トラックに撥ねられて転生されたと思ったら転生された先でも撥ねられた

アラミズオサム

第1話

 僕はしがない三十路手前のサラリーマンだ。今は愛車……と、いっても自転車だが、それに乗って、会社に向かっているところである。


「あ~、核でも落ちてこないかな~」


 気分は最悪だった。


 先週の金曜、僕は仕事で失敗し、同僚たちに多大な迷惑をかけてしまった。ただでさえ、僕は成績もよくなく、皆から疎まれている存在。皆からの評価は地の底に落ちてしまっただろう。上司にももちろんこっぴどく怒られ、ただでさえ憂鬱な月曜の出勤がいつにもまして憂鬱である。ついつい、そんな一言も出てきてしまう。


 会社前の横断歩道にさしかかった。ここではいつも長時間の信号待ちをさせられるうえ、通行人も多いのだが、今日はどうしたことか、信号は青だし、横断歩道を他に渡る人は誰一人としていない。


 普段の僕なら喜ぶことなのだろうが、今は勝手が違う。スムーズに通れるってことは、それだけ、会社に早く到着してしまうってことだ。


 僕は一層陰鬱な気分になった。どうやら、何か奇跡でも起こって、会社に行かなくてすむなんてことにはなりそうもない。覚悟を決めるしかないようだ。


 ……でも、やっぱり行きたくないなあ。なんでもいいから、厄災でも起きないかしら。


 心ここにあらずと言う具合で、横断歩道の上を自転車で通っていた、その時。


「キャーッ、危ない!」


 通行人の、若い女性の悲鳴が上がった。


 その声にハッと気づいて、横を見る。すると、トラックのフロント部分が、僕の目と鼻の先にあった。


 信号無視のトラックが、俺の渡る横断歩道へ猛スピードで突っ込んできたのだ。


「え……」


 次の瞬間、世界が全て歪むほどの衝撃が体を襲い、目の前がブラックアウトした。痛みも何も感じず、周りの喧騒がしだいに遠ざかっていく


 ……


 …………


 僕は……死んだんだな。

 

 はは、願いは叶ったけど、だけど、これじゃあ……もう……こんなのって、酷いよ……。


 あとは、このまま意識が闇に消えるだけだ。そう思った。しかし、不思議なことに僕はいつまで経っても死ななかった。


 それどころか、一度水の底に沈んだ体が、再び浮き上がるかのように、一度消えかけた意識が、はっきりと戻り始めたのだ。


 風が体をそよぐ感覚や、鳥の鳴き声が聞こえてくる。体の下にあるのは、土の匂いだ。


 僕は体を起こした。


 どこだ、ここ?


 辺りを見ると、ビルや横断歩道や行き交う車の姿はない。どうやらここは、森のなかの草原のようだ。


 体を見てみる。怪我ひとつない。だけど、何か変だ。僕が着ている服は、スーツじゃなくて装飾の散りばめられた民族衣装みたいなものに着替えさせられているし、体が縮んでいるように見える。


「一体、どうなってるんだ」


 立ち上がってみると、なにやら体が軽い。


 近くに澄んだ綺麗な池があったので、そちらに近づき、水面を覗きこむ。すると、そこには、あるはずのない、美少年の顔が映っていた。


「う、うわぁっ! なんだこれ」


 髪は金髪になっているし、体は子供にまで小さくなっている。


 なんだこれ、まさか、これが噂に名高い転生って奴……?


 ……きっとそうだ。そうに違いない。


 ってことはだ。何かしら、魔法やら能力やらが使えるはず。


 僕は早速呪文を唱えたり、かめ○め波などを色々と試してみるが、うんともすんとも何一つ起こらない。


 おかしいな、まさか、転生だけでチート能力とかは何もないのだろうか。


「……ま、それでもいいか。なんかイケメンになれて、しかも若返ったし、それだけでもラッキー」


 能力はすっぱり諦め、この世界の探索のために歩き出した。しばらくすると、道を見つけ、そのとおりに歩いてみる。すると、巨大な堀に囲まれた、町が見えてきた。


「城下町みたいだ。入ってみよう」


 どうやら、中世ヨーロッパ的な世界らしい。華やかな格好をした人々が歩いており、道路の脇には果物などを打っている露天が並んでいる。ときおり、剣を脇に刺した騎士風の男や、貴族の物と思わしき馬車が闊歩しており、皆はそれらに近づかないように遠巻きに歩いていた。


「さて、何しようかな。とりあえず無一文だし、何か仕事を……」


 キョロキョロしながら道を横断しようとしたその時、



「キャーッ、危ない!」


 通行人の、若い女性の悲鳴が上がった。


 その声にハッと気づいて、横を見る。すると、興奮状態の馬の頭が、僕の目と鼻の先にあった。


 暴走した馬車が、俺の渡る道の方へ猛スピードで突っ込んできたのだ。


「え……」


 次の瞬間、世界が全て歪むほどの衝撃が体を遅い、目の前がブラックアウトした。痛みも何も感じず、周りの喧騒がしだいに遠ざかっていく


 ……


 …………


 馬車に跳ねられても人って死ぬのか……。





 気が付くと、僕は横断歩道の真ん中で倒れていた。


「あれ? ここは……会社前の横断歩道じゃないか」


 立ち上がり、体を確認してみる、どこにも傷一つない。直ぐ側には自転車が転がっていた。こちらにも目立った傷はない。


 なんだ、夢だったのか。大方、横断歩道を渡ろうとしたところ、自転車で転んでしまって、白昼夢でも見ていたらしい。


 せっかく魔法と剣の世界での第二の人生の始まりかとおもいきや……ちょっとだけ残念だ。


 青信号が点滅していたので、僕は急いでここから離れようと、自転車を慌てて起こす。


 さ、異世界なんてバカなことは忘れて、会社に行かなきゃ。


 と、その時、


「キャーッ、危ない!」


 通行人の、若い女性の悲鳴が上がった。


 その声にハッと気づいて、横を見る。すると、トラックのフロント部分が、僕の目と鼻の先にあった。


 信号無視のトラックが、俺の渡る横断歩道へ猛スピードで突っ込んできたのだ。


「え……」


 次の瞬間、世界が全て歪むほどの衝撃が体を襲い、目の前がブラックアウトした。痛みも何も感じず、周りの喧騒がしだいに遠ざかっていく


 ……


 …………


 う~ん、目覚めると、ここは、中世ヨーロッパ的な城下町の道路……。


 ど、道路!? なんかこの先の展開読めた気がする。 


 慌てて立ち上がろうとしたその時、


「キャーッ、危ない!」


 通行人の、若い女性の悲鳴が上がった。


 その声にハッと気づいて、横を見る。すると、興奮状態の馬の頭が、僕の目と鼻の先にあった。


 暴走した馬車が、俺の渡る方へ猛スピードで突っ込んできたのだ。


「え……」


 次の瞬間、世界が全て歪むほどの衝撃が体を襲い、目の前がブラックアウトした。痛みも何も感じず、周りの喧騒がしだいに遠ざかっていく


 ……


 …………


 やべえ! パターン入った!


 会社の前の横断歩道だ! 逃げろ! また轢かれる! 


 僕は倒れている愛車も見捨てて、点滅する横断歩道を猛ダッシュで渡ろうとしたその時!


「キャーッ、危ない!」


 通行人の、若い女性の悲鳴が上がった。


 その声にハッと気づいて、横を見る。すると、トラックのフロント部分が、僕の目と鼻の先にあった。


 信号無視のトラックが、俺の渡る横断歩道へ猛スピードで突っ込んできたのだ。


「え……」


 次の瞬間、世界が全て歪むほどの衝撃が体を襲い、目の前がブラックアウトした。痛みも何も感じず、周りの喧騒がしだいに遠ざかっていく


 ……


 …………


 う~ん、中世ヨーロッパ的な城下町の道路……。


 と、そこへ馬車(略)


「キャーッ(略)」


 通行人の、若(略)


 その声に(略)


 暴走し(略)


「え…(略)


 次(略)


 ……


 …………


 う~ん。


「って、いい加減にしろ! なんだ、このゲームのバグみたいな輪廻転生は!」

リーマンの姿でそう叫びながら飛び起きると、今回はいつもと違う場所。何もない真っ白な空間の中だった。


「大丈夫ですか?」


 ふいに後ろから話しかけられたので、振り返ると、そこにはスーツに七三分けの中年のオッサンが立っていた。


「あんた誰ですか」


「神様です」


「髪黒いし、スーツ着てるじゃないですか」


「最近の人は身なりで判断するから、よくあるイメージの姿だとホームレスと間違えられて、なかなか信じてくれない人がいるんですよ。私だって、好きでこんな格好してるわけじゃないです。髪が黒いのは、職場で染めるのが禁止されたからです」


「普段は染めてるのかぁ」


「まあまあ、それはそれとして、全て見てましたよ。あなたはちょっと気の毒すぎる。そこで、救済措置をしてあげようと思いましてね。特別に何か願いを叶えてさし上げましょう。あ、でも一つだけですよ」


 なんとありがたい。人生の大逆転ホームランだ。


 捨てる神あれば拾う神ありとはまさにこのことである。


「本当ですか? 僕、無神論者なんですけど、いいんですかね?」


「まあ、心象悪いですけど、特別にいいでしょう。さ、なんでも願いを一つだけどうぞ」


 やったね。


 ならば、叶えてもらう願いはただひとつしかない。



「じゃ、車に跳ねられない能力ください」

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トラックに撥ねられて転生されたと思ったら転生された先でも撥ねられた アラミズオサム @jyujyu

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