第33話

 新人類が『頂』を使えなくなる事例は、これまでに何度か確認されている。多くは、一時的なストレスによる乱調だ。時を待てば、自然に回復する場合が殆どである。だが、それほどのストレスを受ける時、冷静でいられるものは少ない、己が半身ともいえる『頂』を失っているならば猶更だ。まして、蒼也は古城を目の前で喪失し、その責を生徒たちから受けている。どれだけ言っても、説得することはできなかった。いや、表面上東堂の告知を受け入れている分よけいに性質が悪い。


「くそ……! くそ……!」


 苛立ち、壁を殴る。その響きすら、か弱い。『頂』を失った今、蒼也は以前以上に自分を矮小に感じていた。葬儀から、授業はおろか部屋の外にも出ていない。


「蒼也様、夕ご飯だよ」


 そのため、身の回りの世話は、全てみとれがしていた。当然、外で敵意に曝されるのはみとれである。命の危機こそないものの、誹謗中傷、小突かれるのは毎度のことだ。蒼也は罪悪感を抱きつつ、立ち上がる勇気を持てなかった。平気な態度のみとれが、余計に蒼也を追い詰める。『頂』以外は、ただの少年なのだ。


「……」

「食べないの?」

「なんで戻らないんだよ……? まさか、なくなっちゃのか?」


 最悪の予感が蒼也によぎった。『頂』は蒼也の全てである、それがないのなら、死んだ方がましだ。かといって、ここの保健医には相談できない。どこから情報が洩れるか、わかったものではない。それどころか、察知能力のある『頂』の使い手が今にも蒼也の状態を知るかもしれない。そうなれば、退学はいい方で、古城のことで殺される危険もある。今の2人は、少年と、単体では戦闘能力をもたないみとれのみである。


「なんでだよ!」


 蒼也はまた壁を殴り、拳の痛みに呻いた。


「大丈夫?」


 心配して、手を取ったみとれを蒼也は乱暴に振り払う。最早、どうすればいいかわからなかった。そろそろ、古城の死で引きこもっている体にしろ無理が出てくる。


「……円姉ちゃんに来てもらうしかない」

「え」

「もう、それしかないんだ」


 みとれが、不満そうに頬を膨らませた。彼女にとっては、恋敵である。


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