グリモワールアナーボ

シンク

第1話 御守り

「母さーん。町に行くけど何か不足してる物があったら買ってくるよー。」

今日は月に1度町に農作物を売りに行ったり、日用品を買いに行く日だ。

秋は穀物を大量に牛に積んで行くので、朝早くに出発しなくては帰りが夜になってしまう。

それ程辺鄙な、周囲に人の住んでない土地に僕たち家族は暮らしている。

「ソウト。服を買ってらっしゃい。貴方の服、ボロボロじゃない。」

母さんは笑顔で僕の元に駆け寄ってきた。

「それと、はいこれ。御守りよ。貴方一人で町に行くのは初めてだから、私心配で仕方ないの。無事に帰ってこれるように、ね?」

イタズラっぽくウインクしてくる母さんは若さに溢れている。人をいつまでも子供扱いしてくるのは、ちょっとムッとくるが。

「もう!大丈夫だって。僕だっていつまでも子供じゃないんだよ?それじゃあもう行くからね。」

すでに荷物を載せておいた牛を引き連れ、僕はずんずんと歩いていった。握り締めた御守りが仄かに熱を帯びていた気がした。


全ての穀物を売り、新しい服を一着買ってようやく家に帰った時は、もう空が紅く染まっていた。

牛を離れの小屋に繋ぎ、1日の労を労ってやる。

てっきり父さんが山から戻っていると思っていたが、薪が増えてない。

漠然とした不安が首をもたげる。

ダッシュでドアまで向かい、そのままの勢いで開けはなつ。

いつもの光景に安堵しかけた時、サラサラと粒子が飛んでいくように変化していった。

崩壊した屋根。真っ二つに折れた柱。血塗れになり倒れている母さん。

「あ、ああ・・・・・・。うわぁぁぁ、ぐがぉ。」

絶叫が一転、血とともに嗚咽が一つ漏れ、僕の喉元から剣が生えた。

「五月蝿い奴は嫌いなの。」

剣を握っていたのは幼い、黒衣を纏った少女だった。

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