第41話 尻尾
「ここからじゃ話が聞こえないな」
物陰から聞き耳立てても、距離が有りすぎて黒木さん達の声がここまで届かない。
ストーカー相手に何を話してるんだろう?
危険じゃないのか?
気になる。
「アキト、何で隠れるの?」
「あの男が悪の組織と関係あるかも知れないからな」
「確かに悪の気配を感じる。でも、あの2人からも感じるけど?」
「何で解るんだよ?さっきも普通に敵の気配を察知してたし」
「エクステンションにパスを開くと解るようになる。紋章OSだけだと、敵意を向けられた時に悪寒が走る程度しか解らない」
「へぇ~、なるほど」
今日何度か感じてた悪寒は、紋章OSが何か信号を出してたのか。
付近のナノマシンが感じ取った思念波みたいなモノをOSが自動解析したってとこかな?
まぁ、それは後で調べておこう。
今はあのストーカーだ。
灰原と同じ行き過ぎた澱みのある瞳が、危険な相手であると感じさせる。
躊躇無く力を使う、それがどんな力であっても。
そんな奴のような気がするから、ほっとく訳に行かないんだよな。
なんとか会話を聞く術は無いか?
って、変身すればいいのか。
俺は精神感応で変身のキーワードを紋章に送る。
唐突に変身した俺を見て、シャナは眼を丸くして驚きを顕わにした。
「アキト、何で何も言わずに変身出来るの?」
「それは俺が真のヒーローだからだ」
「なるほど!」
シャナがあっさり納得した処で、俺はキュービットを1つ生成して黒木さん達の近くに飛ばした。
キュービットが拾った音声を俺のヘルメットに送る。
「さぁ、一緒に食事にでも行こうじゃないか」
「だから、行かないって言ってるでしょ!」
さすがストーカー、愛情が完全に一方通行だ。
とある都市では最強かも知れんな。
もっとも、既に振られている俺の愛情も一方通行だが。
あれ?頬を冷たい水が伝っているが、何故だ?
「許婚の俺と一緒に食事に行くのに、何が不満なんだ?」
許婚!?
あのストーカー、許嫁とか言ったか!?
そ、そんな相手がいたなんて……。
それじゃあ俺の方がストーカーじゃないか。
と思ったが、
「私は貴方と許婚になった覚えはないわ!」
やっぱりあいつの方がストーカーだった。
しかも許婚とか言ってる痛い人じゃん。
「ふふん、そんな事を言ってていいのか?もうすぐ俺の父がコランダムとホワイトを失脚させて、お前の後ろ盾は無くなるんだから、俺に縋った方が良いと思うが?」
ストーカーが聞き捨てならない事を言った。
さっき黄桜さんが言ってた件か?
コランダムとホワイトを失脚させようとしてるのは、悪の六将筆頭オニキスとか言ってたっけ?
あいつはその息子なのか。
「お父さんとホワイトさんに何かしようとしてるの!?そんな事させないわ!」
「今更お前に何が出来る?」
「僕も止めるよ。お前なんかに、姉さんにも父さんにも手出しさせない」
黒木さんとストーカーが言い争ってる処に、黒木君が踏み込む。
いいぞ黒木君、ストーカーを撃退するんだ。
「貴様如きが俺に盾突こうとは、コランダムから受け継いだ紋章だけで俺に勝てると思ったか?」
そう言ったストーカーは、悪の紋章を起動させて変身した。
こんな街中の人通りがある場所で変身するとは、何を考えているんだ?
でも周りを歩いてる人達はコスプレぐらいにしか思ってないようだ。
ストーカーは多少注目されても意に介さず、更に何かを始める。
懐から紫色の宝石が埋め込まれたペンダントを取り出し、それを握りながら叫んだ。
「『ジェネレーション』!」
その声が掻き消える程の轟音とともに、ペンダントから眩い紫色の光が迸る。
「きゃああああ!」
通行人達の悲鳴が辺りに響き渡り、阿鼻叫喚の通りと化す。
あのペンダント、さっき灰原が持ってたものに似てるな。
やっぱり灰原に力を与えたのは悪の組織か。
「こんな人が沢山いる場所で正気!?琥珀、この光に紛れて私達も変身するわよ!」
「分かったよ、姉さん!」
爆発が起きたような粉塵と紫色の光がまだ収まらないので姿は見えないが、どうやら黒木姉弟も変身するようだ。
徐々に霧が晴れるように、そこに立っている者達の姿が顕わになる。
爬虫類――蛇のようなマスクのストーカー男。
何時もの変身スタイルのエメラルド。
コランダムが着ていた、甲殻類っぽい鎧を纏った姿の男。
初めて見るが、あれはきっと黒木君だと思う。
そして、先程の光の中で生成されたのであろう、全長10mにも及ぶ巨大な恐竜――ティラノサウルス。
まじか!?
あんな巨大な怪人もいるのかよ!
あそこまでデカい敵なんて、どうやって戦えばいいんだ?
早く加勢しなければと思っていると、急に俺の後ろが騒がしくなる。
「なぁなぁマスター、俺の事かまって!」
「悪の組織が3人と1匹。相手にとって不足無し!」
「ピーッ!」
虎ンザムとシャナとピーちゃんが騒ぎ出していた。
そう言えば、シャナには一応忠告しとかないとだったな。
「シャナ、敵はあのティラノサウルスと蛇みたいな仮面を付けた奴だけだ。手前の2人には攻撃するなよ」
「え?何で?あの2人も悪の組織の奴じゃないの?」
「悪の組織の格好をしてるけど、敵じゃない」
「敵じゃない……確か日本語で相手にならないの意。解った、弱いから相手にしなくていいってことだね」
「深読みしすぎだ。まぁ、あの2人と戦わなければ何でもいいや」
シャナがブルーに変身した処で、俺は虎ンザムを抱きかかえる。
かまってと言うから抱きかかえた訳では無いが、虎ンザムは妙に何かを期待した眼で俺を見つめる。
「虎ンザム、『エクステンション・リンク』!」
俺の声に呼応するように虎ンザムは俺のスーツに溶け込むように吸い込まれていった。
そして、俺のスーツにも変化が――尻尾が生えた。
……おい。
いや、予想して無かった訳じゃないが。
シャナとピーちゃんがエクステンション・リンクした時は翼が生えたんだから、虎型ならそう来るかもと思ってたさ。
耳が生えなかっただけマシかも知れん。
だがしかし、何故尻尾2本やねん!
猫又?いや、虎だから虎又?
虎ンザムの尻尾は1本しか生えてなかったのに、何でエクステンション・リンクすると2本になるんだよ!?
「なぁ、この尻尾って……」
『マスター、俺は放熱する必要があって、演算機構の数が増える度に尻尾を増やさないとダメなんだ。今は敵の強さ的に2本あれば十分だけど、オクタ・ドライブまで可能だから尻尾は最大8本まで増えるぞ』
冷却フィンなのかよ。
どんな化け猫……いや、化け虎だ。
尻尾って1本だから萌えるんだぞ。
何本もウネウネしてたら、只管気持ち悪いわ。
これは後で要改造だな。
尻尾が2本有る事にドン引きしていると、黒木さん達はもう戦闘に入っていた。
あの蛇男はそれ程強くなさそうだが、ティラノサウルスはあの巨体からは想像も出来ない程俊敏なようだ。
右腕を振り上げて黒木さん達をなぎ払おうとしたが、黒木さんと黒木君はそれぞれ左右に飛んで躱す。
しかし、直ぐさまティラノサウルスの尻尾が追撃し、黒木君に襲いかかった。
ガードするも体重差で吹き飛ばされて、ビルの壁に激突する黒木君。
「やばいな。行くぞシャナ!」
「うん!」
ピーちゃんとエクステンション・リンクをしたシャナと共に、俺は猛威を振るう恐竜に向けて掛け出した。
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