第26話 出力増強

 セルガーディアンの翼が白から銀色に変わると、纏っている鎧もそれに呼応するように輝き出した。

 それが戦闘開始の合図。

 一足飛びにセルガーディアンがコランダムに肉薄すると、互いに目にも止まらぬ攻防を始める。

 初撃がこっちに来なかった事で一瞬油断した俺に向かって、突然閃光が飛んできた。

「うわっ!」

 システムの動作予測のお陰で辛うじて躱せたけど、体勢をくずして蹌踉けてしまう。

 そこへ追撃とばかりに、輝く蹴りが飛んでくる。

 キュービットを操作して蹴りの軌道上に配置すると、それを察知したのか、セルガーディアンの蹴りは空中で変化して、俺の足をすくうように下段へ伸びる。

 俺は跳躍してその蹴りを躱すが、今度は逆方向から蹴りが跳んで来た。

 その蹴りをキュービットと十字ブロックで防ごうと身を捻る。

 だが、その攻撃は飛んで来なかった。

「ばか、そりゃフェイントだ!」

 コランダムの声が届くのと同時に、輝く拳が俺の脇腹を捉えていた。

「げほっ!」

 重い拳撃を食らい、俺は数m吹き飛ばされて尻餅をつく。

 初めにコランダムを狙って攻撃したから、俺へは攻撃して来ないかもなんて甘い事を考えてしまった。

 これでコランダム同様、俺も敵と認識されてる事がハッキリしたし、セルガーディアンがとんでもない化物だって事も確信した。

 あいつ、殆ど動きが見えない。

 コランダムと違ってナノマシンで形成されたスーツを着てるから、システムが動作予測出来るのは救いかも。

 いや、スーツ着てる方が強いからダメか。

 どちらにしろ、たぶん基本システムだけじゃどう足掻いても勝てない。


 俺が吹き飛んだのを確認して、セルガーディアンはコランダムへと狙いを定める。

 そこを狙ってキュービットを背後からぶつけてやろうとしたが、セルガーディアンは振り向く事もせずに裏拳でそれを粉砕した。

 やっぱりある程度以上の強さの奴には、キュービットのステルスは効果が無い。

 視覚だけじゃなく、ナノマシン反応もステルス出来てる筈なのにどうやって感知しているんだ?

「その見えない何かは使っても無駄だ。見えなくても空気の動きで解るんだよ。その余計なリソースは身体操作に当てろ」

 コランダムがセルガーディアンに攻撃をしながら俺へと注意喚起する。

 空気の動きって、そんなのが読めるのは武術の達人だけじゃないのか?

 いや、空気中のナノマシンの分布というか、濃度の変化みたいなものを検出してるのかも知れない。

 俺の貧弱なOSじゃ実装出来そうにない機能だな。

 とりあえず今はいい。


――キュービット、お姉ちゃんの護衛だけ残して他は解除。


 精神感応でキュービットに割り当てたリソースを戻す。


――ナノマシン動作出力1.5倍に増強。


 ついでに動作出力を上げて動きを加速させる。

 出力を変えると全てのデータを書き換えなきゃいけなくなるけど、あんな化物に対抗するには今の動きのままじゃダメだ。

 もっともコランダムの支援が出来る程度でいいと思うし、コランダムの方も俺の事なんてそれ程当てにはしてないだろうから、相の手を入れられれば上々。

 あとは出力増強に俺の体が耐えられるかだな。


 コランダムとセルガーディアンの攻防は、とても目で追えるようなものじゃ無かった。

 どっちもスピードに特化した攻撃に見えるけど、一撃一撃の衝突音から、その攻撃の重さも相当なものだと解る。

 セルガーディアンの方はナノマシンのスーツを着ている事で動きを検知出来るけど、コランダムが生身なせいで動きを目で追わなければいけない。

 それこそ空気中のナノマシンを検知して、逆演算する事で動きを捉えるしか無いな。

 今はそれをプログラムしてる時間は無いから、動体視力を限界まで使って動きを見極める。

 そして両者が一瞬の交錯で蹴りを出し合った時に、隙が出来た。

 俺は出力を上げた足で地面を蹴って、セルガーディアンに向かって跳ぶ。

「ぐうっ!」

 俺の骨や筋が動作の反動に耐えられず、軋む。

 それでも我慢して、右足で何とか蹴りを繰り出した。

 1.5倍の速さで跳んだ蹴りは、残念ながらセルガーディアンの左腕の鎧でガードされてしまう。

 それでも相手に触れる事が出来たのだから、多少は戦えるか?

 直ぐに距離を取るためにステップを踏むが、セルガーディアンも地面を蹴り、難無く俺に付いて来た為逃げられない。

「っ!?やべぇ」


――ナノマシン動作出力2倍に増強。


 精神感応で出力を上げて、力いっぱい地面を蹴る。

 辛うじてセルガーディアンが放った拳は俺に追い付けず、宙を彷徨った。

 2倍なら、やや俺が勝ってるか?

 でも代償は大きい。

「ぐああっ!!」

 地面を蹴った左足がつってしまい、その場に蹲る。

 その隙を逃してくれる筈もなく、今度はセルガーディアンの右からの蹴りが俺を襲った。

 左腕でガードすることでその攻撃は防げたが、2倍の速度で動かした事で今度は左腕に電撃のような痛みが走る。

「痛っ!」

 左腕と左足が動かないので、転がって少しでも距離を取ろうと足掻く。

 拙い!と思ったところで救援が間に合う。

 コランダムの拳がセルガーディアンを背後から襲った。

 とても生身の人間が殴ったとは思えないガンッ!という鈍い音を響かせて、コランダムの拳がセルガーディアンの翼を拉げさせた。

 コランダムはそのまま蹴りも入れて、セルガーディアンを吹き飛ばした。

「おいおい、動きは良くなったけど体が付いて行ってないだろ、それ。プログラムで全て解決しようとせずに、ちゃんと体も鍛えた方がいいぞ」

 呆れたと言った風にコランダムがやれやれといった動作を見せる。

「だから、ヒーローに成り立てだって言ったでしょ?そんな前提で体鍛えてないんですよ。それどころか普通の運動だって殆どやらないし」

 俺の反論にコランダムは目を見開く。

「マジか?運動もしないような奴が何でそんなに戦えるんだよ?」

「いや、そりゃ殆どヒーロースーツの動作補助に頼ってますからね」

「どんだけハイスペックなOS使ってるんだ、お前?」

 超ロースペックOSのMeeですが何か?

 因みに本体の俺自身もロースペックですが?

 そんなロースペックな俺が出力2倍とか無理があったか。

 某漫画では、2倍の力を出す為に10倍の重力で修行してたからな。

 地球人にはそんなの無理っす。

 今の俺じゃ1.5倍が限界ってとこか。


――ナノマシン動作出力1.5倍に戻す。


 でもこれだけじゃ戦えない。

 なるべくなら使いたくなかったけど、やっぱりアレを起動するしか無いよな。


 徐に立ち上がるセルガーディアンは拉げた翼を気にする様子も無く、まるでロボットのように俺達の方を確認して振り向く。

 取りあえず、お姉ちゃんを敵認識してないようなので助かる。

 キュービットだけで守り切れるか自信が無いからな。

 まだ状況が呑み込めないのか、セーラーポニーは呆けたままだ。


 さて、じゃあ切り札起動と行きますか。


――精神感応フィールリンク、オン。


――D92968BE4E88A800756D980F35619C002CB62A48BE500A0002FB12C418F5FFE00032C0F8DE00D9FE000217A60025237081E4952EF496F0054B226C7E78C718E80ECA3BE80122A75677A406306E3B5F1D1FC220139F01EFCD3427...


「いだだだだだっ!」

 唐突に英数字の羅列が頭に流れてきたせいで、強烈な頭痛が俺を襲う。

 通常の精神感応は俺の思考を読み取って、それを命令文としてシステムに送る事が出来る。

 今回起動したのはその逆で、OSから直接俺の脳に情報を送る事で、OSと俺の脳で並列演算処理を行うというもの。

 恐らくフルダイブ型VRMMOゲームとかの技術を応用したものだと思われるけど、ブラックボックス化してる機能が脳に痛みを与えるから、怖くて使いたくなかったんだ。

 けどこれで、視認してから動きを考えるよりも早く反応出来るし、貧弱なOSの演算を俺が半分肩代わり出来るから、動作出力を抑えた分を補って余り有る筈だ。

 そして俺のゴーグルに表示される時間――残り0:30。

 リミット30秒の間に倒す!

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