第7話 妹

男「たまには僕が後輩ちゃんを送っていってあげたいんだけどなあ」


後輩「仕方ないじゃないですか、そういう通学路なんですから。毎日一緒に登下校してるんですからそれくらい我慢してください」


男「ちぇー。じゃあね、後輩ちゃん」


後輩「はい。また明日」












後輩「(……不服げな先輩も可愛いかったなー。それに、あそこであっさり引き下がってくれるのも、私に気を遣わせないための先輩なりの配慮なんだろうなあ)」にへらー


後輩「(おっとっと。うーん、最近、先輩のことを考えるだけで表情筋が簡単に緩んでしまいますね…由々しき事態です)」


後輩「(……あー。やっぱり私、先輩のこと好きなんだなあ……)」にへらー


?「ちょっと、そこのあんた」


後輩「へ……? 私ですか?」


?「そうよ。あんたが後輩さん? にやにやしながら歩いちゃってさ、気持ち悪い」


後輩「うええええ」


後輩「(み、見られちゃってましたか……恥ずかしい)」


後輩「(え? ていうか、どうして私の名前……)」


後輩「えーっと、き、君は誰かな? どこかで会ったことあったっけ」


?「初対面よ。そんなことよりあんた、お兄ちゃんと別れなさいよ。お兄ちゃんにつきまとう毒虫め」


後輩「お兄ちゃん……? あ、もしかして君、先輩の妹さん?」


妹「そうだけど。何? 文句でもあるの?」


後輩「文句はないけどさ……」


妹「とにかく、お兄ちゃんとはさっさと別れなさい! それだけ! じゃあね!」タッタッタ


後輩「あ、ちょっと……」ボーゼン


後輩「……行っちゃった。なんだったんだろう」










〜翌日、帰り道〜




後輩「……ということがあってですね」


男「あー……それはウチの妹だね、間違いなく」


後輩「もう少し大人しい女の子を想像していましたよ……」


男「ごめんごめん、帰ったら言い含めておくよ。まったくもう……行動力があるのはいいことなんだろうけどなあ。困ったもんだ」


後輩「先輩と足して2で割ればちょうど良い感じでしたねえ」


男「あはは。よく言われるよ__」




妹「こらーっ!」




後輩「⁉︎」ビクッ


男「⁉︎」ビクッ


妹「あんた! お兄ちゃんと別れなさいって言ったじゃない! 何一緒に帰ってるのよーっ!」


後輩「え、ちょ、あの……」


妹「いい? 私はお兄ちゃんが大好きで、お兄ちゃんは私が大好きなの。相思相愛なの。あんたが入る隙間なんて無いんだから!」


後輩「えっ。先輩、まさかそんな……」


男「誤解だ! こ、こら、妹、お前なあ……」


妹「お兄ちゃんも! なんで浮気なんてしてるのよ! 将来私をお嫁さんに貰ってくれるって言ってくれたじゃない!」


男「いつの話だ! じゃなくて、二人ともまずは落ち着いてくれえええ!」










〜男自宅〜




後輩「……お邪魔しまーす……」


妹「さっさと帰りなさい」


男「黙って。あ、後輩ちゃんはそこに座ってて。今お茶を淹れてくるから」パタパタ


後輩「あ、お気遣いなく……」


妹「…………」ジー


後輩「…………(うう、気まずい)」


妹「ねえ、あんた」


後輩「はっ、はい」


妹「敬語はいいわ。あんたのほうが歳上だもの」


後輩「へ? ……あ、うん」


妹「あんた、なんでお兄ちゃんと付き合ってんのよ」


後輩「何でって……好きだから。妹ちゃん風に言えば相思相愛だから」


妹「はっ」


後輩「(鼻で笑われた……)」


妹「お兄ちゃんのことだから、どうせ清く健全なお付き合いでもしているんでしょう?」


後輩「……まあ、そうだけど」


妹「あたしは毎日お兄ちゃんと寝てるよ?」ドヤ


後輩「なっ…!」ガタッ


男「淹れてきたよー……うわっ」


後輩「先輩! ど、どういうことですか、近親相姦は立派な犯罪ですよ⁉︎」


男「はえ?」


妹「嘘じゃないよね、お兄ちゃん。私たち、毎日一緒に寝てるもんねー」


男「なんでお前はそういう誤解を招く言い回しをするんだ! 違うよ後輩ちゃん、ウチには布団がひとつしかないの! 子どもの頃からの習慣なの! やましいことは一切無いって!」


妹「私はいつも、お兄ちゃんに女の子にして欲しいと思ってるよ……?」


男「そういうことは軽々に言うものじゃないよ! 後輩ちゃんも落ち着いて!」






ギャーギャーワーワー





男「……えー、こほん。では改めて。こちらが妹。僕の妹です」


後輩「こ、こんにちは、妹ちゃん」


妹「ふんっ」


男「で、こちらが後輩ちゃん。僕の彼女です」


後輩「……」///


妹「もー! 何よそれ! お兄ちゃんには私がいるじゃない!」


男「お前もそろそろ兄離れしろって……」


妹「お兄ちゃん以上に格好良い人なんていないよ!」


後輩「あ、私もそう思います」ノ


妹「……」ギロ


男「やめい」ペシ


妹「あうっ」


男「後輩ちゃんも、あんまりこいつを煽るようなこと言わないで……」


後輩「ふーんだ。私だって先輩が大好きなんです。たとえ先輩の妹さんであろうと、先輩を渡す気はさらさらありません」ギュー


男「ちょ、後輩ちゃん?」


妹「はあ? 私だってお兄ちゃんを誰かに譲る気なんて皆無だし。ていうか後輩さん、私がお兄ちゃんと同棲しているってこと忘れてない? アドバンテージはこっちにあるんだから」ギュー


男「妹まで……」


後輩「アドバンテージっていうなら、兄妹っていうのは大きなディスアドバンテージになるんじゃないかな? 兄妹では結婚できないっていう法律を知らないの?」


妹「子どもを作らなければいいだけの話でしょ? そんなこと言うなら__」ギャーギャー


後輩「そっちだって__」ギャーギャー


男「……誰か助けてくれええー」












後輩「……すみません、わざわざ送っていただいて」


男「夜も遅いしね……ていうか、あんなに熱くなる後輩ちゃんも、けっこう新鮮だったよ」


後輩「それもすみません……でも、妹ちゃんのこと、少し気に入っちゃって」


男「え?」


後輩「裏表なく、思ったことはスパっと言ってくれますし。それに不躾なようでいて弁えるところではキチンと弁えています。歳上を敬う気持ちもあって、こちらを貶めるような物言いは一切しません。お兄ちゃんの影響ですかね?」


男「……あはは。後輩ちゃんはやっぱり大人だなあ」


後輩「ふふ。また今度、お菓子でも持ってお邪魔します。将を射んと欲すればではありませんが、妹ちゃんとは仲良くしておきたいですから」


男「よろしく頼むよ……できれば兄離れをさせてやってくれ」


後輩「あはは。あ、到着いたしました」


男「ん。じゃあ、こんなところで」


後輩「……今晩も妹ちゃんと一緒に寝るんですよね?」ジトー


男「う゛っ……えーっと、今度の休日にお布団を買いに行きます、はい」


後輩「もう。先輩は私の彼氏なんですから、あんまり私以外の女の子と仲良くしちゃだめですよ?」


男「重々承知しております」


後輩「よろしい。それでは、おやすみなさい、先輩」


男「おやすみ、後輩ちゃん」

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