第48話 捕らわれ

 その後、シャナのシステムにデュアルドライブを入れてみたが、何故かうまくいかなかった。

 どうやら俺へのパスを開いていないと動作しないようだ。

 このデュアルドライブは俺のシステム専用という事らしい。

 それぞれの紋章ごとにデュアルドライブシステムをカスタマイズし直さないとダメなのだろうが、そんな面倒な事してる時間は無いし、俺のOS上で動作しているデュアルドライブを、パスを通じて仮想的に動作させる方が簡単だ。

 結局デュアルドライブの問題は時間が無いので、ブラック、ブルー共に現状維持。


 ホワイトさんとウルフフェイスはOSを弄られたくないという事でそのまま保留。

 ピンクのOSに関しては、エクステンションが有る訳でも無いので、多少最適化してやる程度しか出来なかった。


 あと数分でヒーロー協会に着く。

「それにしても、これだけナノレンジャーが集まるなんて、前代未聞だよね」

 ウルフフェイスが呟いた一言で俺の頭に疑問が浮かんだ。

「そう言えば、ナノレンジャーって何人いるんだ?俺が知ってるのはレッド、ピンク、ブラック、ブルー、ホワイト、そして俺イエローの6人だけど、他にもいるの?」

「あんた、自分の所属する戦隊の事も分かってないの?」

 ピンクが呆れたように、俺を横目で見る。

「残念ながら、俺は所属して無いからな」

「やっぱりあんた悪の組織に付くつもり?」

 ピンクの眼が鋭く細められる。

「俺はどちらにも付かないよ。いや、正確にはどこにも付かないかな?」

「何言ってるの?意味分かんない」

 どうやらピンクは『シード』の存在を知らないらしい。

 知っていれば、俺の言った意味を理解出来る筈だからな。

「ナノレンジャーは、後はグリーンがいるだけだよ。現在行方不明だけどね」

 俺達の雰囲気を和らげようと、ウルフフェイスが会話に割って入る。

 って、グリーンは行方不明?

「俺みたいに、誰に紋章が受け継がれたか分からないって事ですか?」

「いや、紋章を持ってる人間自体が行方不明。瑠宇るうちゃんと違って、生存も不明なんだ。誰かが紋章を受け継いでる可能性はあるけど、確認されてないからね」

 ふ~ん。

 まぁ、敵にならなければどうでもいいけど。

「先々代の頃にはゴールドとシルバーなんてのも居たらしいけど、僕らの世代では見た事無かったな」

 総勢9人もいるのかよ。

 ナノレンジャーは、数の暴力で戦う戦隊だったのか。

 近年の正義の味方、卑怯過ぎ。




―――――




 ヒーロー協会の地下最深部。

 訓練用の闘技場として建てられている四方を白い壁に囲まれたそこには、ヒーロー協会の職員と、『トゥルー』に賛同しなかったヒーロー達が監禁されていた。

 全員後ろ手に縛られて、自由に歩けない程度に両脚も縛られている。

 縛り上げる為のロープにはかなり丈夫な物が用いられており、如何に変身しているヒーローであろうとも抜け出す事は出来ない。

 しかし、さすがヒーロー協会に所属するだけあって、消沈する者は誰も居なかった。

 助けが来ると確信しているからというのもあるだろうが、殆どがA~S級程度のヒーローで構成されている『トゥルー』など、ヒーロー協会の主戦力であるSS級以上のヒーロー達の敵では無いのだから。

 だが、その捕まっている中に憂いを拭いきれない者も居た。

「SS級以上が救出に来るとは思うが、奴らもそれは承知の上で今回の騒動を起こしたんだろう。どう見る、かおり?」

「クソ虎に同意するのは癪だけど、確かにそうでしょうね」

「やっぱアレを使えるようになったって事か」

「じゃなきゃ、SSS級だっているヒーロー協会で、こんな事しないでしょ」

「だとすれば、ウルフフェイスでも万が一って事があるな」

 神妙な顔で会話する虎顔の男と黒髪の美女。

 助けが来ても、返り討ちにされる事を懸念している2人は、自力での脱出も含めて思案していた。

 その時、白壁の闘技場に1つしかない入口の扉が開いた。

 そこに現れたのは紫色の装束を纏った忍者と、漆黒の髪の美少女。

 その美少女は、そこに捕らわれている人達同様に後ろ手に縛られていた。

 美少女は闘技場に引き摺られるように入る。

 初めは何故自身と同じ様に捕らわれている人が大勢いるのか困惑していたが、自分と同じような黒髪の美女を見つけると驚きに眼を見開く。

「え?お母さん!?」

「碧!?」

 互いに驚く2人を見ながらも、タイガーフェイスは見知らぬ装束の人物に注意を払う。

「見かけない奴だな。貴様もヒーローか?」

 タイガーフェイスの問いに答える事無く、忍者は無言のまま視線を彷徨わせるだけだった。

 そして、教える事は何も無いと言わんばかりに、睨む虎の眼を無視して踵を返し、そのまま闘技場を出て行ってしまった。

 『トゥルー』が占拠しているヒーロー協会に自由に出入りしているという事は、ヒーローには違い無いのだろうが、タイガーフェイスはその忍者に見覚えが無かった。

 新人というには、余りにも身のこなしに隙がなさ過ぎる。

 言い知れぬ不安に襲われるタイガーフェイスを余所に、黒髪の親子はまるで危機感など無いように呑気に会話を始めた。

「ねぇ、お母さん。ここ何処なの?なんかヒーローみたいのもいっぱい居るけど」

「ここはヒーロー協会よ。で、何であなたは捕まって来てる訳?」

「さぁ?さっきの忍者が何故か私を捕まえたの。お母さんの方こそ、何で捕まってるの?」

「さぁ?どっかのバカがヒーロー協会内で反旗を翻したからじゃない?」

「ふ~ん。それで、お母さんってヒーロー協会の人だったの?」

「そうよ。しかも司令官よ。凄いでしょ」

「へぇ。それってお父さんも知ってるの?」

「まぁね。琥珀も知ってるし。知らなかったの、あなただけよ」

「えー、非道い!何で教えてくれなかったのぉ?」

「だってあなた悪の組織の入団試験とか勝手に受けちゃうし。言うタイミング逃しちゃったから」

「でもさ、一言あっても良くない?」

「おい、ちょっと待て!!」

 この状況で呑気に会話をし続ける親子に、タイガーフェイスが待ったを掛けた。

「薫、お前の娘って、悪の組織の人間なのか?」

「そうよ」

「そうよ、じゃね~よ!ヒーロー協会の司令官の娘が悪の組織ってダメだろ!」

「そう?だって、旦那も悪の組織だし」

「はぁ!?」

「あんたが戦いたがってたコランダムが私の旦那よ」

「はぁああああああああ!?」

「ちょっと、声デカいわよ!」

 タイガーフェイスが突然大声を上げてしまったために、捕まっているヒーローや協会の職員達が一斉に此方を振り向いてしまった。

「す、すまない。何でも無いんだ」

 タイガーフェイスが謝罪すると、皆何事も無かったように元に直る。

 タイガーフェイス達3人は少し離れた所にいたために、悪の組織に関する会話を他の人に聞かれてはいなかった。

 衝撃の真実を知ってしまったのは、現在顎があんぐりと開いてしまっているタイガーフェイスだけなのだ。

「別にいいでしょ?ヒーロー協会は占拠されちゃったから、私、もう司令官じゃ無いし」

「そんな問題かよ」

「一先ず、碧が此処に来たって事はもう大丈夫ね」

「え?私が此処に来るとどうなるの?多分お母さんが動けないようにする為の人質でしょ、私?」

「あいつらの目的はそうでしょうけど、あなたがヒーロー協会に捕らわれたんだから、お父さんがほっとく筈無いでしょ。あなたの紋章にはGPSが仕掛けられてるもの」

「私のプライバシー!」

「大丈夫よ。ちゃんと盗聴もされてる筈だから」

「だから、私のプライバシーは!?大丈夫の意味分かんないんだけど!」

 またもや呑気な会話を始める母娘に、溜息をつかざるを得ないタイガーフェイスが口を挟んだ。

「いかにコランダムと言えど、一人でヒーロー協会に乗り込むなんて不可能だろ」

「そうかしら?まぁ、碧の為に無条件で動いてくれる人なら、もう2人いるから」

「え?1人は琥珀だとしても、もう1人って誰?」

「黄色い人」

 母の言葉を聞いた美少女は、瞬時に耳まで真っ赤になってしまう。

「な、なんで!?黄色ってまさか……」

「あらあら。何、赤くなってるのかしら?ひょっとして」

「ち、違うからっ!何でも無いからっ!」

 顔を見られたくないと、真っ赤な顔を逸らした美少女は、先程自分が連れて来られた白壁の入口が再び開くのを見た。

 先程の忍者が、一人の女性ヒーローらしき人物を室内に乱暴に投げ入れた。

 長い髪を後ろでポニーテールに結んだその女性は、明らかに成人であると見受けられるにも拘わらず、大きなリボンが特徴的なセーラー服を着ていた。

 コスプレ感満載の服装に、眼の周りだけ仮面で隠しているのが妙に艶めかしい。

 一瞬先まで真っ赤だった美少女の顔は、蒼白と言える程真っ白になっていた。

「お母さん、アレもヒーロー?」

「……ええ。あの娘には触れないであげて」

 ポニーテールのセーラー戦士に、周囲から生温かい眼が向けられていた。

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