もう一度だけ魔法少女やらせてください。
tazma
第1話 復活の呪文は忘れました。
腕も足ももげてしまっていて、体が動かない。
魔法少女になってもレイプされた事実は消せなかったし、人間一人殺すのも一苦労だった。おまけに自称正義の魔法少女とやらに腕も足ももがれて、「改心したら元に戻してあげます」とか言われる始末。
「改心したので、もとにもどしてください」
まじで、ぶっ殺してやる。
「わかってますよ、そういって復活したら私のこと殺すつもりなのでしょう?あなたと私では経験が違います。そうですね、私の魔法はあと数時間で切れてあなたは出血で死にます。それまで有意義に生きればきっと親切な魔法少女が元に戻してくれますよ」
信じた私が馬鹿だった。腐っても魔法少女なんだ。
自己中心的で自分本位で自分が神様で魔法少女で魔法少女で、いいから死ねよ。
正義も糞もない。魔法少女になるような奴は、いや、人間辞めて力を手に入れようなんて奴に碌なやつはいないに決まってる。
「おい、見てるんだろ?これはリタイアってことになるのか?」
「やぁ、僕の花嫁。なんだかかっこ悪い姿になっちゃったね」
私を魔法少女にしたのは、この糞野郎だ。魔法少女はこの糞魔法使いどもの兵隊でわかりやすい話、最高の魔法少女を花嫁にするって話らしい。いい加減、このゲームを終わらせてくれればそれでいい。花嫁ってのがなんだかわからないけど、どうせ心臓抜かれたりするんだろうよ。なんと胸糞悪い話か。
「悪いけど、リタイアさせない。さっきの魔法少女が馬鹿でよかった。君はその辺割り切ってくれてるから助かるよ」
「早く直せ」
「そんな態度でいいの?僕の花嫁になるならもっと花嫁らしくしないと」
「……」
ぐしゃぐしゃの白髪頭はアニメの縦割りみたいで顔の印象がない、けれど、イケメンという刷り込みがされて、非常にむかつく。これも魔法とかの仕業なんだろう、こうなってほしいと思えば何でもこうなってしまう。とか、最近の等価交換って知ってるかい?とか言って代償を要求する魔法とは大違いなもんで
「そんな態度で――」
「さっさと直さないなら、そこに転がってる私の腕を鼻から突っ込んで、総入れ歯にしてから関節全部外す」
「おぉ、こわ。そんなに脅されたら直さないわけにはいかないよ」
「――うぜ」
自分のことをマゾだという、魔法使いはいい加減に私の手足を胴体のそばに持ってくると、パチンと指を鳴らす。
呪文とかそういうのはいらない、なんでも魔法を使っている雰囲気が大事らしい。
治るときは痛くもないし、継ぎ目もない。まるで、
「新しい身体みたい、なーんて、意外とピュアピュアなんじゃね?」
「……殺す」
「早く殺して」
鼻の中に腕を突っ込む、ブチブチという音がして顔面が崩壊する。
奥歯から順番に歯を引き抜く、バキっという音がして顎が顔からとれる。力を入れすぎた。
「ふふ、まだまだだね。お礼はこれくらいでいいよ。僕の花嫁さん、さぁ、花嫁らしくさっきの花嫁、殺しにいきなよ」
「いい加減、死んでくれねぇ?」
首から上が無くなった、と思うと手には何かをした感触はなく、まるで白昼夢でも見たかのように、魔法使いは健全な姿でにっこり笑っている。気持ちよかった、なんて言ってくるもんだからこっちとしては気持ちが悪い。いい加減、死ね。
復讐なんて何も生まない?どうでもいいけど、多少丈夫な体になったとしても、何回か心臓をえぐり取られて潰された経験があったとしても、痛いものは痛いに決まっている。さぁ、始めよう私の魔法の時間を。
「あら?親切な魔法少女が現れてんです?」
「とりあえず、殺すね」
「私にさっき負けたばか――な」
「魔法、全身の腱を切断」
「――ぁあ」
「わたしの魔法はババァ、てめーの魔法と違ってな、誰も殺せねぇ。その代わりそれ以外は何でもできる、あくまで死なないレベルまでなら、な。もちろん回心したら直してやるよ。あははははははははは!!」
私は狂っている。レイプされて、それから人生なんてどうでもよくなった。とにかく周りを狂わせたい、それだけ。私の願いは復讐?報復?もうどうだっていい、全部どうでもよくしてしまえれば、それが私の本懐。
「ひどい、あなたってほんとにひどい」
「魔法、全身の腱を切断」
「――あ」
自分の魔法で腱をつないだらしい、何度も何度も立ち上がっては放り出された人形のように崩れ落ちる、その様は台無しというのにふさわしく無様でみっともない。白いウエディングドレスのような衣装はだんだんすすけてくる。
「嘘つきさん、何ですね、私のことを殺しに来た?でも、殺せないんでしょう?魔法少女は苦手な魔法がいくつかある。そんな弱点を先に言ってしまうなんて――あ」
魔法はイメージが大事、なんでもできるといってもイメージがなければ使えない、口に出すことはとても大事な作法だけれど、そのままを口に出すのはなんだか確かに馬鹿っぽい。
「魔法、感染症」
「え、やだ……これ、なお、せない」
目の前のウエディングドレスが緑色の吐しゃ物で汚れる、赤くなったり青くなったりする顔がほほえましい。ツンと鼻につくにおいがすると、うずくまって顔を伏せる。どうやら失禁したらしい。嘔吐する姿はきれいに取り繕った姿の欠片もない。
「きたねぇな」
「だ、だれのせウボエェアァアアアアア」
「魔法、飢餓」
おのれのゲロを食らう気分はどんなものか。
汚れきったドレスを貪り食う姿にもはや理性はない。
「魔法、全身の腱を切断」
動こうとしながらも、動くことななくなった汚物の塊は悪臭を放ちながら私にとどめを刺されるのを待っているように見えた。
「っ、あ、っあははははは!」
笑いがこみあげてくる。もうどうにも笑いが止まらない。
「お前はこの屈辱を背負いながら生きるしかない、死にたければ勝手に死ね。そしてお前の姿はネットにアップしておいたから、まぁ、頑張れ」
獣の叫び声のような音が響いた。
もう一度だけ魔法少女やらせてください。 tazma @t_a_z_m_a_
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