それは巨大ロボット。
いも男爵
第1話 起動。
はじめに、それは完成していた。
外装、内装など全てが完全だった。
いつ誰が何の目的で建造したのかはわからないが、完璧な状態に仕上がっているということは、神あるいは世界がそれの存在を許し受け入れたのだろう。
だが、それだけだった。それは直立した状態で放置されていたからだ。むろん、名前もない。
それが居るのは、建造が行われたと思われる工場の中で、周囲には大き目の作業用アームにクレーンなど、巨大なものを製造するのに必要な設備は全て揃っていた。
そのような巨大な施設であったが、照明一つ付いておらず、人間どころか虫一匹居ない構内は、暗闇と静寂に包まれ、周囲にはびこる錆と降り積もった埃が、この場所が無人となってからの時の重さを感じさせた。
それも周囲にあるものと同じく表面に埃を積もらせていて、古臭く見えるその姿は巨大なことと相まって、古代の彫像のようであり、このまま何も起き無ければ永久にそうしていただろうが、その状態は突然終わりを迎えることになった。
きっかけは、それの頭上にある一本の作業用アームが落下したことだった。長い間放置されていたことで錆の浸食の進んだ付け根が、ついに本体の重さに耐えきれなくなって千切れたのである。
落下地点は、それの分厚い胸部で、当たった瞬間半分に割れ、足元に落ちてバラバラに砕け散ったことで、作業用アームからただのスクラップに成り果て、工場内に久々の大音響を奏でたが、反応するものがいないだけに、すぐに静寂に飲まれていった。
一方、落下物を直撃を受けたそれの表面には傷や擦れ一つ無く、埃が少しばかり落ちた程度であったが、装甲を通じて内部に伝わった振動は、幾つもの部品を通過する内に弱まっていきながらも、心臓部ともいえる中枢機関に到達し、人が指で軽く突いた程度の小さな刺激を与えた。
中枢機関はリンゴのような形をしていて、表面には周囲の部品と繋っているケーブルが何本もあり、その内の一本の根元で、さきほど受けた刺激によって微かな電流が走った。
小さな電流が収まると、同じ個所からより大きな電流が起こり、その後は呼応するかのように、ケーブルの接続部分で連続発生して、中枢機関を電気の糸で覆っていった。
一連の電流が鎮まると、中枢機関は赤色の淡い光を灯し、明滅を繰り返しながら光量を強め、燃え盛るような真っ赤な光を放つまでに達すると、心臓のように収縮運動を繰り返しながらケーブルを通して自身が作り出す莫大なエネルギーを供給していった。
エネルギー供給が開始されると、細胞が活性化したかのように、それの内部を構成している全部品が一斉に機能し、十数秒でフル稼働状態へ立ち上げていった。
稼働までの全行程が終了すると、それは全身を軽く震わせら後、各箇所に設けられている排気口から、猛烈な排気を行い、表面にまとわり付いていた埃を一気に吹き飛ばし、鋼鉄で造られた頑強な表皮を露わにした。
一切埃の付いていないそれの見た目は古代の彫像という印象が完全に払拭され、超絶技巧で造り上げられた鋼の巨人であった。
排気が終わると完全に覚醒したことを示すように、顔に施されている鋭い形をした両目は黄色の輝きを宿し、その強烈な眼光で周囲を射抜くように光を放ち、永らくこの空間を支配していた静寂、埃、暗闇の三要素をその座から引きずり降ろしたのだった。
それは一旦顔を上げると、すぐに元に戻した後、各関節から機械ならではの駆動音を上げながら低い体勢を取り、勢いよく姿勢を伸ばしながらつま先で床を蹴ると、鋼の巨体は床を離れ、進路上にある作業用アームを弾き飛ばしながら、重力に逆らうように上昇し、天井部に頭をぶつけるも、なんなくぶち破った。
破壊した時に生じた衝撃は凄まじく、まるで大地がとてつもない異物を吐き出すような爆音と風圧を伴いながら、それは何もない閉ざされた世界から、生命や文明溢れる開かれた世界へ飛び出したのだった。
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