第28話 運命

※セーラーポニー(お姉ちゃん)視点です。


 一体何が起きてるの?


 私のピンチに駆け付けてくれたヒーロー。

 黄色いスーツに身を包んだ、きっと私より若い男性。

 彼が上を見上げると、空中を飛んでいたGみたいな怪人が動きを停止した。

 私は言われるままに双銃で撃ち抜いたけど、あれは明らかに彼が何かをしたと思う。

 でも、味方なんだし、余計な詮索は無用よね。


 ようやくGを倒したと思えば、次はコランダムという化物みたいな強さの敵が立ちはだかる。

 見ているだけで戦慄する程の強者の風格。

 私は剣でコランダムに斬りかかるが、明らかに手加減している力であっさりと剣を折られてしまい、唖然としたところでコランダムの蹴りを貰ってしまう。

「きゃあっ!」

 吹き飛ばされてしまったけど、何故か思ったよりもダメージを受けていなかった。

 あの速度の蹴りを受けたら気絶してもおかしく無いのに、何かが間に入って防いでくれたみたい。

 ひょっとしてまた彼が何かしたの?


 ところが味方と思っていた彼は、コランダムにあっさり懐柔されそうになる。

 土日祝日が休みで有給まであるなんて、うらやま……じゃなくて、そんな誘惑に釣られるなんて、彼は一体どういうつもりなんだろう?

「ダメよっ!悪に心を捕らわれてはいけないっ!」

 私の叫びに一瞬ビクッと体を震わせた彼は、明らかにやましい事がある風に向こうを向く。

 いったい何を考えてるの?


 彼は自分の事を新米ヒーローだと言った。

 新米ヒーローが、私でも苦戦したG怪人をあっさり捕獲した事実に驚愕を覚える。

 コランダムの言った『ナノイエロー』って、あの伝説の戦隊『ナノレンジャー』の一員って事かしら?

 今年、新科学高校にその次世代メンバーが揃いつつあるって聞いたけど、彼もそうなの?

 新科学高校って言えば、隣の家の秋君も今年から通うって言ってたなぁ。

 まぁ、秋君は運動苦手だから、ヒーローと関わる事なんて無いと思うけど。


 彼は新米ヒーローと言いながらも、果敢にコランダムに立ち向かっていく。

 でも肌で感じて分かる程に、あのコランダムは強い。

 恐らくA級オーバー、いえ、きっとSSダブルエス級ぐらいは行ってると思う。

 案の定、イエローはあっさりと返り討ちにされてしまった。

 助けに入りたいけど、さっき受けたダメージで体がうまく動かない。

 ダメ、あのままじゃ彼がやられちゃう。

 誰か助けて!

 そんな私の願いが通じたのか、突如空から天使が舞い降りる。

 知らない人だけど、白銀の鎧や白い翼といったフォルムから、悪の組織の人間で無い事は分かる。

 助かった――と思ったのに、コランダムが告げたのは、

「あいつは俺の敵だが、お前等の味方でもないぞ」

 敵の言う事を信じるつもりは無い。

 でも、ヒーロー協会には登録されていない人物だと思う。

 隠密としてシークレット登録されてるヒーローもいるらしいけど、天使のフォルムのヒーローなんて聞いた事が無い。

 じゃあアレは敵?

 コランダムだけでも私達じゃ手に負えない相手なのに、あの天使からも恐ろしい程の強さを感じる。

 どうしよう、この状況を打開できる案が思い付かない。

 焦りだけが募って、全身から汗が噴き出す。


 だめよ、今は冷静にならなきゃ!

 先ずは落ち着いて、呼吸を整えて。

 ひっひっふー。

 あ、なんか産まれそう。

 なわけあるかい!

 こちとら彼氏いない歴=年齢よ!

 男子となんて手も繋いだ事ないわ!

 学生時代は共学だったのに、男子と話をしようとしただけで、「和姫なごひめ様、そのような下賎の輩と口を効いてはいけません!」とか言ってバリケードが作られちゃうし。

 あれは苛めよね、きっと。

 変なあだ名を付けられて、彼氏を作る事まで妨害されて。

 社会人になった今でも、何故か男性は私を避けるし。

 いえ、何時かきっと私にもお付き合いしてくれる人が現れるわ。

 もう25歳だけど……。

 ううん、大丈夫。

 ヒーロー協会の人達だって、「まだセーラー服が似合うね(笑)」って言ってくれるもの。

 私、全然若いもの。

 (笑)の意味が良く分からないけど、たぶん笑顔でいてねって事だよね。

 スマイル大事。

 笑顔で彼氏ゲットして、行く行くは結婚!

 ○ィロ・フィナーレ!

 あれ?何か違う。


 はっ!ついつい妄想が。

 今はそんな場合じゃないのに。

 何時の間にかコランダムとイエローが天使と交戦している。

 イエロー、何故悪の組織の人と共闘しているの?

 まさか唆されて、悪に傾倒した!?

 先輩ヒーローである私が未然に防いであげなければいけないのに、悪の勧誘を許してしまった。

 それより、私も戦わなきゃ。

 けど、ダメージが回復しきっていないのか、まだ体が動かない。

 違う。

 これはあの人達の常軌を逸した戦いに、恐怖して竦んでいるんだわ。

 なんて情けない。

 私じゃ何も出来ない。

 所詮Bランクヒーロー止まりの私なんかじゃ。

 そう思っていると、天使の攻撃を受けたイエローが吹き飛ばされてしまう。


――あっ!


 どうしよう、どうしよう!

 私を助けに来てくれた人がやられるのを見てるだけなんて。

 どうすればいいの?

 分からない!


 だめよ、こんな時こそ、もちつけ私。

 ぺったんぺったん。

 助けに入る事も出来ないヒーローがいたんですよぉ。

 やっちまったなぁ!

 なんでやねん!

 落ち着こうとすればする程、思考がおかしな方へ向いていく。

 そういえば昔、隣の家のおばさんに「奈尾なおちゃんは時々ぶっとんでるわねぇ」とか言われたっけ。

 今はぶっとんでる場合じゃないのに。

 落ち着くにはどうすればいいんだっけ?

 そうだ、昔の漫画で落ち着く為に素数を数えるってのがあったっけ。

 1、2、3、5、7、11、13、17、19、23、29、31、37、41……。

 あれ?1って素数じゃなかったような?

 どっちでもいいわ!


 突如、雷鳴のような轟音が辺り一面に響く。

「え、何っ!?」

 音の発生源へ視線を向けると、そこにはヘルメットだけ残して変身が解除されているイエローの姿が。

 そして巨大な銃身を天使の方へ向けていた。

 あれが放たれた音?

 天使の翼が片方、何かに貫かれたように千切れていた。

 彼がやったの?

 新米ヒーローの彼が?

 あの天使、SS級以上の強さだと思うんだけど。

 一体彼は何者……?

「お前、何者だよ?」

 コランダムも同様の事を思ったらしく、イエローに問いかける。

 天使は撃退出来たけど、イエローはその場に崩れ落ちてしまっていた。

 そして意識を失ったのか、がくりと首を向こう側に傾けると、変身が解けて黄色いヘルメットが消える。


――あれ?


 あの後ろ頭、見覚えがある。

 イエローって私が知ってる人?

 でも、どこで見たのかしら?

 なんか凄く親近感が湧く後頭部だけど……。


 と、コランダムはイエローの体を抱きかかえ上げた。

「こいつとの約束で、嬢ちゃんは見逃してやる」

 え?私、見逃して貰えるの?

 よかったけど、彼の事は?

「じゃあこいつは俺が連れてくから」

 コランダムの言葉に思考が停止する。

 今、何て言ったの?

 連れて行く?

「ま、待って!悪の組織に連れていくの!?」

 私じゃコランダムから彼を奪い返せない。

 でも、何とかしなきゃ!

 そう思った私は、コランダムの次の言葉の意味を理解出来なかった。

「こいつも見逃す約束だからな。組織には連れて行かないから安心しろ」

 組織に連れて行かないなら、何処へ連れていくの?

 そう聞く間もなく、コランダムは彼を連れて行ってしまった。

 助けられなかった後悔は、不思議と無かった。

 コランダムの言葉が何故か信用に値する気がしたからだ。


 きっとまた彼に会える。

 その時にお礼言わなくちゃ。

 倒れる程一生懸命に戦ってくれた彼。

 私を守ってくれた彼。

 どうしたのかしら?彼の勇姿を思い出すと、胸がドキドキする。

 初めて感じるこの気持ちは何?

 胸が締め付けられる。

 これって、もしかして……。


 きっとまた彼に会える――じゃダメよね。

 絶対会いに行くわ、私の運命の人!

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