イケメソ死神に花束を

東利音(たまにエタらない ☆彡

000-プロローグ

「はっ! し、死神!!」


 部屋に帰ると死神が居た。

 死神がけだるそうに振り向いた。


「こ、コスプレ?」


 そう、この複雑に入り組んだ現代社会に鋭く鎌を入れる死神なんて存在するわけない。

 わたしは、即座に前言を撤回した。


「し、死神なんているわけないものね。こ、コスプレだろうね」


 誰に請われるでもなくそんな言い訳が口をつく。

 それで事態が好転するわけでもなく。

 可能性としては死神の好感度が多少アップしたかも。

 いや、死神じゃないって。


「やっぱ……、普通気付くよな……、あからさまだもんな」


 死神風コスプレお兄さんは自分の身なりをしげしげと眺めると、この世の全てに興味ないふうに呟いた。


 そう、どこからどうみても死神だ。

 黒いフードの付いたボロ布を羽織り、手には鎌。それだけで純死神コスの全てを網羅しているといってもよい。

 フードから見える顔が、生気の失われた顔色の悪い美少年でなく、髑髏などであれば100点だ。

 いや、青白い美少年だからこその100点かもしれない。


薔薇咲ばらさきひいらぎ


「な、なんでわたしの名を!?」


 聞くまでもないことだ。

 相手は死神。それぐらい調べるのは朝飯前だろう。


「高校2年の16歳」


「な、なんでわたしの年齢を!!」


「血液型はA型……にしてはガサツでおおらか」


「ほっといてよ!!」


 死神は何の根拠もないと言われて久しい血液型別性格判断を信じているらしい。


「お前さあ、いちいち突っ込まないと相手の話きけないの?」


「…………」


 じゃあ、黙ってやろうじゃないの。


「…………」


 お、なぜか死神も黙る。

 死神は無言で手にした台帳……閻魔帳? をパラパラとめくる。

 何故死神がわたしの情報を知っているのか?

 聞くまでもないことだ。

 

 死神がここに、ってゆーかわたしの前に現れたってことはそういうことなんだろう。

 わたしの寿命が尽きかけていて、そのわたしを迎えに来たんだろう。

 迎えに来た……。

 そう、人の寿命なんて既に決まっていて、地獄かどっかで管理されている。

 死神は、固定先の定まった営業サラリーマンよろしく、地獄かどっかで担当地域を決められて、閻魔帳の死期を目安にそれぞれの死人しびと候補の前に姿を現すのだ。

 そうか、わたしは死ぬのか。

 それはそうとして、確認しておかねばならないことがある。


「そ、それって、スリーサイズとか恋愛歴とか書いてないよね?」


「今それ気にする?」


「は、恥ずかしいじゃない」


「別に書いてなくはないだろうが、まだ読んでない」


 死神が閻魔帳をパラパラと……


「させるか!!!!」


 わたしは死神に飛びかかり、閻魔帳をひったくった。

 が、あろうことかわたしの手から閻魔帳が消え去る。


「それ……、人間に触れる代物しろもんじゃねーから」


「!? ってことはあんた……まさかとは思うけど……ひょっとして本物の……死神?」


「何を本物として何を偽物とするかは議論が分かれるところだが、まあ人間の認識からすれば死神だろうな」


「ば、ばっかじゃない! そんないかにも死神です! みたいな恰好して、人を驚かせようったって……」


「ああ、実は俺もこの制服は気に入らないんだ。許可してくれたら衣装チェンジするけど」


「その薄気味悪いコスプレを止めてくれるんならなんだって許可するわよ」


「うむ……」


 死神は頷くと……。


 黒いスーツ姿に変わっていた。古めかしい閻魔帳――いつのまにかわたしの手から彼の元に戻っていた――もビジネスマンがよく手にしている手帳になっている。


「ふう、助かった……。死神が居なくなってくれて」


 九死に一生とはこのことだろう。とにかく急に死神が現れてびっくりしたのだけれど、死神は、目の前から姿を消したのだ。寿命が短いとか死期が近いとかそんな状況はやはり間違いだったのだ。


「それマジで言ってるのか?」


「いや、死神が居なくなったことに変わりはないでしょ?」


「じゃあ、お前の目の間に居るこの俺はなんなの?」


「え、黒いスーツを着た不法しんにゅ……。乙女の貞操の危機!?」


「ロリぃ女に興味はねえよ」


「へえ、黒き侵入者のストライクゾーンっていくつぐらいからなのよ?

 っていうか、あんたそんなスーツ着ててもわたしと同年齢ぐらいにしか見えないんだけど?」


「下は10万歳から、上はまあ見た目次第ってとこだな」


「10万歳ねえ……、ばっかじゃない! そんな人間いるわけないじゃない!

 熟女好きにもほどがあるわよ」


「人間の話をしてねーよ」


「あ、そっか、死神だもんね」


 やっぱり死神だった……。

 あたし……、死んじゃうのかしら?


(続く)




 死にたくはないし、目の前に死神が現れたなんて信じたくもないわたしはそれでも死神が目の前にいる事実に抗うことができずに、都合の良い妄想を繰り広げる。


 実はまだまだ元気でこれから女子大生になって就職もして、ほどほどに恋愛して、最終的には高学歴、高身長、高収入で性格が良くて、一切わたしに逆らわない旦那を見つけて専業主婦として暮らしていくのだ。

 旦那は高収入の割に、ノー残業、ノー休日出勤で有給取り放題の会社に勤めているので、週に三日は晩御飯を作ってくれる。

 掃除や洗濯が苦手……というより面倒なわたしに変わって掃除も洗濯も食器洗いもやってくれるのだ。

 いや、もちろん全自動食器洗い&乾燥機は常備している。これは譲れない。

 だけど、鍋やらフライパンやら全自動食器洗い&乾燥機では対応しきれない洗い物だってでてしまうのだ。

 それを笑顔で洗ってくれる旦那様。もちろん文句も言わず。

 わたしの理想の旦那様。


 えっと……何の話だっけ?

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