第43話 デュアルドライブ
黒木君は、俺が近づいた事に驚いたようで、突然後方へ飛んで逃げた。
「え?え?まお……イエロー、急に何言ってるの?今、戦闘中だよ?」
狼狽える黒木君に、俺はティラノの攻撃を避けながら近づく。
「俺が限界突破の力を使えばあのティラノサウルスは倒せると思うけど、またぶっ倒れない為にも、黒木君もパワーアップして力を貸して欲しいんだ」
俺の提案に少し考える様子を見せるが、黒木君は頷いてくれた。
俺は直ぐに振り返り、恐竜の攻撃を牛若丸の如くひらりひらりと躱しているシャナに呼びかける。
「ブルー、悪いけど1分だけ1人で耐えてくれ」
「分かった」
シャナが特に問題無いと言った風に返事をしたので、俺は黒木君の腕を引き、建物の影に隠れる。
そこで黒木君は悪の組織の変身を解いた。
「それで、何をするの?」
正義の紋章OSを起動した黒木君は、ウィンドウを俺の方に飛ばしながら首を傾げる。
「デュアルドライブってのをインストールする」
俺がキーボードを空中に開くと、黒木君は少し困ったような顔をした。
「真黄君、僕のブラックのOSには既にそれが入っているんだ」
「え!?どういう事?」
「僕のブラックの紋章は母さんから貰った事は話したと思うけど、母さんはもう一つ正義の紋章――ホワイトの紋章を持ってたんだ。2つの紋章の相乗効果を引き出す『デュアルドライブ』は正義の紋章同士なら機能していたらしい。けど、ホワイトの紋章は別の人に譲ったらしくて、僕はブラックの紋章しか貰えなかった。母さんは、ブラックの紋章と悪の紋章でも『デュアルドライブ』が動くと思ってたみたいだけど、何かが引っ掛かって動作はしなかったんだよ」
そうか、俺の思いつき――正義の紋章と悪の紋章によるデュアルドライブは既に試されてたんだな。
それにしても、ホワイトか。
悪の六将の一人もホワイトらしいけど、まさか正義の紋章を持って悪の組織になんて……有り得なくはないか?
それは今考えてもしょうが無い事だな。
取りあえず時間は無いけど、一応ブラックのOS内にあるデュアルドライブをチェックしておこう。
「黒木君、悪のOSもちょっと見せて貰っていい?」
「う、うん」
ダメだと説明したのに諦めない俺に、少し不審な眼を向ける黒木君。
俺はそれを気にもせず、黒木君の2つのOSを見比べた。
システム的には問題無さそうなのに、確かに何かが引っ掛かってる。
それで俺は自分のOSに入っているデュアルドライブの動作もチェックしてみる。
「これってひょっとして……」
俺は黒木君のOSを弄って、俺のOSへのパスを開かせた。
そして、少しだけOSの内部も書き換える。
時間が無いので簡易的なものだけだが。
「よし、多分大丈夫」
「え?」
「黒木君はブラックに変身して。戦闘に戻るよ」
「あ、うん」
何が起きてるのか良く分からないと言った顔をする黒木君は、渋々ブラックに変身して俺の後に続く。
シャナのディフェンスは素晴らしく、あの巨体のティラノサウルスに掠らせもしない。
それでも決定打に欠ける為、ジリジリと消耗していく。
「ブルー、俺のOSへのパスを開け。一気に決めるぞ」
「うん、分かった」
シャナはティラノサウルスから距離を取り、端末を空中に開いて素早く叩く。
直ぐに俺のOSに信号が送られてくるので、俺はパスを繋ぐ処理をする。
よし、準備完了。
――精神感応フィールリンク、オン!
2回目ともなると慣れたもので、僅かに頭痛を感じたものの、直ぐに順応して行動に移れる。
続けて俺は虎ンザムに命令する。
「虎ンザム、デュアルドライブ全員解放!」
『イエッサー!!』
虎ンザムの返事と共に尻尾が更に2本追加されて5本になる。
尻尾5本から輝く粒子が放出され、同時にシャナの翼からも青く輝く粒子が放出される。
先程までより大量の光を纏った俺達。
だがそれとは対照的に、黒木君には何も変化が見られなかった。
でもそれは大丈夫。
「ブラック、そのままもう一つの紋章を起動するんだ!」
「えっ!?変身したままだともう一つのは……」
「大丈夫だから、やってみて」
「う、うん」
黒木君は半信半疑のまま、渋々左腕の紋章を起動する。
すると、左腕から光の粒子が飛びだし、ブラックのスーツを包み込んだ。
黒いスーツは、ややゴツい感じの鎧を纏った姿に変貌していく。
そして黒木君の全身から黒い光りの粒子が溢れ出して来た。
俺のゴーグルにデュアルドライブが無事起動した表示が現れる。
「よし、成功だ!」
ブラックのOSに入っていたデュアルドライブは使わずに、俺のOS側のデュアルドライブをパスを通じて使った。
バージョンの違いでブラックのデュアルドライブでは悪の紋章OSに対応していなかったのと、異なるOSの場合は個別に起動しなければ行けないというギミックがあったのだ。
ブラックのデュアルドライブを新しいバージョンに書き換える時間が無かったけど、これでブラックもデュアルドライブを使える。
「す、すごい!ホントにデュアルドライブが起動した!」
黒木君は自分のスーツの変化とパワーアップに感動していた。
俺達3人はそれぞれのカラーの光の粒子を放ちながらティラノサウルスを取り囲んだ。
離れた所から、エメラルドは呆けた顔で此方を見ていた。
そして、先程まで倒れていたストーカーが徐に起き上がり、俺達を睨み付ける。
「何をやってもお前達如きがこのティラノに敵うものか!」
生まれたての子鹿のように四肢をプルプルさせて、ストーカーは必死に立ち上がろうとしているが、もう戦えなさそうなのでほっとく。
「リミットは30秒だ。全力で攻撃!」
3人で一斉に駆け出す。
俺はキュービットを複数起動させ、空中に配置して足場にした。
それを蹴って駆け上がり、ティラノサウルスの首に全力の蹴りを打ち込むと、巨体が大きく揺らぐ。
その傾いた巨体へ今度は黒い流星が襲いかかった。
黒木君は腹部へと蹴りを入れた後、背後に回り尻尾の付け根へ叩きつけるように踵落としを決める。
その蹴撃は黒い鎌と化し、ティラノの尻尾を一撃で切り落とした。
痛みなど感じるのかは知らないが、黒木君の攻撃を受けた事でティラノサウルスは狂ったように暴れ出す。
その攻撃を黒木君は距離を取って躱し、逆にシャナは果敢に距離を詰めて行く。
と、そこへ大きく振るった恐竜の右腕が襲いかかる。
危ない――と思った瞬間、シャナの体は粒子だけを残して消えた。
いや、消えたように見えた。
一瞬、青い光の粒子のせいで、シャナが量子化したのかと思ったわ。
デュアルドライブを解放されたシャナは、演算によってその場に居た全員の意識の外へ動いただけだった。
見えない角度から放つパンチはボクシングにも存在するが、体ごと消えるとか凄ぇな。
俺がシャナの実体を捉えた時、既に強力な一撃をティラノサウルスの腹部に打ち込んだ後だった。
「グギャアアアアアアッ!!」
ティラノサウルスの咆哮が辺りに響き渡り、シャナの渾身の一撃を受けた巨体がくの字に曲がる。
そこへ黒木君が下から飛び上がり、サマーソルトキックっで顎をかち上げる。
ティラノサウルスはくの字から一転、伸び上がるように強制的に上を向かされた。
キュービットに乗ってまだ空中に待機していた俺は、黒木君の攻撃で伸び上がって来たティラノサウルスの顔面に、全力の拳を打ち込む。
ドガンッ!!という轟音と共にティラノサウルスの顔が潰れ、そのままの勢いで地面に激突し、恐竜の頭部はコンクリートに半分埋まってしまった。
デュアルドライブは単純に演算処理能力が上がるだけじゃなく、膂力まで増している気がするな。
そう思い、ゴーグルに表示される出力を見てみると、何時の間にか元の1.5倍から2.5倍に増えていた。
でも体に掛かる負担はそれ程増えていないように感じる。
負荷が掛かりにくい動き方や、力を入れる瞬間だけ出力を上げる等、複雑な演算をしているのだろう。
エクステンションって凄え。
俺の一撃で地に伏した恐竜はピクピクと痙攣している。
頭部に命令組織が集中しているのか?
実際の生物をトレースして生成する方が構造的には単純に出来るだろうし、あの生成機とか言うのもそういう仕組みなのかもな。
とすれば、核になってると思われる生成機は心臓の辺りにあるのかな?
「虎ンザム、ティラノサウルスの核みたいな部分って分かるか?」
『ちょっと待って。……うん、普通に心臓の辺り』
やっぱりそうか。
精神感応フィールリンクの残り時間も短い。
黒木君とシャナが追撃を加えているので、もうティラノサウルスの体は彼方此方ボコボコになっているが、まだ完全に倒した訳じゃない。
「ブラック、ブルー、ちょっと離れて!」
俺の声に気付いたブラックとブルーが後方へ跳び、地面に伏した恐竜から距離を取る。
俺はヘルメット以外のスーツを形成するナノマシンを解除して、空中で砲台を形成する。
何故か尻尾だけは残っているけど。
セルガーディアンに手傷を負わせた電磁エネルギー砲で、ティラノサウルスの核を狙い撃つぜ!
って言っても照準は虎ンザムにお任せだが。
砲身内でエネルギーが増幅されると共に、尻の紋章がオーバーヒートしたように熱くなっていく。
でも今回は放熱フィンとしての虎又尻尾があるから、前回のように照準がズレる事も無い筈だ。
「ファイアー!!」
空中から撃った為、本物の落雷であるかのように、電磁エネルギーがティラノサウルスの胸部に襲いかかる。
周囲に響き渡る轟音で、見物していた人達は耳を塞ぎ目を逸らす。
空から降り注いだ、さながら神の怒りとも思える雷が貫くは、恐竜の心臓。
空気を切り裂く轟音が止み、貫かれた光の柱が消失すると共に、ティラノサウルスは爆発したように宙に霧散した。
「ば、ばかな……」
ストーカーがあんぐりと口を開けて呆けている。
それを横目に、俺は精神感応フィールリンクをオフにして、スーツを元に戻した。
脱力感が俺を襲うが、前回のように倒れる程では無かった。
デュアルドライブで演算を分散していたから脳への負担が軽減されていた事と、体への負荷を掛けないように出力調整されていたお陰かも知れない。
俺がキュービットを階段状にして空中から降りていくと、見物していた人達から歓声が上がった。
なんかちょっとヒーローみたいだな。
ヒーロー協会に登録してないのに。
俺が気を抜いて手でも振ろうかと考えた時、俺達を紫色の影が襲った。
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