二月
噂は、怖い
元々、うちの職場は恋愛沙汰には寛容だ。職務に支障が出なければ、という前提はもちろんあるけれど、長いお付き合いを経て職員同士で結婚、などというケースは山ほどあるようだし、年に何度かは結婚しますという報告の回覧などが回って来たりして、そういう意味では割とやりやすいよー、と、歓迎会の折に内野さんに言われたものだ。
しかし、いざ、自分がそういう立場(正確には違うけれど)になってみなければ、分からないことというものはあるもので。
「おっはよー里帆ー、なんか森谷さんと付き合い始めたんだってー?」
月曜日の朝、午前八時四十分。
いつもの如くカードリーダーで出勤処理を終えた途端、ばたばたという足音とともに、背後からそんな台詞を投げつけられて、私は飛び上がりそうな勢いで振り向いた。
と、顔の横をかすめるようにして細い腕が伸びてくると、職員証が読み取り部分に押し付けられ、ピッ、と音を立てる。その動きに妙な既視感を感じつつ、私はすぐ傍にある、やけににこにこと機嫌良さげな顔を見上げた。
「……
「えー、なんでーいいじゃんめでたいことだしさー。別に二股とか略奪じゃないんだし」
咎めるように言ったところで効かないだろうとは思っていたけれど、さらに酷く不穏な単語まで付け加えられて、私は頭を抱えたくなった。
生来からの髪質らしい、ふわふわと波打つショートヘアが特徴の彼女は、
うちのような、特定の時期に極度に繁忙となる担当とは違い、常時、何かと残業がちな部署だから、二人でいたのも見られることはないと思っていたのだけれど。
「その話、どこから聞いたの?」
口振りからすると、誰かを介して知った、という雰囲気だったので、そう尋ねてみると、けろりとした様子で答えが返ってきた。
「メール貰ったよ、内野さんから。なんか誘われてたよ告白っぽいよ!ってー」
「内野さん……なんで、わざわざそんなことするかな」
そこまで聞いて、私ははたとあることに気付いた。メールの内容がそれなら、まさか。
「優理、もしかしてカマかけたの!?」
「そうだよー、手っ取り早いかなって思って。あと、足立さんから目撃情報飛んできた、あいつら付き合ってたんか?って」
……しかも、こんなに早く、二人で帰ったのをばっちり庁内の人に見られていたことが証明されて、なんというか、いたたまれなくて。
足立さんというのは、介護担当所属の男性で、同期ではないそうだけど、内野さんとは仲が良い人だ。そして、若手に人脈が広いことで知られているのは、二人ともそうで。
……まさか、だけど、他に話が回ったりはしてない、だろうか。
とにかく、取り急ぎ間違っている点だけでも訂正しておかないと、と思い至って、私は慌てながら優理の袖を掴むと、
「えっと、とにかく優理、話すと長くなるんだけどとりあえず、お、お付き合い、っていうのとはちょっと違ってて……」
「えー、なにそれ。でもさあ、告られたのは確かなんでしょ?」
「そ、それは、あの、ええと」
事実関係は確かに合っているのだけれど、自ら口にするのはとてつもなく恥ずかしくて、情けないほどにうろたえていると、
「それは、間違いないよ」
きっぱりと肯定する言葉とともに、また例の電子音が響いて、二人揃って顔を向ける。そこには、当然というか、声の通りに森谷さんが立っていて。
「おっとー、ご本人到着ですかーおはようございまーす」
「おはよう。川名さん、彼女はこういう事態に弱いんだから、あんまり攻め立てるのは止めてもらえるかな」
「おお、かばいますねー。そんじゃついでに事の次第を聞いちゃってもいいですかねー、この子おろおろしっ放しで要領得なくてー」
睨むようなちょっと怖い目つきでずばりと斬り込んできた森谷さんに、優理も対抗するように視線を返すと、にやりと笑ってみせる。当事者であるはずの私が、なんだか蚊帳の外になってきたので、止めようと口を開きかける。と、
「つうか、お前ら邪魔。妙なトライアングル形成してんじゃねえよ」
さらに新たな腕がすぐ傍をかすめて、ピッと四度目の音が鳴って、ぎくりと身を強張らせる。聞き覚えのある声に顔を向けると、今度は
と、私と森谷さんに目を止めるなり、はっきりとした二重の瞳の上にある、整った細い眉をひょいと上げてみせると、呆れたように言ってきた。
「なんだよ、週明けからさっそく修羅場か?」
「ち、違います、ものすごく誤解です!」
即座に全否定してから、今の心境はある意味そうかもしれない、と思い直したけれど、
それどころではない。丁度いいから、この際足立さんにも一緒に説明しておこう、と顔を上げかけると、
「……いいよ、僕が言うから。言いにくいんだろ?」
そっと、森谷さんに肩を掴まれて、彼の方に軽く引き寄せられて。
それから、私をかばうみたいに、一歩前に出て、優理と足立さんにひたと目を据えて、しばし。
「あー、雰囲気出してるとこ悪いけどな、お前ら肝心なこと忘れてねえか?なんで俺がこんな早くに来てると思ってんだよ」
「……あ」
森谷さんが言葉を発する前に、足立さんが頭を掻きながら言った台詞に、残る三人は、揃って顔を見合わせた。
というのは、足立さんは、理由は分からないけれど、普段は何が何でも始業十分前頃に来る人なのだ。だが、今日は、月初めの第一月曜日。すなわち各担当において、開庁時間前に朝礼が行われる日で。
慌てて時計を見ると、もう、開始まであと二分しかない。
「やっばい、あたし一番遠いし!あーもう、里帆、昼休み無理だから帰りにねー!」
「わ、分かった!えっと、それじゃお二人とも、失礼します!」
半ば叫ぶなり、エレベーターまでダッシュを掛けた優理を見送って、私も会釈をするとすぐさま階段へと足を向けた。
とはいえ、まだ何事か言いたげだった、森谷さんのことが気になって、踊り場にさしかかったところでちらりと様子を窺ってみると、二言三言、足立さんと言葉を交わしていて。
……なかなかはっきり言えなかったこと、気を悪くしてないかな。
ほんの少し苦い気持ちを覚えながら、私は振り切るように足を動かして、一散に階段を上って行った。
それから、どうにか朝礼には間に合って(優理も大丈夫だった、らしい)。
イレギュラーな事態も用件も発生せず、無難に日々の業務をこなしていたのだけれど、
「早瀬さん、ちょっと調査頼めるかな」
「あ、はい。大丈夫ですよ」
午後、四時を少し過ぎて、全体的に週明けならではの喧騒もおさまってきた頃。
私の斜め前の席についている、
倉田さんは、今年丁度三十路に入った、子煩悩なことで知られている人のいい男性だ。この担当では四年目と、一番のベテランでもあるので、担当全体の事務の流れを統括する立場でもある。
丁度、手持ちの入力資料の処理を終えたところで、あとは決裁に回すのみ、という状態だったから、とてもいいタイミングだ、と立ち上がると、すぐさま一束の資料が渡されて、
「この五件だけ、まだうちに異動情報が来てないらしいんだ。だから、悪いんだけど、住基まで行ってきてね」
いつものようににこやかに指示を出されたものの、一瞬反応が遅れてしまった。よりによってこのタイミングで、住基担当に行かなければならなくなるとは。
「ん、どうしたの?まだ調査行ったことなかったっけ」
「あ、いえ、ごめんなさい、ぼんやりしてて。すぐに行ってきます」
いぶかしげになった倉田さんにそうなんとか応じて、ばたばたと筆記用具を手にすると、担当を出る。出がけに、内野さんがこちらを気にするように見て来たのに気付いたけれど、なんだかいっぱいいっぱいで、振り向くことも出来なかった。
何しろタイミングが悪くて、内野さんに話をすることも出来ていない。お昼は、彼女が窓口当番で一緒ではなかったし、まさか、仕事中にそんな話をするわけにもいかなくて。
なんとなくもやもやしたものを抱えつつも、一階に降りて住基担当に向かう。職員用の出入り口から入ると、失礼します、と声を掛けて、閲覧用の端末を借りるべく奥に進む。
すると、遠目に、自席に掛けている森谷さんの後ろ姿が目に入って、心臓が跳ねた。
……今までは、意識すらしていなかったくらいなのに、一目で分かるなんて。
そのこと自体に動揺して、慌ててその姿から目を逸らすと、目的の端末に辿り着く。
専用の使用簿に必要事項を記入して、IDとパスを入力していると、ふいに背後から声を掛けられた。
「あれ、早瀬さん調査?中身分かる?」
弾かれたように振り向くと、顔はなんとか知っているけれど、名前はまだうろ覚え、というほどの男性が立っていた。少し目尻が下がり気味の、温和な感じの若い顔で、確か、金曜日に喫茶店で見かけた中のひとりだ。
「あ、ええと、大丈夫だと思いますけど」
とっさにそう応じると、男性は分かってる、とでもいうようににっと笑って、
「遠慮しなくてもいいよ、サポーター付けてあげるから。おーい、森谷くーん!」
突然放たれた声に、私も驚いたけれど、森谷さんはもっとびっくりしたようで、派手な音を立てて席を立つと、こちらに向かってきた。
と、私がいることに気が付くと、軽く目を見張ってから、男性に視線を移すと、
「……何でしょうか、
「うん、調査だって。分からないことがあるといけないから、終わるまで見てあげて」
そう言いながら、やけににこにこと嬉しそうな笑みを向けてきた井沢さんは、それじゃ、と言って少し離れた自席に戻っていった。
それから、しばしの沈黙が流れて、私は少し気まずい思いながらも口を開いた。
「ごめんなさい、わざわざお手数を掛けてしまって」
「いいよ。それより、こっちこそごめん」
小さくため息をついた森谷さんは、私の持参した資料を見ながら、手早く端末に情報を入力してくれた。検索画面に必要な情報が表示されるまで展開しながら、低く声を漏らす。
「……朝一で、井沢さんにめちゃくちゃからかわれたんだ」
「えっ、あの、じゃあ」
「うん、見とがめられてたらしい。担当から丸見えだったって」
当然と言えば当然なんだけど、と森谷さんは苦笑を浮かべて、さらに続けた。
「詳細は話してないけど、僕から誘ったことくらいは話さないと納得してくれなくて。だから、妙に気を回してくれたんだと思う」
……やっぱり、何か雰囲気が変だな、と思ったら。
こんな風に、周囲にある程度知られている、と分かってしまうと、どうにもやりにくい。
こうして、ちゃんと業務で来ているというのに、まるで森谷さんに会えるのを期待して来た、みたいに思われてしまいそうで、なんだか複雑だ。
そんなことを思いながらも、仕事は仕事だ、と、しっかりメモを取って、所定の調査を終える。思わずほっと息をつきながら、ログアウトの処理をしていると、
「帰り、川名さんとどこか行くの?」
書類を返してくれざま、さりげなく身を寄せてきた森谷さんに尋ねられて、私は頷いた。
「まだ、どうするかとは決めてないですけど、あの様子だと徹底追及してきそうだから」
「それ、僕も行っていい?」
「え?でも……ちゃんと私から説明しますよ?」
「いいから。とにかく、支障がなければそうしてくれる?」
その問いに返事を返す前に、遠くから森谷くーん、と呼ぶ声が飛んできた。
顔を向けると、さっきの井沢さんが、受話器を片手にしきりと手招きをしている。どうやら電話のようだ。
そういったわけで、なんだかうやむやのままに了承した形になって、そのまま私は住基担当を後にすることになった。
そして、その夜。
「……なんで、こんなに集まっちゃったんでしょうか」
「物見高い人間が多い、ってことだろ」
うなだれつつ発した私の呟きに、まさしく間髪入れず、すぐ隣に座った森谷さんがそう返してくる。確かに、そういうことなのかもしれない。
朝に中断してしまった話を詳しく聞くべく優理が指定した場所は、意外なことに喫茶店ゼフィールだった。彼女は飲むのが好きだから、きっと居酒屋だろう、と思っていたのだけれど、曰く、
『酒入るとぐだぐだになるじゃん、里帆。ここは素で吐いてもらわなくちゃー』
と、さりげなく怖いようなことを言われつつも、森谷さんと三人でやってきたのだが、店に着いて、一番奥の席に案内されると、何故かあれよあれよ、という間に見知った顔に囲まれてしまって。
気が付くと、二人並んで座らされた挙句、周囲を五人がかりで固められてしまったのだ。
そのメンバーは、内野さん、優理、足立さん、井沢さん、そしてなんと、倉田さんで。
「……倉田さん、奥様、大丈夫なんですか?」
つとに愛妻家としても知られている彼に、月曜から遅くなっても大丈夫かな、と心配になってそう尋ねてみると、あっさりと返事が返ってきた。
「ああ、事情話したら『あとで詳細求む』って。それに主担者としては諸事情も聞いておいた方がいいかな、って」
……奥様は、どういう話だって聞いておられるんだろう、ほんとに。
ちなみに、倉田さんも噂をどこからともなく聞いていて、今日の調査は『気を遣って』くださったそうだ。……不自然な指示じゃなかっただけに、全然気が付かなかった。
色々と思うところはあるけれど、とりあえずそれぞれコーヒーなり紅茶なりを注文し、店員さんが伝票を手に立ち去るなり、内野さんが若干すまなさそうに口火を切った。
「えーと、なんかごめん……優理ちゃんと仲いいし、知らせてもいいかなって思ったんだけど、そんなに豪快に突っ込んでいくとまでは思ってなかったんだよね」
「仲いいからこそじゃないですかー。それにどっちにしたって、二人で帰ってる時点でめっちゃ目撃件数多いですしー」
「そ、そんなに?」
優理の言葉に、思わず不安になって聞いてみると、足立さんが指折り数えて、
「俺が見たのが、五番出口に入ってくとこだったんだよな。そん時うちの担当で飲みに行くとこだったから、俺入れて五人見てて……」
「僕の方は、端末と施錠のチェックしてる時だったから、うちの係長と課長含めて三人、かな」
「そんで、あたしが聞いたのは保険年金で二人、福祉で三人、会計室で一人、かなー」
井沢さんと優理が、それぞれ続けて内容を発表してくれるたびに、噂の広まりっぷりにちょっと恐ろしくなってしまった。つまり、ほぼ一階のフロア全体に目撃者がいることになるわけで。
「……それで、なんで皆さんまで来られたんですか?」
不機嫌を露わな声音でそう言うと、森谷さんは五人をじっと見回したあとに、ひた、と優理に視線を据えて、あらためて口を開いた。
「川名さん、僕は君の誤解を解くために来たつもりであって、寄ってたかって何やら、冷やかしを受けるために来たわけじゃないんだけど」
「あたしだって、そんなつもりで来たんじゃないですよー。ね、足立さん」
「あー、お前が気を悪くすんのは仕方ねえよな、すまん。でも、お前らが付き合ってんじゃねえの、って話は、結構なスピードで庁内に広まっちまってるんだよ」
優理の言葉を受けて、足立さんが軽く頭を下げつつそう言うと、内野さんが続けて、
「で、考えたんだけど、なんか状況違うみたいだし、もし里帆ちゃんたちが、噂自体をどうにかしたいなら、打ち消すにしても訂正するにしても、このへんの皆でさりげなーく広め直すことくらいは出来るかな、って思ってさー……お節介かもしれないんだけど」
そう話を引き取って、申し訳なさそうに私と森谷さんを見回すと、一瞬の沈黙が落ちて。
「……僕としては、誤解されたままで一向に構わないくらいなんですけど、そうなると彼女に迷惑になるかもしれないから、確かにその方がいいのかも知れません」
しばしの間を置いて、森谷さんはゆっくりとそう言うと、答えを確かめるように、私に目を向けてきた。どこか困ったような、切ないような視線を向けられて、胸が詰まる。
告白の時だって、そして今だって、常に真摯に言ってくださっているというのに、私が情けなくうろたえてしまったが故に、このひとを困らせてしまうなんて。
こんなことではいけない、と思い至ると、不思議と気持ちがすっと定まって、私は森谷さんの瞳を見据えると、心を決めるようにきっぱりと頷いた。
それから、こちらを窺っている五人に向き直ると、ややつかえながらも話し始める。
「あの、私、森谷さんのお気持ちを受け取るには、色々と心の準備が足りないというか、まだ、彼のことをほとんど知らないから、お友達から、ってお願いしたんです」
大事なことだから、自分の気持ちに嘘のないように、きちんと、思いを伝えて。
「それであの、森谷さんはともかく、というか、そこまで詳しくは知らないんですけど、その、私の方はこういうお付き合いとかそういう事態が全然初めてなので、ええと……」
そう思いながら言葉を紡ぐものの、段々とどう結論付けていいのか悩んで、分からなくなりかけたけれど、
「何もかも、凄く不慣れで申し訳ないんですけど、なんていうかあの、そっと見守っていただけたらって思うんですが!」
そうやって、思いの丈を一纏めにして言い切ってしまうと、私はひとつ、息をついて。
しばらく、私以外の誰一人として、声を発することもなかったのだけれど、
「へーえ、いやー、ふーん、なるほどねー」
にやにやと、酷く嬉しそうに微笑んだ優理がそう言うと、すっと森谷さんに向き直る。と、
「そっかー、森谷さーん、そういうことだったら里帆のこと泣かせちゃいけませんよー」
「……そんなことしないよ、人聞きの悪い」
何故か、ちょっと頬を赤くした森谷さんが(初めて見た)、照れたようにそう答えるのをついじっと見ていると、それに気付かれたのか、ふいと顔をそらされてしまった。
「えーっと……まあ、とにかく里帆ちゃんの言いたいことは分かったから」
「言われた通り、ちゃんと正しく伝えとくから、確かに」
内野さんと井沢さんがそう言ってくれるのに、倉田さんが、いつもの笑みを浮かべて、請け負うように大きく頷いてくれて、安堵の気持ちが広がる。
最後に、ずっと黙ったままだった足立さんが、落ち着かなげに頬を撫でると、私の方をちらりと見てきて、
「……お前ら飲みに連れてこうかと思ってたけど、今日はやめとくわ。森谷、とにかく茶飲んだら早瀬を連れて帰ってやれよ」
「分かりました。それでいいね、早瀬さん」
「え?あの、はい、私は構いませんけど、森谷さんは行かれてもいいんじゃ」
突然の申し出に、訳が分からずにそう聞き返すと、私を見下ろした森谷さんは、盛大にため息を吐いて、
「これだから……危なっかしくて、ほっとけないんだよ」
えらくしみじみとそんなことを言ってくると、ぽん、と頭に手を置いてきた。
……なんだか、足立さんといい、森谷さんといい、かなり疲れたような視線が若干気になるんだけど。
そうは思うものの、二人ともの考えは上手く読めなくて、結局、言われるままにお茶を飲み干してから、私はそのまま帰ることになってしまった。
それから、なんとなく流れで、森谷さんと晩御飯をご一緒することになって。
「君はうかつ過ぎるから、今後こういったことの発言については控えること」
「い、言いふらしたりはしませんよ!それに、そんな変なこと言った記憶はないんですけど!」
「自覚がないから、怖いんだよ……頼むから、この点だけは僕の言うことを聞いて」
また、微かに頬を赤くした彼から、懇願するようにそう言われてしまって、それ以上の追求は出来ないまま、頷かざるを得なくなってしまった。
……まあ、とりあえずはこれで、一安心、なのかな。
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