揺籠忌憚

加藤エノ

Prolog しょうじょ


 白い洋館があった。

 その場所にあるのは不適切なような。白の煉瓦造りの洋館だ。

 心臓破りの坂を登って、登って。

 その頂上にある小さな白い洋館には、ひとりの少女が住んでいた。


 その扉を開けると、玄関先は閑散としている。

 まるでレストランのような外見の店なのに、多くのテーブルがあるわけではない。そこにはひとつだけのテーブルと、一組の椅子がある。

 瀟洒な、濃紫のテーブルクロスのかけられたテーブルには燭台がひとつ。

 柔らかいクッションののせられた椅子は見るからに座り心地が良さそうだ。

 一対の椅子の片側。そこには、ひとりの少女が座っている。

 薄ら笑いを浮かべて、白髪赤目、いわゆるアルビノの少女だ。肩口で切りそろえられた髪の毛は絹糸のように、柔い。


 少女は貴方を見ると薄ら笑いを浮かべるだろう。

 その笑みは邪悪でありながらも無邪気で、二律背反の感情を携えたその笑顔はあまりにも悍ましい。


 そして、少女は口を開く。


「いらっしゃいませ。どんな恐怖をお売りくださるのですか」


 彼女は自らをユリカゴと名乗るだろう。

 そして、君に問いかける。どんな恐怖を、売るのかと。


 ここは揺り籠屋。

 「怖い話」を専門に買い取る、少女の店だった。

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