第35話
円は、ベッドで寝息を立てる蒼也を見ながら安堵の息を吐いた。ともかく落ち着かせることが大事と、薬を与えたのは正解だった。
「寝たの? 蒼也様?」
「うん」
相変わらず、部屋の隅から円を睨んでいたみとれが尋ねる。最初は妨害しようとしていたが、蒼也に怒られ憎々し気に睨むことしかできなかった。
円は肩を竦めて、コーヒーを淹れる。
「あら、いいの持ってるのねえ。持って帰っていい? 全然減ってないみたいだからあ」
みとれは答えない。
「そんなに嫌わなくてもいいじゃない」
「やだ」
「あら、どうしてえ?」
「蒼也様、あんたの方が好きだもん」
円は思わず吹き出し、みとれの反感を感じ取って思わず咳ばらいをしてそれを誤魔化した。同時に、その鋭さに感心もした。蒼也からの話でこそ聞いていたが、会ったのは一度きりで、風変わりで繊細な少女と思っていたが、中々どうしてしっかりしている。
「みとれちゃんって、どうしてこの学校にい?」
「教えてあげない」
「理由はあ?」
「蒼也様にしか知ってほしくないから」
「ふうん」
直後、素早くみとれは蒼也のベッドにもぐりこんだ。猫のように顔だけ出して、円を威嚇する。
「いつも一緒に寝てるんだからね。あたしは蒼也様好きなんだからね」
「……避妊しなさいよ?」
みとれはあかんべえすると、布団にもぐって蒼也に抱き着いた。
「……少し見ないうちに、まあ」
円はもぞもぞと動くベッドを見ながら、目を細める。古城だけではない、今の蒼也にはみとれもいる。何かが、変わろとしていた。それは円にとってうれしくもあり、寂しくもあった。
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