再開

基本美徳

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「これあげる。」

小学生の頃から一緒にいた彼は私によく贈り物をくれた。

贈り物といっても綺麗な形の石、落ちていたどんぐりや雑草に混じって咲く花等だ。

綺麗な宝石とかアクセサリーとか、きらびやかな贈り物ではなかったけれど、私はそれをとても大切にしまってある、お花の栞は本に挟み切れない量になった。

思い出が詰まっているクッキーが入っていた缶ケースをそっと指で撫でてみる、この缶ケースも彼からの贈り物だ。

微笑みを抑えきれない朗らかな気持ちと、言い表せない涙があふれる。

何もかもがこの世で一番綺麗だったあの日にはもう戻ることはない、押しても引いても時間が止まることはない、けれどこの宝箱に詰め込んだ思い出はきっと色あせる事無く私の人生を彩っていただろう。

 パタリと眺めていた家族写真のアルバムを閉じる。

年のせいだろうかもう起き上がるのも辛くなってきたなと、静かにベッドに横たわり目を閉じた。

 いつの間にか見晴らしのいい草原に一人で立っていた。見渡すと花が咲き誇る綺麗な丘のようだ、知らぬ間に眠ってしまったのだろうか、夢のような美しい景色になんだか不安になる。

 ふと見ると、咲いている花に違和感を覚える、種類の違う花が一本ずつ手折られているのだ、不思議に思いよくよく見ていると、手折られている花がぽつりぽつりと道しるべをつけるように続いている、なんだかそれを無性に追いかけたくなってきた。

 心なしか体も子供の頃のように軽く感じる、よし!と意気込み花でできた道しるべをたどり、歩く、歩く、歩く、どの花もなんだか見慣れた花ばかりだ。あの花も、この花も、全部押し花にしたことがある花だ。

草原の終わりでハッと気が付く、下を向いて歩いていたから気づかなかったのだろうか、今度は小さな森が目の前に広がっている。

 最初に森なんてあったかしら?訝しんで見渡すと、奥にとても懐かしい背中を見つけ思わず声をあげてしまう。

「おじいさん?!」

彼が私の声に驚き、飛び上がってこちらを向くと

「ああ、見つかっちゃったかぁ。」

恥ずかしそうに声をあげ手を振ってきた、顔を見て、先に逝ってしまったあの人だと確信する。

「迎えに来たよ!」

彼はそう叫びズボンについた土汚れをパッパッと叩くと、私のところに駆け寄り

「これあげる」

と、花束とどんぐりを私に差し出した。

「今度また会えたら必ず贈り物をしたかったんだ。」

「だから花が一本ずつ手折れていたのね?」

「花を摘みながら歩いていたからね、そんなに笑わないでくれよ。」

「違う、嬉しいのよ。」

「そうかい?なら泣かないでくれよ。」

「ううん、これだって嬉しいからよ!ほら!」

片手を彼の前に差し出す。

「迎えに来たのでしょ?」

彼は少し恥ずかしそうに頭を掻いてから

「会いたかったよ。」

と私の手を取った。

「私はもっと会いたかった。」

いつからか恋人として結ばれた時の姿に戻り、並んで歩く二人の間には、花束とどんぐりがしっかりと握られていた。

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