春は短し歩けよ就活生

 これは私のお話ではなく、一人の就活生のお話である。

 役者に満ちたこの世界において、誰もが主役を張ろうと小狡く立ち回るが、まったく意図せざるうちに一人の就活生はその夜の主役であった。そのことに当の本人は気づかなかった。今もまだ気づいていまい。

 内定ラッシュも盛りをづぎた5月の終わりのことである。

 大学のサークルのOGである、西川先輩が結婚することになって、内輪のお祝いが開かれるという。私はその就活生とほとんど話したことがなかったけれども、サークルの創設者である方であるために、会長を務めた私も顔を出すことになった。他にも、サークルから幾人か参加し、そのなかに件の就活生の姿もあった。西川先輩は彼の研究室のOGでもあったからである。


 とまあ、そんな感じで恋をしていろいろ不思議で魅力的な方々に出合って人生の酸いも甘いも知り尽くして、立派な大人のレディになりたいものです。そして、その暁には、出会ったご縁を活かしてよい会社で素晴らしい仕事にありつきたいものです。


 みなさん、就活中の恋愛はどうしていますか?

ゼミの先輩曰く、就活前から彼氏がいるなら捨てずにとっておきなさいとのことでした。就活って孤独だし、何か保険をもっておくとよいとのこと。


 彼氏がいたら別れない。これ、テストに出ます。


 つらいエントリーシートも、ウェブテストも最初のうちはみんなで集まって知恵を絞っていたのに、選考が進むにつれ大学に来る日もまちまちでなかなか会えない日々が続きます。

 「忙しいだろうから悪いな。」とか「もしかしたら、もう内定を持っているかもしれない。」そんな気遣いや疑心暗鬼が無用なのが彼氏です。

 いつでも甘えて、時には理不尽にぶつけられた怒りの緩衝材になってもらう。

 彼氏がいるってすばらしいとのこと。

 

 「彼氏がいない場合はどうなるんですか?」

 おずおずと私が聞くと、先輩はすました顔で教えてくれました。

 就活の出会いは一期一会。

 都会にいたら、このキャンパスで出会うより素敵な殿方はたくさんいます。

 面接に行くときは、その殿方との面接会場での出会いおよび未来での素敵な会社での出会いを想定した、化粧と笑顔、清潔感と適度なおっぱいのある恰好で向かうべしとおっしゃいました。


 これくらいプラス思考でないと内定ってとれないのかもしれません。

 


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