二度目の勇者はクラスメートと共に

孤面の男

始まりは再びーー

「魔王セレナ、お前を封印させてもらう」

「ふ、ふふ……私に勝ったお前にはその権利がある……さぁ、一思いにやれ!」


 俺はそれに頷いてーーその胸に剣を突き立てて


「我、勇者がその名の下に命じる……我が剣が貫きし者を封じよ!」

「そうだ、それで良い……さぁ、お前の望みを果たそう」


 俺の剣を通じて、俺の体に浮かび上がった魔方陣が輝いた。そしてセレナは俺の唇の自分の唇を重ねてーーそうしてセレナのおかげで俺はーー日本に帰り着くことが出来たんだ。


*****


 懐かしい夢を見た。俺はそう思いながら体を起こし、ベッドから降りた。

 俺の家は三人暮らしだ。姉と母の女手二人によって、俺は女に頭が上がらない。まぁ、良いのだが。


「花奏、さっさと食べちゃってよ」

「はいはい」

「返事は一回」


 姉の言葉に適当に頷きながらご飯を食べ、そのまま自室に戻る。そして制服に着替えて


「行ってくる」

「行ってらっしゃい」


 母親は俺たちより早く出社する。だから家を出るのは俺が次で、姉が最後だ。

 とりあえずいつもの通学路を歩いて学校に向かう。なんとも言えない微妙な距離にある学校の門を潜り、下駄箱で履き替え、廊下を歩き、階段を上る。そしてそのまま教室の扉を開ける。

 そこにはいつも通り。朝早くから登校している3人がいた。


「うーっす」

「おはよー、花奏カナデ。あのゲーム買った?」

「はっはっは、俺の財布事情はコーヒー一缶でも躊躇うレベルだぜ?」

「……マジか」


 真顔で戦慄する俺の友人にしてクラス一のオタク、俊。実は花奏の方が重度のそれなのだがそれを本人は知らない。そのやり取りを聞いて笑った正樹。そして無言で席に着いてラノベを読んでいる葵。

 そんないつもの状態に花奏は苦笑しながら自分の席に座った。そして鞄を机に置き、教科書を机の中に入れようとした、その時だった。


 教室の中に、巨大な魔方陣が出現したのは。


 それは回転しながら光を増してーー


「っ!?」

「ここは……」

「え!?」

「……ちっ」


 俺たちは広間に立っていた。床に大きな魔方陣が描かれた、大きな部屋とも言えるだろう。ステンドグラスから差し込んでいる光が今は昼だ、と教えてくれる。そしてーー扉が開いた。そこに立っていたのは銀髪の少女だった。それとローブを纏った少女。


「……召喚に成功しました。四人、きちんと揃っています」

「ご苦労様です、アンリ。さて勇者様方、王が説明しますので着いて来ていただけますか?」

「……はい、分かりました」


 代表格の葵が返事をしたことで相手は安心したように息を吐いて


「着いて来てください。こちらです」

「お、おい、葵?」

「状況が分からないのだから……まぁ、私たちは分かるけどね。とりあえず状況を説明してくれる存在に会わないと」

「神じゃなさそうだけどな」

「そうね……花奏くん? どうしたの?」

「……あ、ああ。ちょっと混乱していた」

「そっか。まぁ、無理もないよね……望んでいた私だって混乱しているし」

「望んでいたのか?」

「うん。勇者、英雄、そういった者に憧れない?」


 俺はため息を吐いて


「憧れないよ。彼らは孤独だから」

「孤独? どうして?」

「……強けりゃ魔王と戦う義務がある……なんてことで一人で、戦いに赴く。そんなのは懲り懲りだ」

「……詳しいのね」

「そりゃ……色々読んだからな」


 葵はその答えにふっと微笑みながら先導されつつ歩く。そして王の間に向かう途中、大広間に出てーー


「……花奏くん、この世界に召喚された理由って思い浮かぶかしら?」

「さぁ?」


 魔王はもういない、そう言いそうになったが堪えて


「この世界が何かしらの危険に晒されているんじゃないのか?」

「うん、私も同意見……何かあったら護ってね」

「その前に死んでいなかったらね」

「もう」


 葵は馬鹿なことを言わないの、みたいな目を向けてくる。だけど馬鹿なことじゃない。死ぬ時は普通に死ぬ。それが人間だ。それが……生きると言うことだ。


「俊、正樹、葵。先に行っておくが俺は臆病だからな」

「はぁ……」

「異世界に来たならテンション上げろよ……」

「まったくよ。まぁ、何かあっても花奏は私が護るからね」


 葵の言葉に俊と正樹が苦笑している。葵は花奏が好きだと知っているからだ。そして花奏が葵を好きだった、と知っているからだ。


「……勇者様方、王がお待ちです」

「あ、分かりました。行きます」


 葵が受け答えをし、扉が開いた。そしてーー王の間に入った。王の間は広く、そして奥には階段があり、その上に玉座がある。あぁ、変わっていない。


「……あの絵は?」

「あの絵は先代の勇者様方の絵でございます。魔王と戦い、封印と同時に生死不明となったそうです」

「何年前の勇者なんですか?」

「10年前です。それ以降は平和だったのですが……」


 先導している少女と葵の会話に顔を顰めてしまう。何が先代勇者様方だ。ただの被害者四人だ。そう思いながらそのまま四人が映っている絵を眺めていると


「あの絵の男……ハーレムじゃね?」

「くっそ、勇者羨ましいな」

「馬鹿なこと言わないの……でもあの絵、花奏に似ているね」

「……あぁ、だろうな。とっとと行くぞ」

「え? でも」

「良いから。偉い人を待たせたらダメだろう」

「あ、それもそっか」


 葵は頷いて再び歩き出した。そして玉座を見上げる形で階段の下で足を止めた。


「そなたらが召喚された勇者様方か」

「はい、私たち4名です」

「名を名乗れ」

「……俊」

「正樹」

「葵」

「………………」

「む? どうしてその者は名乗らないのだ?」

「……名乗りたくない」

「む?」


 王は首を捻り、俺の顔を見つめた。凝視した。見透かすかのように凝視して……目を見開いた。


「お前は……まさか!?」

「……名乗る必要があるか?」

「……まさかまたお前が来るとは……死んだと思っていたぞ」

「それに関してはノーコメントだ。それよりも何が起きている。あいつは封印したはずだ」


 俺の言葉に葵たち3人の目が集まる。それを無視して


「まさかとは思うが封印が解かれたのか?」

「……そのまさかだ」

「誰がそんな余計なことを……」


 俺がため息を吐いた瞬間、玉座の傍らに立っていた女性が杖を掲げた。そして


「『アイスランス』」

「『ファイアウォール』……いきなりご挨拶だな、王女殿下」

「ふん。何も言わず行方を眩ましたかと思えば平然とまた召喚される……この程度で済むと思わないで」

「……そうだな。お前たちには悪いことをしたな」


 俺は嘆息して


「無事で何よりだ」

「……あなたこそ」

「ちょっと花奏! 一体何の話をしているの!?」

「ん?」

「随分と親しげに話しているじゃない……っ!」


 あ、と思った。葵たち三人には何も説明していないからだ。花奏が少し悩んでいると


「王女殿下、あの方はお知り合いなのですか?」

「アンリ……あなたは一度、歴史を勉強する必要がありますね」


 王女はため息を吐いてアンリの額を指で弾いた。そして


「あの男こそ、かつての戦乱時代で魔王セレナを封印した勇者カナデなのですよ」

「アレがあの勇者カナデですか!?」


 その驚きの表情を見るに、過剰評価されているような気がした。

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