NNT~就活協奏曲~
@kamiyamayui
優雅に開演~最終面接からはじめよう~
「カルネでございます。」
パリッとした身なりのウエイターが、恭しく料理の皿を給仕していく。
平日の昼のホテルのレストランは初夏の蒸し暑さとは別世界であった。
しっかりと教育が行われているのか、ウエイターは控えめで美しい動作で料理運ぶ。
海のように濃い青の足つきのグラスは、どの席でも水はきちんと満たされていた。
なにもかもが平和で調和がとれていた。
今日が最終面接であるということを除いては。
テーブルを見渡すと、緊張した表情の黒いスーツが何人もいる。
どうやって食べたらいいんだ?
素直にそんなことをつぶやく者までいた。
ルビーのようなトマトが輝くサラダに、あたたかくて穀物の甘味がしっかり感じられるパン、ハーブの香りが華やかな肉のソテー……これらを前にしているにも関わらずテーブルの向こうには緊張したり、焦ったりしているスーツたちが並んでいる。
ふん、馬鹿め。
私はにっこりと微笑んで余裕の表情でにフォークとナイフを手に取り食事を始めた。この程度のレストランであれば臆することはない。ランチであるし、ウエイターもきちんとしているから普通にしていれば客が恥をかくなんてことはない。
ただ、堂々とそして美味しそうに食べること、それが今の私たちにできる最善の振る舞いである。
こんなにしてもらって……なんて感動感謝する必要もないし。
ここぞとばかりに料理を腹に詰め込むのは下品だ。
どちらも愚かもののすることである。
美味しそうに、そして堂々と美しく食事をする。
面接で食事をさせるということは、つまりその人間のバックグラウンドを知ることになる。いくら口で上手いことを言っても、ナイフの使い方ができなかったり、緊張で食事が喉を通らないなどとなれば即減点である。
私の親戚には就職氷河期に、食事で内定を勝ち取った人もいるので本当の話だ。
ナイフとフォークを巧みに使い、運ばれてきた料理を適正な速度で丁寧に処理していく。
就活生同士で打ち解け、和気あいあいと会話をするのも忘れない。
午前の部の試験官は同じテーブルにも周囲のテーブルにもいる様子はなかったが、気を抜かず完璧な学生を食事中も私は演じ続けたのであった。
そう、あと少しで手に届く。
みんなが憧れる地元の親方日の丸のあの会社の最終面接が今なのだ。
もちろん、私はこの最終面接で落ちた。
だからこそこの物語は続くのである。
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