蹴りとばしたい背中

 自称変人の寝言。

「私、毎日みんなと同じ、こんな日常続けてていいのかなあ。みんなと同じ大学で同じように授業に出て、毎日。だってわたしには具体的な夢はないけど野心はあるわけ。きっと世界を征服するんだ。テレビに出たいわけじゃないけど。」

 遼太にそう言い終わった後私は、これは古臭いなあ、とぼんやりとショックを受けた。遼太はそんな私を世の負け組の代表ととして散々なぐさめてくれた。「バカだねみんなと同じ生活が嫌なんて一体自分をどれだけ特別だと思ってるんだ異世界に転生する努力もせずに授業料のもとをとろうなんてせかせか単位を取りまくって、大体あんたにゃ敷かれたレールがある、だからうだうだと他の平凡な幸せで満足した人間が乗り越えてきた基本的でありきたりな悩みををひきずってんのさ。」

 ぼさぼさと手入れされていない眉をひそめ薄い唇をリップクリームで潤わせた遼太は喋る喋る、2ちゃんねるで自分が浴びせられた痛烈な批判を私に向かってまだまだまくしたてた。


 いいよね。あんたは。だってお坊ちゃんだもん。

 一緒に入学したのに、就活は院にいくから2年後だもんね。

 それにたとえ人生躓いたって、男だし回り道している時間があるよね。


 自分が特別な人間じゃないって事実にみんな大人になっていく過程で折り合いをつけていく。

なのに、「あなたは、ほかの人間とどう違って特別なのですか。」と就活で問い直されるのである。

 自分なんて特別じゃないってやっとあきらめたのに、特別なところを探せってそれはあんまりにも残酷だ。

 そんなわけで、エントリーシートを書くのは結構大変だ。自分なんて特別じゃないってしっているのに。みんな違ってみんないいなんてゆとり世代のたわごとだってしっているのに。あらためて、問い直される。

「あなたは特別な人間ですか?」

 歯車に特別なんてもとめていないのに、特別であると世間にも自分にも嘘をついて、いってんのくもりもない瞳で面接官を見つめて嘘をのべる。

 ある人曰く、就活とは嘘つき大会らしい。

 そいつは日立の子会社に内定した。

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