アクラという理解者

「お尻が綺麗って……花奏!? もしかしてどこかで見たの!?」

「いや、お前の体育の際に揺れるお尻がなんともな……」

「変態!?」

「おっぱい好きでおっぱい連呼するよりはマシじゃないか?」

「おお!」


 何故かセレナは納得したようだ。そしてそれを眺め、カナとアオイは大きなため息を吐いた。そして――


「花奏に愛してもらえるのなら、私はここに残る。でも、私を愛してくれないんでしょ?」

「…………ごめん」

「良いよ」


 葵は少し悲しそうな顔になって俺に向かって歩き出し――そのまま俺の方を軽く、叩いた。そしてそのまま、俺の方振り返らずに


「奥さんと娘さん、大事にしなさいよ」

「葵……っ!?」

「それじゃ。俊と正樹には上手く言っとくから」


葵は言い切り、入ってきたのと同じ、扉を開けた。そしてそのまま扉を閉めて……背中を預け、座る。


「……っ」


 ダメだ、泣かないって決めたんだ。花奏が幸せになれるならそれで良いって決めたんだ。


*****


「なぁ、正樹」

「どうした?」

「花奏と葵が手を取り合い、逃避行したってのはありか?」

「無しだろ」


 二人揃ってため息を吐く。親友二人がいきなり姿を消した、それはかなりの衝撃を受けた。だが


「葵が花奏を連れてどこかの連れ込み宿でハッスルしているとか?」

「あー、それならありかも」

「無しだろ。テレーゼが探索魔法を使ったんだぜ?」

「それで痕跡を探れたりしないのか?」

「あー、今やっているらしいぜ」


 アクラの言葉に俊は頷いて――少し、顔を顰めた。


「正直に言えば俺たちがあいつらの邪魔をするのってどうなんだ?」

「ん?」

「どういう意味だ?」

「もしもあいつらが仲良くしているところに俺たちが邪魔を入れれば……ただの、嫌がらせになるんじゃないのか?」

「言われてみりゃそうかもね」


 正樹は頷いて――背後を振り返った。何故か足音が聞こえたからだ。走るような音だった。そして、そこに立っていたのは


「葵!?」

「葵……?」

「アオイ嬢、どこ行ってたんだよ」

「ごめん、ちょっと出かけてきたの」

「出かけてきたって……カナデの奴は?」

「カナデは……今、奥さんと娘さんと一緒にいる……だからもう、会えないし、会う気は無いって」


 葵はそう言い切った。そしてそれにもっとも反応したのは――アクラでも、俊でも、正樹でもなかった。


「それは本当なのですか!?」

「ヘカーティア?」

「本当に……奥さんと一緒にいるんですか!?」

「ええ、そうよ」

「……やはりカナデは、魔王を妻にしていたんですね」

「っ、何故それを!?」


 ヘカーティアの呟きに葵は想わず叫んでしまった。しかしその呟きは他の誰にも聞こえていなかったのか、私の反応を訝しんでいた。


「ま、なんにせよカナデが幸せならそれで良いだろ。シュンとマサキはそう思わないのか?」

「思うけどよ……」

「なんで俺らに一切相談しなかったんだよ……」


 二人は顔を俯かせていた。そして同時に顔を上げ、葵を見つめた。何かを知っている葵に。


「葵、あいつは今、どこにいるんだ?」

「奥さんと一緒に、奥さんの城にいるよ」

「奥さんの……城だと?」

「この辺りに城なんてあったっけ?」


 アクラは虚空を見つめ――はっとした。


「はん、そういうことかよ……」

「アクラ、何が分かったんだ?」

「どうしてこの世界が一度救われたのか、ようやく分かったのさ」

「どうしてって……どういうことだ?」

「悪ぃ、それはあたしからは言えねぇわ」


 分かっているのはあの頃の二人と、葵だけだった。だから二人は葵に問いかけようとした。そして、目元が赤いのに気づいた。泣いた跡、そう気付いた俊は何も言わなかった。だが気付かなかった正樹は


「葵! 何か知っているなら教えてくれ!」

「……ごめん、教えられない」

「どうしてだ!? どうして教えられない……教えない、じゃなくて教えられない、なのか?」

「そうよ」

「……それは、誰かからの命令なのか?」

「ううん、命令じゃない。単純なお願い、私が飲めるお願い」


 その言葉に二人は誰からのお願いだったのか、分かってしまった。そして――


「ティア、何かに気付いてんだろ?」

「ええ」

「後で話せ。あたしも知りたくなってきた」

「別にこの場で話しても構いませんよ?」

「はっ」


 アクラは両肩を竦めて


「冗談。シュンたちに聞かせるには少し面倒な話になるだろうしな」

「ですね」

「花奏に関わることなら面倒でも構わない」

「俺もだ」

「「……」」


 ヘカーティアと葵は躊躇った。だが、アクラは豪快に笑って


「良いぜ、あたしの予想で良いんなら話してやれるよ」

「それでも構わない、お願いします」

「頼みます」

「男がそう軽々と頭を下げてんじゃねぇよ……ヘカーティア、テレーゼを呼んでこい。レンたちは……お前の判断に任せる」

「……いえ、彼女たちも聞いた方が良いでしょう。自分の父親の行方は知っていた方が良いと思います」

「そうかよ……んで、どうする? あいつ抜きで魔王セレナを殺すのは荷が重いんじゃないか?」

「そうですね……少し、考えましょうか」

「え!?」


 葵は思わず声に出して驚いてしまった。察しているヘカーティアがそういうのを信じられなかったのだ。だが


「アオイ、言いたいことがあるのなら、全員が揃ってからにしなさい」


 ヘカーティアに言われ、口をきっと結んだ。


*****


「セレナ、そろそろ聞きたいんだが」

「んー? 良いけど何を聞くつもりなの?」

「忘れているのか? あの時、俺たちに襲いかかってきた存在だ」

「……あぁ、アレね。でも、私は少し困っていたの……本当に、それを言っても良いのか分からないの」


 セレナは少し、いや、かなり困った表情だった。だが


「頼む、セレナ。話してくれ」

「……カナデが言うなら。でも、後悔しないでね?」

「ああ」

「あの時、私たちに襲いかかってきたのは――


私たちの知らない何か


だよ」

「俺たちの知らない何か、だと?」

「うん」

「……あの時、いきなり俺たち二人に襲いかかってきたアレは俺たちよりも圧倒的な力を持っていた。それに叶わず……俺はお前を封印し、お前は俺を日本に逃がした……ここは、間違っていないよな?」

「うん」


 セレナは深刻そうに頷いて――にへら、と笑った。そして目を閉じて


「カナデ、護ってくれるんでしょ?」

「ああ、お前も護ってくれるんだろ?」

「うん、そのつもりだよ」


 セレナはそう言い、テーブルから身を乗り出して俺の唇を、龍人の特徴でもある長い舌で舐めた。そしてそのまま俺を押し倒して


「愛しているわ、カナデ」

「愛している、セレナ」


*****


「魔王カナ様、ご報告があります」

「何かしら?」

「どうやら元魔王様と陛下が少々、こっちに来るな、と仰られました」

「……あぁ、分かりました。セックスしているんですね」

「はっ」


 それにため息を吐く。お母さんの年齢は340歳、封印されていた時間を除くと330歳だ。それに対してお父様は17歳、300以上の歳の差がある。そしてそれよりも気になるのが


「何故魔王であったお母さんと勇者であるお父様が出会えたんですの?」

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