたのは!幸い怪我人はいなさそうだからいいものをよぉ!あんなのバカのやることだぜ!」
俺は話題を逸らして、その女の怒りを抑えようとしたが逆効果だった。
女はすごい剣幕で、左手からボンッボンッボンッと小さな爆発を発生させている。
「そうー?バカでごめんなさいねぇ!と・こ・ろ・でパンツを見たのは認めるのよねぇ!?」
(アウトォォォォォ!!爆発起こしたのこいつじゃねーか!!)
と、そこにピーポーピーポーとサイレンが鳴り響く
警察と消防が来た様だ。
すると女は突然俺を手を取りひっぱりながら走り出す。
「ちょ!な、何すんだ!」
「うるさいわね!今警察に時間を取られてる暇はないのよ!パンツ見たんだから協力しなさい!それでチャラにしてあげるわ!」
「意味わかんねーよ!てか、力つえーなお前!ゴリラか!」
「ちょ!ゴリラって!バカにすんのもいい加減にしなさいよ!」
しばらくして
はぁ、はぁ、はぁ……二人共息を整える。
「…んで協力って何よ。何をすればいーわけ?それにあんた「クララ」
「は?」
「名前よ。クララ、クララ・アルダートンよ」
「ああ、そーいうことか。俺は天城才我だ」
「才我ね。実は今、私はある男を探しているの。そいつを見つけるのを協力して欲しいの」
「ふーん。んで、何でそいつ探してんの?理由によっちゃ協力できねーぜ。さすがに殺人とかは嫌だからな」
「依頼よ。その子が家出したから探して欲しいってね。…ただちょっと困った事になってね」
(なるほど捜索か、街中で爆発させるやつが探しているってんだからヤバいことかも知れねーと思ったがそんなことはなさそうだな)
「ん?依頼てことはあれか?お前便利屋で働いてるの?」
「違うわ。便利屋HERMES!私の店よ!」
クララは得意げに言う。
「!?…まじか?」
( ぱっと見同じ位の年なのに経営者かよ。俺なんか失業中だってのに)
「まぁ、なんでもいいや。ただし依頼料は協力した分もらうぜ。んで、そいつの特徴は?」
「いや、だから!パンツ見たのでチャラって言ったでしょ!まぁいいわ特別に払ってあげるわ…パンツ見た分は引いとくけど」
(どんだけパンツしつこいんだよ!お子様縞々パンツなんか興味ねーつの)
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
そして、俺は暇つぶしと金のためその依頼を手伝うことにした。
爆発ゴリラことクララからの情報によると探す人物は
氏名 田中卓三
年齢 十二歳
能力 自身の認識を触れた者から消す能力
ゲームのやり過ぎと親がゲーム機を壊してしまい、それのせいで、昨日から家出してしまったらしいが、両親に能力使っているためどうしようもなくなってこいつに依頼が来たそうだ。しかし、先程クララも能力を使われてしまい卓三を認識出来なくされたらしい。
「何だガキの家出かよ、そんなもんほっときゃいいのによぉ。それで、お前は認識できなくもう見ることが出来ないから、俺に協力を頼んだのか。んで肝心のそいつの見た目は?写真とかねーの?」
「写真ならここにあるわよ……あっ」
「………」
クララは燃えて半分ほど真っ黒になった写真だったものを取り出す。
「あー、あのね、うん……えと……さっき写真持ったまま爆発させちゃったみたい」
(何やってんの?この女)
取りあえず、クララが覚えてる限りのことを教えてもらう。その卓三という子はメガネをかけた人を小馬鹿にしたような生意気な子供だったらしい。
「でも、これからどうやって探そうかしら私は姿が見えないし、あなたはどんな子かいまいちわからないでしょ?それに、もうこの街から離れてしまっているかもしれないわ」
(どんな子かわからないのは、お前が悪いけどな)
俺は少し考えると、1つ作戦を思いつく。
「……あーとりあえずお前もう1回ゲーセンで爆発起こしてこいよ」
「…………えっ?」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
某ゲーセン
爆発ゴリラが掌で小さな爆発を何度か起こしている。すごい表情をしながら、まるで悪魔のようだ。
俺はそれを少し遠くからにやけながら見ている。周りの客や店員は悲鳴を挙げ、逃げている。そりゃそうだ、端から見れば頭のおかしい能力者が爆発を起こそうとしているんだから。
…だがそんな中1人だけ近づいていく子供がいる。
「おねーさん見えないのにまだ僕を探してたのぉ?そんな怒ってたんだぁ」
楽しそうに嘲笑しながらクララに近づいていく。
「みーつけた♪」
「!?」
俺は満面の笑みを浮かべながらその子の後ろでそう言った。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〜30分前〜
「何でまた爆発しなきゃいけないのよ!あの時だってしたくてしたんじゃないのよ…あの子が見えないのを良いことに色々イタズラするからついカッとなって…」
(だからって爆発することはねーだろ…それで死んだらどうする気だこいつは?)
と思いつつ俺は作戦を説明する。
「お前を囮にしてお前に近づいてくるやつを俺が捕まえるんだ。まだこんな時間だし友達とかはまだ学校の時間だろ。つまり、時間を持て余してんだよこいつは、だからさっきもゲーセンで捕まりかけた。そこに自分のことを見えないお前がいたらどーする?ちょうどいい遊び相手だと思わねーか?」
「確かにあの時も1人でいたわ。でも、まだゲーセンにいるとは限らないでしょ!?この街にいるかどうかも…」
「いや、少なくともこの街にはいるね。まだガキなんだし、そんなに金をもってないだろう。仮に能力を使って他人から金を取っているとしても、たかがガキの家出そんな遠くに行くとは思えないね」
「じゃあ、なんでゲーセンなの?カラオケボックスとかネカフェとか行くところは色々あるでしょ?」
「ゲーム機を壊されて家出したんだろ?ゲームが好きなんだろぜ。それに、さっきもゲーセンにいたんだから、いる可能性は高いとおもうぜ?」
クララは下を向き少し考えてから
「ていうかこれ、思ったんだけど私あの子にバカにされてるってことよね?」
「そだな」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「クソガキィィ!出てきなさいよぉぉぉぉ!」
(鬼の様な形相だなwしかし二軒目でヒットとは早かったなー)
鬼を軽くなだめて俺はターゲット田中卓三と目線を合わす。
「さてと、卓三だっけ?家に帰るか」
「お兄ちゃん、お姉さんの仲間なんだ。てっきり1人で探してるのかと思ったよ」
「まぁ、俺も巻き込まれただけだがな、この女に」
「…てことはお兄ちゃんも認識出来なくさせちゃえばいいのか」
そう言って卓三は俺を触ろうとしてくる。だがそれと同時に俺は手に隠していた縄を操り、卓三の右手と左手を手錠の様に拘束する。すると縄の手錠だけが浮いている様になる。
「っつぅ!」
「まぁ、やっぱりそう来るよな。でも対処方はちゃんと考えてある。あくまで紐は俺が握ってるし紐は俺の能力だ、そこまで能力の範囲はないみたいだな」
「……くっそ〜!これ取れよぉぉ!!ふざけんなぁ!だいたいお前ら何で俺を捕まえるんだよ!!あのクソババァか?あのババァの頼みなのか?」
卓三が何か言っている気がするが認識出来ない俺たちは何も聞こえない。ただ手錠が少し動くだけだ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
こうして俺らはそのゲーセンで卓三君を家族に引き渡した。
「…ありがとう。助かったわ。あなたのおかげで今回の依頼達成することが出来た。」
クララが少し照れながらもお礼を言ってくる。
「良いよ金も貰ったし、これで当分生きていけそうだ。早く新しい仕事探さねーとな」
「…あなた無職なの?」
「…ま、まぁ言ってしまえばそれに近いものになるな」
俺は引きつりながらそう答える。
すると彼女はクスッと笑うと言う。
「じゃあ、私が雇ってあげるわ」
背中の中ごろまで伸びた綺麗な銀髪に、澄んだ青い瞳、お嬢様みたいな格好をしてる女はちょっと偉そうにでもなんだが嬉しそうに手を差しのばす。
不覚にも俺はその顔にドキッと胸が高鳴るのがわかる。そして、俺は二つ返事で差し伸ばされた手を受け取った。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
その後、ゲーセンに警察がくる。
(あんだけ爆発騒ぎを起こせば来るよな俺もあいつも少し刑罰を食らうかな?でも便利屋って依頼のためなら多少のことは目を瞑って貰えるとか聞いたことあるような?)
クララと警察が何やら話しそのあと俺のとこへ来た。
「あなたを署へ連行します。良いですか?」
「良いぜ」
まぁ流石に事情聴取くらいはされるか。それくらいは仕方ないな。
……そして、なぜか車に乗せられたのは俺だけだった
「……ん?あれ?クララお前は?」
「あー私はランクSで便利屋だから無罪よ。依頼達成できてなきゃ普通に捕まってたけどね♪才我は一般人だからそうはいかないみたい。早くお勤め終わらせてきてねー待ってるからー」
クララは軽くそう言う。
俺は車の中で叫んだが、虚しくもその声はクララに届くことはない。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
一方その頃和夢
「涼さん何で才我君を雇ってあげなかったんですか?」
「……あいつが売り上げに1番貢献してくれるやつだから……売り上げがな……」
「……あーなるほど」
「一緒に働けると思ったのになぁ」
リアはぼそっとそう呟いた
〜つづく
HERMES きーぷ @marlboro
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。HERMESの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます